第2話

 例えば、「シャックリ」が止まらなくなる時って、ありますわよね? 不意に出始めたシャックリに不快感を覚えながら早く止まらないかと願う。でも、そのシャックリが出始めた時と同じように急に止まる……そんなこともよくあること。その時、妙な「物足りなさ」を感じたことはありません? 定期的に胸を苦しめていたシャックリになれ始め、そろそろ出るはずと思って身構えていたシャックリが出てこない……それは願っていたことなのに、物足りなさ、あるいは寂しさを感じてしまう奇妙な感情……そんな経験はおありかしら?
 人は肉体的にも精神的にも、「苦しい」と感じることから逃れるように行動をする生き物。誰だって、嫌な思いはしたくありませんものね。でも、苦しみはどうしても味わってしまうもの……それを少しでも和らげるために、人はその苦しみを受け入れ、「苦しくないもの」「当たり前のこと」と認識しようとする場合があります。あるいはもっと先の感情……そう、「快楽」へと昇華してしまうことも。
 苦痛を快楽へ。それは特殊な性癖です。しかし誰にでも、そのような性癖を持つ可能性があるのです。人は、苦痛を快楽へ、痛みを心身に受け止めることをむしろ望むように自分自身を騙し続けることの出来る生物だから……。
 苦薬、という「媚薬」があります。飲むと全身に痺れと痛みが広がる薬で、その効能から通常は「毒薬」「劇薬」と認識されている薬。ですがこの薬は媚薬にもなる……特に一部の人々にとっては。この薬を用いて拷問を行い、この痺れと痛みに慣れさせ、そして苦痛が平常に、そして快楽へと……そのように「調教」していくために。そんな人達にとって、この薬は媚薬であり麻薬。苦痛に依存していく麻薬なのです。そしてこの薬を最も求めるのが、苦痛と苦悩の女神ローエを信仰する邪教徒達。
 私達が居を構える金色の7番街は、ローエ信者が多く集う街でした。様々な「金」が集まる街であり、その金に人々が群がり、そして人が集まることで金もまた集まりだし……そうして大きくなった街。金が全てで、その為ならば合法も非合法も問わない……表向きは商人の街ですが、実体は暗黒街。だからこそ、邪教徒も集まり苦薬も商売のために集められる。更に言うならば、自分達の快楽……つまり苦痛と苦悩を一方的に与えられる相手として買われる奴隷も、この街では容易に手に入る。ローエ教団にとってこれほど都合の良い街はないのです。
 ところが、この街にあったローエ教団の隠し教会は一人の「裏切り者」と、その者が新たに信仰する男、その男が従える美しき悪女達によって信者ごと奪われました……そう、この私メイデン・オブ・ウィップと呼ばれる司祭……今では自ら立ち上げた新興宗教の司教を勤めている、私セイラによって。ですから当然、ローエ教団は元司祭の裏切り者をけして許さず、私の苦痛と苦悩を女神に捧げることを誓っているのです。常に命を狙われる立場……ああ、狙われているのだと思うと本当にゾクゾクしてしまいます。身体が震えてしまいますわ……この悦びに。
 しかし私はそれほど緊張なく日々を過ごしております。と申しますのも、私を狙うローエ信者達は私へ容易に近づけないから。私によって「回心」した元ローエ信者達や闘技場の奴隷戦士達、他にもこの街に住まう様々な人達が私とレイリー様、そして眷属達を守っておりますから。あらゆる手口で私に近づこうとしても、あらゆる刺客を送り込んでも、私が目にする前に何らかの処置……ええ、本当にあらゆる「処置」がとられてしまいますからね。ですから私の身は安全……ちょっと、面白味に欠けますわね。
 そんな事を考えていた私には、慢心があったと言わざるを得ませんね。少々緊張感が足りなかった……もっとゾクゾクするこの悦楽、「敵意」に対し敏感になるべきだった……今更、後悔しても始まりませんわ。
「クックックッ。かのメイデン・オブ・ウィップも、「こうなって」しまえば無様ですなぁ、クックックッ……」
 口髭を生やした男が、その髭を震わせながら下卑て不快な笑い声を漏れ出している。不愉快極まる現状に、私は顔を歪める。けれどこうなってしまったその現状、そこへ導いたのはこの男というよりは私自身……。
「我らが仇敵となった鞭の乙女が、まさか自ら乗り込んでくるとはな……貴女と面会するだけでも我らでは困難であった、にも関わらずそちらから起こしいただけるとは、夢にも思いませんでしたぞ?」
「まったくだ。もしや「こうなること」を期待してノコノコ現れたのではないかな?」
 髭面の男に続いて口を開いた、一言で言えば豚男。その豚が私の首に繋がられた鎖を引きながらブヒブヒと笑い出す。釣られるように、髭面の男も、その他私を取り囲む他の男達もニヤニヤと笑い出す。
 不快極まりない光景。吐き気すら催してしまいます。でも……こうなってしまった責任は、この醜い者達が申す通り、私にあるのだから……自分自身にも腹を立ててしまいます。
 下劣なこの者どもは、お察しの通りローエ信者達。それも司祭クラス……愚かにもローエの教えに陶酔していた頃の私と同格、あるいはそれ以上の身分に就いていた者達。おそらく今でもその地位、あるいはそれ以上の地位に就いているのでしょう。こんな者達がここ……教団の調教部屋に集まっている。捕らえた私を笑うために。
 そう、私は愚かにもこんな者達に捕まってしまいました。そして教団の調教部屋……教団内ではあくまで「説教」部屋なのですが……こちらに連れてこられ、X字の磔台に両手両足を広げる形で縛られております。もちろん、何も隠せないよう首輪とそこに繋がる鎖だけが私の身につけている物という出で立ち。
「さて、こやつをどうしてくれようか……」
 醜い顔を歪めていた者達の一人、禿げた男が笑い声の引いていった室内に声を響かせる。
「ヒヒ、当然女神への供物として苦痛と苦悩を味わわせねばなぁ。いっそ四肢を切断してしまうかぁ? ヒッヒッヒッ」
 甲高い声で、歪んだ顔のハーフリングが当然のことだと主張している。
「待て。確かにその通りだが、こやつは元々我らと同じ女神を信仰していた裏切り者……どんな苦痛も苦悩も、この女には「褒美」となってしまうだろう」
 そう、私にとって苦痛も苦悩も悦び。これからどんな拷問が待ち構えているのかとゾクゾクしておりましたのに……髭が余計な事を口走ります。四肢を切断し、それを再び結合させ、回復の後に又切断……これはローエ教団が好む「拷問調教」のやり口。その快楽を受けられると期待しておりましたのに、残念ですわ。
「ならばどうする? 捕らえただけで拷問をしないのであればなんの面白みもない……」
 豚の疑問に、集まった司祭達がしばし悩み始めております。普通ならば、即処刑という選択肢もあるでしょう。ですがローエ教団にとってその選択はあり得ない……苦痛無き処刑は女神への冒涜ですから。心身に何の痛みも伴わない安らかな死は、ローエが最も忌み嫌う愚行なのです。そのような理由で、教団では現世からの逃避を目的とした自殺も禁忌。けれど安らかな眠りに就くことも許されませんから、苦しみを感じられる内に自殺する、そんな歪んだ教義があるのですが……まあ今となっては「無駄な知識」ですわね。
「だったら……この裏切り者を飼い慣らしてみようか?」
 豚が舌なめずりをしながら提案する……ああ、なんて醜い顔なのでしょうか。垂れる涎を拭う仕草がまるでオーク……この嫌悪感、顔を引きつらせながら私はゾクリとくる嫌悪感に鼓動を少し早めてしまいます。
「こやつにあえて苦痛と苦悩を与え、その虜とする……再び我らが女神を崇拝したくなるほどになぁ」
「なるほど、それは一興だな。そうしてこやつに今の主を裏切らせ、こやつとその主に苦悩を与える……それは良い、良いな……」
 私にレイリー様を裏切れですって? そのような発想必ずしてくると思いましたけれども……この言葉ばかりは、苦悩による悦楽を感じることなく怒りだけが湧き上がります。そう、私はただ闇雲に苦痛や苦悩を与え、受け入れ、悦に至るような下劣なこの者達とはもう違うのです。私はレイリー様によって生まれ変わった眷属。信じるものは女神ではなく、レイリー様。そのレイリー様を私に裏切らせる……さて、こんな者達がその言葉通り実行しこの私を「飼い慣らす」なんて、出来るのかしら?
「ククッ、そうと決まればまずは「コイツ」だな……さあセイラ、コイツを飲み干して貰おうか」
 儀式用のカップに並々と注がれた紫の液体。毒々しいその色と、ツンと来る刺激臭は……私も愛飲していた、苦薬。拷問はまずこの薬を無理矢理飲ませるところから始まるのがローエ式。髭は苦薬を入れたカップを私に飲ませようと薄ら笑いを浮かべながら近づきます。
「まあ待て。そのまま飲ませては面白くない」
 私に近づく髭を、ハゲが言葉で立ち止まらせます。髭よりももっと顔を歪ませながら。
「そのまま「上の」口から飲ませても面白くはない。どうせなら「下から」飲ませたらどうだ?」
「ヒャッハッハッ、そいつぁいい。よし、俺が「アレ」を用意しよう」
「ならばこのままではやりづらいな……ほらセイラ、跪け!」
 私の拘束を解いた髭が、首に繋がられた鎖を思い切り引っ張り、私を無理矢理四つん這いにさせます。そして後ろ手に又拘束され、頭を地べたへ力強く押しつける。膝を着いて臀部を突き出すような格好にさせられてしまいました。こんな屈辱的な格好、そしてこれから行われるであろう拷問……僅かに、私の太股に内から出た雫が伝わっていくのが判ってしまいます。
「ヒャハ、セイラぁ、たっぷりと御馳走してやるぞぉ、ヒハハハハ!」
「ひぐぅ!」
 チビの言葉が言い終わらぬうちに、私ははしたなく声を上げてしまう。なんの下準備もされぬまま、私の菊座に異物……シリンジの先端を押し入れられてしまいました。むろん、道具の中には浣腸液ではなく苦薬……浣腸液を腹へ注ぐように、苦薬を下から私の中へと押し流すつもりなのです。
 強引に押し入れられた異物によって、菊座の肉壁に刺すような痛みが。その痛みが熱くヒリヒリとしたものに変わる間もなく、冷たい液体が流れ込んでくる……コップ一杯の水ですら口から一気に飲み込むには少々苦しいもの。それを下から一気に流し入れられては……胃から押し上げられる空気が口から嗚咽と共に吐き出され、私は「苦しみ」を注入されてしまいました。
「どうじゃ? 懐かしい苦薬の味は……おっと、舌を通さずに飲み込ませては、味もなにもなかったなぁ」
 つまらないジョークに、それでも室内にはゲラゲラと下らない笑い声。私はといえば、苦笑い。ええ、文字通り苦笑い……頬を引きつらせ、目蓋を強く閉じ、声を上げるのを必死で堪えておりました。
 まずは腹痛。直接苦薬を流し込まれた胃と腸に、鋭い痛みが広がります。刺さるような、内側から殴られるような、鋭くも鈍い、内臓特有の痛み。外傷なら傷口を押さえるなど、どうにか痛みを抑えようと身体が動くものですが、内臓の痛みは外からではどうしようもなく、ただ耐えるだけ……拘束され不自由ながらも、私は激しく身をよじらせ腹痛に耐えております。
 そして痛みは腹部から徐々に広がっていきます。全身の骨がきしむように痛み、ビクビクと筋肉が痙攣を起こす。噴き出した汗がすぐに乾いてしまいそうなほどに、内側から肌が焼かれていく。息をするにも口も喉も、肺さえも、まともに活動してくれない。悲鳴も上げられずただ地べたに寝転がり動かせるだけ身体を動かし痛みに耐えるその姿……のたうち回るとは、まさに今の、無様なこの私の姿を指すのでしょう。
「苦薬に慣れ親しんだお前でも、「新薬」はキクようだなぁ」
 新薬……そう、これが……この新たな苦薬こそ、私がここを訪れた理由。
 ローエ教団は金色の7番街を追い出され、街で苦薬を入手するのが困難になったことから、まったく違う入手ルートを模索していたようです。そもそも苦薬自体教団が生み出した麻薬ですから、麻薬そのものは自分達で作り出せば良い話。事実街の中に隠し教会を建てたのも、製造工場を兼用するためでもありました。ただ苦薬の材料となるサソリや蛇の毒、あるいは毒草などは原産地もバラバラで手に入りづらい物ばかり。そのような物を入手するのに教団は金色の7番街を活用していたに過ぎません。ですから彼らは流通ルートに頼らない、材料から自給自足できる新薬を開発してしまえば問題解決となる、そのように考え実戦したのです。しかし……それでは、私達の街で得られる「あがり」が減ってしまいますでしょう? それは街を収める私達にはあまりよろしくない話なのです。
 もちろん、彼らとて無警戒無計画に「苦薬工場」となる隠し教会を建てるはずはありません。そうでなければ、今の状況はあり得ませんから……。
「クックックッ、裏切り者が真っ裸でよがっておるわ」
「ああ、苦しいだけでなく事実よがるほどに気持ち良いんだろう」
「鞭の乙女も究極のドMだったということだなぁ」
「しかもこやつは低俗な化け物に成り下がった身。これだけの男に裸体を見せ付けながらよがる、変態よぉ、クケケケケ」
 言いたいことをほざきながら、変態教団の男達は私を見下ろしております。見下した、それでいて熱を帯びた視線……私は男達の視線に取り囲まれながら、全身を紅潮させ肌を汗で濡らし、腰をくねらせ足を何度も組み直し、股を擦らせ拘束された腕を身体ごと大きく揺さぶります。詰まりながらも熱い息を漏らし、その苦しさから心の鼓動も早まる。いえ、早めているのは何も苦しさばかりではありません……。
「ヒヒ、さてそろそろ「拷問」をはじめようかぁ? それとも「調教」かぁ? まあどちらもこやつには変わらんな、イヒヒヒヒ」
 スパンッ、と軽快な音が響く。チビが身の丈に合わない鞭を床に打ち付けた音。チビには長すぎるその鞭を、しかし器用に使いこなしています。この男はよほど鞭が好きなようですわね。
「さあ、良い声で鳴いてくれよ? ヒヒヒ」
 バシッ、とまずは私の腹に一打。外側から打たれた痛みに、私は思わず背を丸めてしまう。鋭い痛み、そして後からジワジワと来る熱い痛み。この後を引く痛みが内側からの、薬による痛みと相まってジンジンと燃えるよう……この痛み、この痛みが……。
「ハァ、ん、アァ……」
「ヒハ、一発で漏らしやがったぞこの女!」
「なんたることよ。教徒達が憧れた、誉れ高きメイデン・オブ・ウィップが鞭打たれて小便か。無様よのぉ」
「裏切ったとはいえ、苦痛の快楽からはもはや逃れられぬようだなぁ。このまま苦しみ、もがき、我らの雌犬に成り下がるが良いわ!」
 罵倒の言葉を浴びせながら、次々に振り下ろされる鞭。けなされ、蔑まれ、弄ばれ……ああ、私はなんて惨めなのでしょう。あまりにも惨めで……頭の中が真っ白になってしまいます。言葉と鞭が、痛みと苦しみが、私から思考を奪っていく。ただただ快楽の中へ中へと……真っ白な悦楽の沼へと思考が沈められてしまいます。
 私はただ、痛み苦しみという快楽に酔いしれるだけ……確かにこれを「拷問」とは呼べないでしょう。しかし複数の男が裸の女性を取り囲み、闇雲に鞭打ちする。その光景を第三者が見れば拷問にしか見えないでしょう。結局は視点、立場の違い……痛み苦しみに全身を震わせ悦ぶ女。そんな女を見て口元をつり上げる男達。その男達を客観的に見る者……は、この場にはおりませんが、それぞれの視点で感覚も感情も、異なっているでしょう。ただ私と彼らには共通しているものがある。苦しむこと、苦しめることに、性的な興奮をする変態だということだけは。
 不意に、私の髪を掴み持ち上げる者がいます。どうやら豚のようです……その豚は強引に両手で私の頭をガッチリとつかみ、己の股間へと押しつけてきます。そこには、露出し肥大した……ええ、豚にしては肥大させた臭い肉棒が。
「うら、うらぁ!」
 グイグイと、ただ喚きながら私の頬に肉棒を押しつける豚。何をしろと命ずることもありませんが、して欲しいことは明確……私は好き勝手に頭を動かされながらも口を開き、どうにか豚の肉棒を口へ含む。するとどうでしょう。豚はただただ私の頭、そして自分の腰を前後にカクカク動かし始めたではありませんか。私をたんなる自慰の道具にでもしているつもりなのでしょうか。こんな扱いを受け、私はキュンと膣が締まるのを自覚してしまいます。
 無理矢理口内へ突き込まれる肉棒。口の中に入れているはずなのに、生臭い特有の匂いまで立ちこめております。そしてそんな匂いを漂わせている「元」が、肉棒にこびり付いている。私はそんなカスを舐め取るかのように舌を這わせます。豚はブヒブヒと鳴きながら相変わらずカクカクと同じ動きをするだけ。テクニックも何もない、ただ乱暴に女を使った自慰にふける獣。ですが道具にしているのは彼だけ……相変わらず、私の背中には鞭が飛んできます。
 背中が燃えるように熱い……もう痛みばかりで感覚がかなり麻痺しておりますが、おそらく腫れ上がった背中は幾つもの擦り傷切り傷が出来、出血しているでしょう。それでも構うことなく、鞭が振り下ろされます。全身を襲う苦薬の痛みも、長時間経った今では「平常」になりつつあり、純粋な鞭の痛みを分けて感じられます。ああ、この痛み、鞭を振るう音、ああ、たまりません……。
「この、このっ! 我らを裏切りおって、どれだけの同胞を殺めた! 女神の報いを、報いを!」
「ん、あっ! はあ、いい、もっと、もっと叩いて、んぁあ!」
「止めるな! 舐めろよ、舐めてろよぉ!」
 声を出すために止めたイラマチオ。それが気に入らなかったのか、豚は血眼になったその瞳で私を見下ろしながら叫きます。そして再び動き出す腰。むしろ豚の方が自慰をするオモチャのよう。
 ええ、私は声を出した……痛みは当然まだ続いておりますが、身体がそれに慣れてきたため、声を出すくらいは造作ない。もっと言えば、既に身体は自分の意思で動かせます。もちろん拘束されている腕は無理ですが。その事に、「拷問のプロ」達はどれほど気付いているのでしょうね。
「くそっ、お前なんぞ、お前のような女なんぞなぁ!」
 気付いているのかどうか判りませんが、髭は私が思っていた以上に痛がり苦しむ様子を見せないのに苛立ったのでしょう……鞭打ちを続けている同胞達に構わず、私に近づき腰を掴んで持ち上げます。私は豚のイラマチオを続けながら腰を浮かせ、起ち上がります。
「お前なんぞ、お前なんぞぉ!」
 同じ言葉を繰り返しながら、髭は腰をピタリと私へ……菊座に肉棒を付き入れながら密着させます。一度苦薬を入れるために異物を入れたとはいえ、いきなりそこは……いいえ、私の菊座はもう準備万端でございました。体中から発せられた汗、湧き上がる高揚、直接指などを入れられずとも、出口であるはずの入口はその門をとうに開いておりました。それにしてもいきなりそこからとは……ふふっ、髭は「そっちの趣味」もあるのでしょうね。ええ、ある意味において、「男色」を受けてしまう側は「拷問」になりますものね。
 豚同様、ただただ乱暴に振るわれる腰。もはや、相手を苦しめるとか見下して道具扱いにするとか、そのような意思があるようには思えません。いけませんわね、ローエ信者ともあろう者達が。その点、苦しい姿勢の私にまだ鞭打ちを続けている男達は……あらあら、こちらもダメですわ。ハゲは鞭を打ちながら自慰を始めてしまっております。チビは私の脚にしがみついて太股を舐めながら腰をカクカク……あなた達はローエ教団の司祭ではなくて? ホント、だらしないわね……もっと楽しませてくれると期待しておりましたのに。
 そう、こうなることはもちろん想定内。新しい苦薬についての調査も目的ではありますが、そんな調査はあらかたエマさん率いる盗賊ギルドによって終わっております。その結果を基に、私が自ら出向き……主レイリーに代わり「悪党狩り」をしているまで。ただ折角ですから私を目の仇にする連中から受ける「スリル」を楽しみたかった、それだけだったのですが……はぁ、もっと彼らの「敵意」をゾクゾクするほどに感じるべきでした。上手く行きすぎて面白味に欠けます。まあ、こうしてしまったのも私の責任なのでしょうけれど……彼らを「過大評価」しすぎた私の、ね。
 そもそも、私を「飼い慣らす」なんて発想をしている段階で、彼らは私に「魅了」されていたと言えるでしょう。途中彼らが言っていたように、本気で苦しめるのならばレイリー様を責めるような……私の四肢をバラバラにして送りつけるとか、そのような方法が最も望ましかったはずです。しかし彼らは「私に」執着した。私をどうにかして悦びを得たいという思考に偏った……苦痛と苦悩をローエに捧げることよりも、私を苦しめることで得られる己の快楽を優先した。その時点で彼らはもう負けていたのです。
 そして止めは、今この部屋に満ち足りている淫魔香。苦薬を注入され私が「快楽」を感じた時点で、私の膣からあふれ出た愛液……半分淫魔である私達眷属の特徴である、媚薬効果のある愛液。その香りを彼らは嗅いでしまった……もう彼らには、性的なことしか頭にないはず。ただ彼らの性行為自体が拷問そのものでしたから、そのまま行為が継続されたかのようになっただけ。それすらも、もう続かないのですから困ったものです。
 あら、落胆している私に追い打ちを掛けるように……豚が勝手に逝ったようです。早漏とはもうしませんが、それにしてもちょっと早いですわね……でも回復も早いようで、まだまだ豚の陰茎は大きなまま。そして出しながらも腰振りは止まりません。
「ヒヒ、イヒヒヒヒ」
 元々狂ってるような印象を受けておりましたが、チビがただただ笑いながら私の脚に股間をなすりつけております。たらりと垂れる私の愛液を太股ごと舐めてますから、もう彼は「出す」ことしか考えられなくなっているでしょうね。私は豚の臭い精液を飲みながら、この状況に……飽きてしまいました。
「いい加減におし、この豚野郎!」
 私は豚の陰茎から口を離すと、そのまま頭で股間を思い切り叩いた。豚は股間を押さえる間もなくよろめき、そのまま後ろへ倒れ込む。ブーブー言いながら股間を押さえ丸くなっている姿は、本当に豚のようだわ。
「貴様……」
 私の反撃に、ハゲが鞭と陰茎を握ったまま立ち尽くし驚いている。だけどシッカリと反応を示したのはハゲだけのようね……豚はまだうずくまってるけどあの様子じゃ理性はなさそうだし、私の後ろで腰を振っている髭や脚にしがみついているチビのどこに理性を感じられるかしら?
「ああ、そういえばあなたは「実力」で司祭にまで登り詰めたんでしたっけ」
 顔に見覚えがあった……ということを、おぼろげながらに思い出しました。名前はすっかり忘れたままですが。
 そもそもローエを信仰しようとする者達は、元々SM的な性癖があった者か、強引にそんな性癖を叩き込まれた者がほとんど。宗教によくある「神の声に導かれて」といった信仰の目覚めを体現した信者はほとんどおりません。そしてこんな性癖の持ち主はその性癖を満たすため己の財力にものをいわせる方も多く……自然と、教団内での地位を金で買うという行為が当たり前になっています。ですがあのハゲや私のように、実力……まあここで言う実力にも色々とありますが……金の力に頼らず地位を手に入れる者も少なくありません。そんな者達と金で地位を買った者達では、同じ司祭でも「鍛え方」が違う、というのは容易に想像できることと思います。事実ハゲはこうしてどうにか理性を残せるほどに精神力を鍛えていたようですし、ゆったりとした司祭服を着ていても良く見ればシッカリと身体を作り込んでいるのが判ります。
 つまり、あのハゲはそれなりにSもMも体験し苦痛と苦悩を女神に献上して力を付けてきた者。心身共に鍛えられた真の司祭。私を取り囲む男達の中で、唯一彼だけが理性を保っていられたとしても不思議ではないのです。ですが……理性を保っているからこそ、苦痛も苦悩も受け続けられる……それは彼にとって「喜ばしいこと」ですが。
「名前はなんといいましたっけ?」
「る……ルーサー……」
 ああ、そんな名前でしたっけ……まだハッキリと思い出せませんが、まあいいでしょう。このハゲ、もといルーサーは名乗れるくらいの理性はあるようです。しかし私を見つめながらの自慰を止められるだけの精神力はないようですわね。もっとも、これだけ部屋中に私の淫魔香が充満している中で、正気でいられるだけたいした精神力と褒めてあげても良いのでしょうが……まあ、それ以前に私の策略を見抜けなかったのは間抜けとしか言い様がありませんけれど。
「ではルーサー、私の拘束を解きなさい。あなただけは、「特別に」可愛がってあげるから」
 実を言えば、この程度の拘束ならば自力でどうにでもなります。拘束には慣れていますからね、色々と。ですがここではルーサーに拘束を解かせることが肝心なのです。そうさせることが、私の「楽しみ」に繋がるのですから。
 流石に、ルーサーは戸惑いました。ですがそれも刹那。後ろから乱暴に突かれ……あら、そういえばいつの間にかこの髭も射精してましたわね。まったく、苦薬の痛みの方がよほど心地好いというのも……まあ良いでしょう。この早漏に突かれている私の姿をじっと眺めていたルーサーは、鞭を落とし陰茎から手を放し、よろよろと私に近づいてきます。
「俺は……俺は……」
 心中では葛藤もあるのでしょう。しかし淫魔香を吸い込んだ彼に、淫魔の誘惑から逃れる術などありません。私の言葉は全てが快楽へと通ずる……「特別」という誘惑に打ち勝てるなら、そもそも自慰などしていなかったでしょう。
 ルーサーは息を荒げながら、それでも言葉だけは抵抗を示し、手は私の拘束を解いていく。自由になった私は、ルーサーの禿げた頭に優しく手を沿え、そっと引き寄せ……頬に優しくご褒美を与えます。
「いいのよ、何も心配は要らない……ルーサー、あなたはこれから「本当の悦び」を知ることになる……」
 歓喜か恐怖か、ルーサーは震えていますわね……まあ無理もないでしょう。これから自分がどうなっていくのか、「理性があるから」それが判っている。「理性があるから」彼は今苦痛と苦悩に震えているんですものね。
「お楽しみはもう少し先に取っておきましょうか……あなたが「心の底から」求められるようになるまで……ウフフ」
 そっと、私はルーサーの胸を押す。少し離れなさいと、態度で示すために。ルーサーは押されるままに一歩二歩と後退し、私をジッと見つめながら……再び自分の陰茎を握り始めました。

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