愛とは何か? 幸福とは何か? 支配とは何か? 従属とは何か?
最近、哲学じみたことをふと考えるようになった。ふと思いながらも、答えが出ぬまますぐ思考は現実に戻される。ソレを何度も繰り返していた。
「……という事もあるから、まず魔晶石の流通を確保するために……ちょっとレイちゃん。意味が判らなくてもちょんと聞きなさい」
「ん? ああ聞いてるよ……」
聞いてはいたが頭には入っていない。まあそれを「聞いていない」と言うんだが……これでも多少は流通やら売買やら、商売ってものを理解してきたと思ってはいるんだが、それでもやはり師匠の話は判らないことが多い。師匠に言わせれば、判らないながらも何度も聞くことで覚えることもあるとかで……師匠はわざわざ俺に、師匠がこの街でどんな商売をするのかその報告をしに来る。弟子思いの師匠といえばその通りなのだろうが、俺は商人として弟子入りした訳じゃないんだけどねぇ。
「嫌でもあなたは街の支配者。何でも任せきりにしないで、ちょっとは自分でも考えられるようになりなさい。それが「主」としての務めでしょう?」
「判ってるよ……だからちゃんと聞いてたろ?」
聞いてないけど。そんなことは師匠もお見通しで、わざとらしく大きな溜息をついて見せた。
「まあいいわ……あんたが腑抜けなおかげで、こっちは荒稼ぎさせて貰ってるんだから」
確かに、彼女は自分が言うように荒稼ぎ……自分の店が莫大な利益を上げられるようこの街で好き勝手にしている。とはいえ彼女も商売人。流通などが崩壊してしまうほど非合理な利益を上げようとはしない。それ相応のバランスを保ちながら懐を暖めている程度なら、商人ギルドの「相談役」に対する報酬とでも思えばどうということもない。だからこそ俺は師匠に街の流通その他諸々を全部を丸投げしても、俺がいちいち目を光らせなくても安心していられるんだが……不正を行える者が不正防止を訴えるのだから、むしろ安心して良いんだと思うんだけど。
この街、金色の7番街は大きく分けて「商人」「富豪」「盗賊ギルド」の3つの権力が存在している。そのどれもが俺の手中にあるわけで、商人達は富豪達と共にエリスがまとめていた。しかし商売のこととなるとエリスにはちょっと荷が重い。彼女にだって商才はあるが、しかしそれは「美麗毒婦」として商人達を相手に出来る程度の知識でしか無く、流通という荒波に揉まれながら鍛えられた商人達を的確にまとめられるかといえば、やはり辛い。そこでエリス以上に商才のある人物……魔具屋夫人の守銭奴、フレア師匠に助力を願い、エリスの相談役として街の商業その一切を任せている。むろん彼女は二つ返事で了解しこうして街の商業を取り仕切ってもらっているのだが……わざわざ商売のなんたるかを俺にレクチャーしろとまで言った覚えはないんだけどね。
色々と……師匠ってことなんだろうな、俺にとって。
もう随分と昔のことに思えてきた……あの日、全ての始まりとなったあの日のこと。淫魔と吸血鬼の力に目覚めた俺は、いの一番に師匠宅……魔具屋ダグの自宅を目指した。ダグさんの妻であるフレア師匠は黒の0番街でも飛び抜けて美人と評判ながら腹黒さでの評判も高かった。そんな彼女はまさに俺好みの女だったからこそ、まず初めに自分の力を試すのはこの女と決めて襲いかかり……本人の下へたどり着くまでもなくアッサリ返り討ち。そこから俺達の師弟関係は始まったんだが……あれから今日まで、ホント色々とあったなぁ。
師匠は俺を「悪党狩り」という独自に考案した「コマ」にするために剣術から淫魔や吸血鬼の基礎知識、魔術の心得なんかを事細かく叩き込んだ。その全てを学び切れはしなかったが、少なくとも自分の力を発揮できる程度にたたき上げて貰った。だから尊敬と感謝と、後「嫌味」も込めて俺は未だに師匠と呼んでいるが、その師匠をもってしても弟子が街一つ支配してしまうとまでは思わなかっただろうな。なのに俺自身はあの頃よりたいして成長していないから、こうして再び師匠として弟子に色々と教えようとしている……っていうことなのか? まあ正直どんなつもりか聞くつもりはないし、師匠も語るつもりはないだろうな。
「細かいことはエリスに伝えておくから……本当に、あんたよりエリスの方がよほど「支配者」らしいわよ?」
「だろうな……正直俺もそう思う」
持ち前の知性と美貌で男達を手玉に取り、ついには領主夫人の座まで射止めた女、エリス。いずれは娘を使い王族の血筋も手に入れるのではとまで言われた美麗毒婦。そんな彼女の方が誰よりも街の支配者として相応しいカリスマを持っている。実際商人と富豪を表でまとめているのは彼女だし、国の役人を相手にしているのも彼女。何も知らない一般市民ですら彼女が現在街を支配していると思っているくらいだ。まあその方が何かと都合が良いからっていうのもあるけど、なにより彼女が一番支配者という階級の似合う人物だからなぁ。
「……エリスもそうだけど、よくあなたの眷属はあなたを裏切らないわね。もうみんな、あなたの「支配」からは開放されているはずなのよ?」
「……俺に聞かれてもなぁ」
そう、俺に聞かれても明確な答えは持ち合わせていない。自分で眷属にしておきながら、実は一番の謎だったりする。
師匠が言うように、眷属達の支配……淫魔や吸血鬼の力による「従属化」という拘束はとっくに解かれていた。最も抵抗力の少ないフィーネやリーネですら、実はだいぶ前から拘束力を失っていたらしい……それを知ったのはつい最近だというのはまた情け無い話だが。
一番最初に眷属にし、そして一番最初に従属の鎖から抜け出したカサンドラは、「愛」があるから従っていると言った。そしてそれは後の眷属達も口を揃えてそう言う。眷属にしたときの強烈な「印象」が「愛」として心に刻まれ残っているから……と、それとなく分析したこともある。しかしそんな不確かなもので永遠の忠誠を誓うまでに至るのか? そう考えると……判らなくなる。ティティのように感情をいじり愛を誤認させた事もあったが、それだっていずれは「正気」に戻る。だがティティは「正気」でありながら俺を愛していると頬を染めている。
愛、幸福、支配、従属……俺と眷属達を結ぶ絆。何が本当で何が偽りなのか。どれが正しくどれが誤りなのか……俺には理解できないことが多すぎる。
「……そんなに難しい顔しても仕方ないでしょ。悪かったわ、変なことを訊いて」
「いや……」
「だからいいのよ。やっぱりあんたは難しく考えるような「タマ」じゃないでしょ。間抜け面してエリスやエマにみんな任せて、それでみんなの「ご主人様」やっていればいいんだから」
そう言われると余計に色々考えたくなるのは俺が天の邪鬼だからか? まあいい……どうせ考えたって答えは出ない。いつだってそうだったから……。
「それじゃそろそろ行くわ。旦那が待ちくたびれてるだろうし……ああでもエリスと軽く打ち合わせしないと。今は何処?」
「今は……サロンで「親睦会」の真っ最中かな?」
当然参加者はほぼ全裸という格好の、そんな親睦会だけどね。
「あらそう……なら後でメッセージだけ魔具に残していくわ」
そう言って師匠は席を立ち、扉へと近づいていく。側に控えていた半裸のメイドが師匠に近づき、彼女の上着と手荷物を渡した。
「ありがと……やっぱりその格好に合うわね、フィーネちゃん」
「ありがとうございます。フレアさんのデザイン、いつも気に入ってるんです」
かろうじて裸じゃない、というくらい際どいメイド服。こんな服を嬉々として作るのは師匠以外に誰がいるんだろうか?
「それじゃあね、レイちゃん。フィーネちゃんも頑張ってね」
「ああ。旦那さんにもよろしくな」
「またお越し下さい、フレアさん」
本来なら玄関まで見送るのが礼儀なのだろうが、師匠は見送りをいつも拒否する。だから今では俺の部屋から出ると別のメイドに玄関まで見送らせている。流石に来客を一人で玄関まで歩かせるわけにはいかないからな……まあ師匠が言うには「来客扱い」なのが気に入らないらしいけど。
「なあフィーネ」
「なんでしょう、ご主人様」
部屋から師匠を見送ったところで、俺はフィーネを呼び寄せる。フィーネは笑顔で俺の側に歩み寄り、何事かを期待して俺を見つめている。
「……お前はなんで俺に従っている?」
師匠から投げかけられた疑問。それを直接当事者にぶつけてみた。
返ってくる答えを充分判っていながら。
「愛しているからです、ご主人様。私は心よりご主人様を愛しています」
曇りのない、澄み切った応え。淫欲に溺れる主従の間柄には似つかわしくない真っ直ぐな返答。
「そしてご主人様も私を愛してくださります。ご主人様に仕える理由は他に要りません」
おそらくフィーネ以外の眷属に訊いても、言い方こそ違えど同じ事を言うだろう。そしてそれはまごう事無き真実だ。
フィーネは自信を持って俺もフィーネを愛していると言った。その自信がどこから来るのか……俺も、俺がフィーネを愛しフィーネが俺を愛してくれていることに疑いようのない自信がある。その自信の根元は何だろうか? 俺の疑問はそこに答えがあるのだろうか?
「その愛を貫くためにエロ禁止って言われたら、どれほど耐えられる?」
「耐える前に死んでしまいます」
「即答かよ」
ちょっとした意地悪も即座に返されては面白みがないな。
「私は常にご主人様との営みを妄想しながら生きております。それを絶たれたら1秒たりとも生きてゆけません」
「妄想できれば充分なのか?」
「現実での刺激あっての妄想です。刺激がなければいずれ妄想も枯渇してしまいます」
そういいながら、フィーネは薄い服の上から突起しだした乳首と陰核をいじりだす。
「ふふ、ご主人様は何時だって私達に刺激を与えてくださります。その視線だけでも、私は悦楽の頂点へ登り詰めることが出来ますから」
視姦で逝けるのは妄想力あってこそ。彼女なら自慰などせずとも直ぐさま逝けるだろう。
「やれやれ……支配者に仕えるメイド長がはしたないな」
「その方がご主人様の、んっ! こ、好みですから……ん、ふぁ! い、ん、あの、ご主人様……」
「ああ、いいぞ。俺に見られながら逝ってしまえ」
「は、はい、ありがとう、ござっ、い、ん、ふぁ、い、イク、み、みて、みてくださ、い、ご、ごしゅじ、ん、さ、ま、まぁああ!」
服の上から指で弄っているだけなのに、フィーネはアッサリと潮を吹きながら逝った。俺にまで降りかかるほど激しく潮を吹きながらも、自慰を始めて逝くまでに掛かった時間は1分ほどか……あまりにも早すぎるが、これは彼女自身が意識して逝ったからだろう。どんなに妄想力たくましく感受性が強くても普通の人間に出来る芸当ではないが、半分は淫魔であるフィーネだからこそ出来る、ある種のお家芸か。だから彼女なら逆に、じっくりと見せたい見られたいと思えばもっと激しくても耐え抜けるはず。それでも意図して早く逝ったのは、そうすることがこの場合最良……自分にとっても俺にとっても「気持ち良い事」であると判断したからだろう。まあそんな彼女でも、直接俺に触れられると嬉しすぎて気持ち良すぎてコントロールが効かないらしいが。
「ハァ、ハァ……ありがとうございます、ご主人様。最後まで見ていただいて……」
息を荒げながら礼を述べるメイド長は、俺に一礼すると直ぐさま机に置いてあったベルを手に取りそれを鳴らした。すると扉の外で待機していたメイドが二人、中へと入ってきた。
「ご主人様のお召し物が汚れてしまいました。すぐに代わりの物を。ああそれと……あなたは私の身体を拭いて頂戴」
威厳のこもったフィーネの言葉に、まずは二人共が頭を下げる。そして二人の内一人はすぐに部屋を出て行った。残った一人は小走りにフィーネへ近づき、そして俺から少し離れたフィーネの前で膝を着く。
「丁寧にね……ええそうよ。上手くなりましたね」
かがみ込んだメイドは、舌を伸ばし濡れたフィーネの太股を舐めている。音を立てながら太股を舐めるメイドは頬を紅潮させ次第に息を荒くしていった。まあ無理もないな、あれだけ間近で「淫魔香」を嗅げばそれだけで普通の人間なら逝ってしまうだろうし。
「ご主人様、お召し物をお持ちしました」
外に出ていたメイドが俺の着替えを持って戻ってきた。俺は黙って席を立ち、メイドに着替えを手伝わせながら着替える。
このメイド達は俺の屋敷……以前はベイリンチという男が住んでいたこの屋敷に仕えているメイドだ。とは言ってもこのメイド達はいずれ他の屋敷へと出される「商品」でもある。彼女達はここでフィーネの指導の元「研修」を受けているという立場にある。
街を支配してしまってから、俺はこの街を多少「改革」させていった。メイドという商品はその改革の一端。メイドに限らず奴隷などの「人材」には特に力を入れた。
この街では奴隷の売買が行われている。他の街では大手を振って出来る商売ではないため、この街で奴隷は「目玉商品」の一つになっていた。俺は別に正義面して奴隷の売買を反対するつもりはないんだが、しかし命そのものを粗末に売り買いするようなこれまでの商法を続けるつもりはなかった。そこで俺は奴隷をそのまま横流しにするようなやり方を止めさせ、奴隷の「用途」にあった教育を施してから売る方法を徹底させている。用途とはここにいるメイドの他にも娼婦だったり小姓だったり、あるいは全く違う傭兵や番兵だったり、色々だ。むろん今フィーネの太股を息荒げながら舐めているメイドのように、メイドと娼婦を兼業するような人材も沢山いる。
わざわざ用途別に研修させる以上、これまでの奴隷よりも売価は桁違いになったが、その分奴隷の質にはこだわっている。これまでは性欲目的なら容姿、労働目的なら肉体のみで売値が変動したが、そこに用途別の「技」を徹底的に覚えさせ価値を上げた。容姿や肉体についても磨きを掛け質の向上を図っている。こうして売値をつり上げることは商売的な旨味を増すだけでなく、売られていく奴隷達にとってもメリットは大きい。値が張る買い物をすればそれだけ買い手は奴隷を大事にするだろう。高い物を買って粗末に扱う奴はそういないからな。それに奴隷としての「心構え」を教えることで、売られていった先でも「不幸」を嘆くことが少なくなるはず。第三者から見てどう思うかはさておき、とにかく本人達がどう思うのか……自分の境遇を受け入れそこから幸せを感じてくれた方が、まだ良いはずだと俺は思っている。そう、眷属達が幸せであるように……。
そして奴隷の売り方も少し変えた。買取とレンタルの二通りの方法を用意させたのだ。意味はそのままで、買取の場合かなり高い値になるよう設定している。これももちろん奴隷達のアフターケアを目的としたもの……であると同時に、もう一つの意味がある。そもそもこれらの奴隷制度を考えたのは俺じゃない。俺の意見を元にエリスとエマが考え出したやり方で、奴隷達を送り出すもう一つの意味についてはエマが特に力を込めていた。
その意味とは、スパイ行為。盗賊ギルドのマスターならではの発想だ。
奴隷達が送り込まれた先で、奴隷達は無理に詮索しなくともあらゆる情報が自然と耳に入っていくだろう。ちょっと前に「メイドは見た」なんて大衆演芸が黒の0番街で流行っていたが、まさにアレだ。メイドが雇い主の秘密を漏らすことは当然あってはならないことだが、それはそれ。こちらに有益なことは徹底してやらなければというのがエマの主張。そもそもエマは娼婦として働いていた頃、客とのピロートークから情報を集め、それを元にあらゆる人物に取り入り、出し抜き、強請り、自分の地位を上げていった女。そうして娼婦部門の統括を任されるまでにいたり、ギルドマスターの愛人になり、ついには自分がマスターの座に納まった。ベッドの上で思わず漏らす情報にこそ旨味があることを知り尽くしているエマは、この奴隷制度の見直しと自身がテコ入れした娼婦街の改革に際して、情報収集を徹底できるよう取り計らったのだ。
まあ奴隷に関する制度は他にも色々とあるんだが、大まかに言えば「奴隷個人の人権保護」と「情報収集」を徹底させている、ということかな。そしてその二つを可能としているのが、奴隷達の忠誠。
「ん、チュ、クチュ……」
「どうしたの? もう綺麗になったのに随分と熱心ね」
フィーネの顔つきがSモードだ。そんなフィーネを見上げながら、彼女の太股を舐め続けていたメイドが口を開く。
「あの、このままご奉仕を続けさせてください……」
淫魔香を間近で嗅いでしまったメイドは高揚しきっている。ここからでは見えないが、おそらく下着はもうずぶ濡れだろう。
「許可もなく舐め続けたあげくにお強請り? まず綺麗にしたら一度顔を離し、それから許可を求める……キチンと教えたはずよね?」
「す、すみません……我慢、出来なくて……」
「あなたが我慢できるかどうかじゃないの。相手が許可するかどうかなのよ。それに奉仕は相手を悦ばせるものであって、あなたが悦ぶためにするものじゃないの。基本でしょう?」
「はい、すみません……」
「……でもね、奉仕に悦びを見出せるようになれたことはステキよ。より淫乱になってきたのは褒めましょう。だからこそ、ちゃんと順序や許可の有無はしっかりなさい」
「は、はい!」
要点をしっかりと注意し、その上で褒めるべき所を褒める。まさに飴と鞭。フィーネは巧みに双方を使いこなしている。
セイラやエリスに鍛えられたフィーネはSとM双方の属性を等しく、そして強く持っている。それ故に鞭を振るう側と振るわれる側、飴を与える側と頂く側の心理を完全に理解できている。そんな彼女にはメイド長という立場、そしてメイド達の教育係という立場が適役だ。おかげでメイド達の「質」は上々。奉公先では彼女の教え子達が絶賛されている。
だがフィーネの役割はメイドの教育ばかりではない。
「良い返事ね。ではこのまま奉仕することを許可しましょう。私の膣を舐めながら逝くことも許可してあげます」
「ありがとうございます! ん、チュ、チュパ、ん、おいしい、フィーネ様の愛液が、ん、チュ、甘くて、ん、美味しいですぅ……ん、チュパ、チュ……」
ほとんど紐状態だった下着を脱ぎ、メイドに自分の膣とそこからあふれ出るを舐めさせるフィーネ。淫魔の愛液を直に飲ませるとどうなるかは……まあ「香」だけで発情するのだから……
「ん、チュ、ひ、はふ、い、チュ、ん、ふあ、ん、あ、ああ、ふぁああ!」
まぁこういうことになる。香の原液を摂取すれば強烈な悦楽が身体を駆けめぐることになるのだが、それだけに止まらない。
「派手に逝ったわね。気持ち良かった?」
「は、はひ、きもひよかったれふ……」
「この快楽を忘れてはダメよ? あなたは生涯、快楽の虜……そうね?」
「もひろんれふ。わ、わらひは、かひらふのとひほ……ひーねひゃまとれいひーひゃまのとひほへふ」
もう何を言っているのか判らないほどろれつが回っていないが、それでもメイドは懸命にフィーネと、そして俺への忠誠を誓っている。
奴隷商売に際してキーとなる、奴隷達の忠誠。それは快楽による魅了。商人や富豪、ギルドのメンバーに行っているのと同じ事だ。フィーネはメイド達を教育しながら「快楽の虜」にし忠誠を誓わせる、そういった役割も担っていた。快楽の虜となったメイド達は俺達を裏切らないばかりでなく、快楽そのものに幸福を感じるようになる。つまり奉公先で雇い主にあれこれと奉仕し快楽に浸ること自体が幸せに繋がり、また奉公先での評価やスパイ活動が俺達を喜ばせる結果になればそれもまた至福となる。奴隷として悲観的になるよりはよほど本人のためになるだろう……まあ当然歪んだ考えではあるがな。それでもこれまでのように粗末に扱われるよりは良いはずだ。
今フィーネの足下でへたり余韻に浸っているメイドは、教育を受け始めて一週間ほどだったかな……一方、俺の着替えを手伝いながら豊満な胸をさりげなく押しつけているこちらのメイドはそろそろ三週間は経つ。もうじき「商品」として取引される頃だ。
「君は良いのかい?」
着替え終わり俺に一礼するメイドに対して、俺は声を掛けた。
「先ほどフィーネ様が申しましたとおり、私から強請るわけにはまいりませんので」
すっかり心構えが出来ている。そして「耐性」もしっかりしている。
今部屋はフィーネの淫行によって淫魔香がかなり充満している状態。そんな中でもこちらのメイドは平然としている。香が利いていないのではなく、高揚をある程度制御できるようになっているのだ。連日淫魔に教育されれば、この程度普通の人間でも鍛えられるということだな。
とはいえ、なんとか抑えている……つまり我慢しているだけなので本当は辛いはず。
「立派な心がけだな」
俺は顔を上げたメイドの頬を軽く撫でる。すると急速に頬は赤く染まり、メイドの息が絶えきれず荒くなった。
「……いいぞ」
「はい! ん、チュ、チュク……」
そう告げるとメイドは俺の親指を舐め始めた。そして直ぐさま……
「ん、チュ、ん、んん!」
身体を震わせ、失禁してしまった。そしてそのまま膝から落ち倒れそうになるのを俺が支えてやる。
「ご主人様の手を煩わせるとは、まだまだですね」
フィーネがクスクスと笑いながら部下の成長を喜んでいる。俺は気絶したメイドをフィーネに任せ、そのまま扉へと歩いていく。
「出かけてくる。戻るまでに片付けといてくれ」
色々と飛び散ってカーペットがだいぶ汚れている。これを片付けるのは一苦労だろうが、まあそれもメイドの仕事だ。
「かしこまりました。行ってらっしゃいませご主人様」
メイド長が深々と頭を下げるのを背中で感じながら、俺は「巡回」に出かけていった。
元来「秘め事」というのは隠れてするものだ。よって昼間よりは夜に、表舞台に立たず極秘裏に、第三者の視線に出来る限り晒されないよう隠れてするのが普通。だがどうだろうかこの光景は……。
「ひぅ、ん、あんっ! い、いい、いいよおじさま、や、んっ! そ、そこもっと、もっと突いてぇ! ん、あ、あっ! ひあ、ん、こ、こっちにも、ね、誰か、入れてぇ……ん、あは、来た来たぁ……い、ん、あぁあん!」
「ん、ビチュ、クチュ、ん、えへ、美味しいよ、おじさまのコレ、とっても美味しい……やん! ん、ダメだったらぁ。焦らないで、ね……んっ! やぁん、そこまだ弄っちゃ、んぁあ! ん、き、気持ちいい、ん、はふぅん……」
真っ昼間の豪邸。その中にある広めの応接室で富豪達の「親睦会」が行われている。しかし眼前に広がる光景は親睦会という名には似つかわしくない淫靡なもの。腹の出た中年野郎が複数人、その腹を覆い隠すことなく二人の少女に群がっている。むき出した粗末な一物をはち切れんばかりに膨張させ、それを少女達に押しつけ、擦りつけ、握らせ、あるいは少女の中へと押し込んでいる。むせかえるような男達の汗と精子の匂いに甘美な淫魔香が混ざり合い、香りだけで視界が桃色に閉ざされそうだ。
「フフ、どうですか? あの娘達は」
俺の訪問に気付いた女性が、しなを作りながら歩み寄る。男達も少女も一糸まとわぬ姿であるにもかかわらず、女性は豪勢な衣装に身を包んでいた。もっともその衣装は肝心な部分……胸元はパックリと割れ豊かな乳房を露出させ、スカートは横ではなく前の部分にスリットが入った卑猥な物ではあるが。
「アリスもリーネも嬉しそうだな」
脂ぎった男達に囲まれ白濁した「昼食」を浴びながら、二人の少女は淫靡な悦びに浸り笑っている。
「本日は特に、あの娘達のお気に入りばかりですから。おかげで私の相手をしてくださる殿方がいなくて寂しいですの」
そう言いながら女性は露出した胸を俺の腕に押しつけ、下着も履いていない股間を腰に擦りつけてくる。
「昨日はアリスが似たようなことを言っていたぞエリス。お母様のお気に入りばかりだから暇だなんて言ってな……今お前がしているように、俺に構って欲しいなんて視線を投げかけてきた」
もっともアリスとエリスでは身長が違いすぎるからアプローチの仕方がちょっと違うんだが……ま、結局は似たもの親子ってことだな。
「ええ、存じてますわ……幾本もの肉棒に囲まれながら、ご主人様のことを見ておりましたから……正直、私は昨日のあの娘が羨ましかったわ」
身体を擦りつけるだけに飽きたらず、エリスは俺の股間に手を伸ばし優しく愛おしげに、だが熱く激しく服の上から撫で回し始める。
「形勢逆転か? ほら、アリスもリーネもこっちを見ているぞ」
言葉では周囲の男達を誘いながら、二人の少女はチラチラとこちらに視線を送っている。取り囲んでいる男達は俺が来ていることに気付いていないのか、少女の視線を気にせず息を荒げながら股間を振り続けている。
「見せつけてあげましょうご主人様。昨日の私がそうだったように、ご主人様の淫行を見ながら、そしてご主人様に痴態を見守られながら快楽に溺れる……とても素敵な時間をあの娘達に与えてあげてくださいませ」
「そして自分は更なる快楽を……か? まあいい。昨日アリスにもしてやったんだからな」
まあ俺が言わなくともエリスはもうその気だが。エリスは片手で巧みにズボンの中から肉棒を取り出し、直にしごき始めていた。ハァハァと荒い息を俺の耳元に吹きかけ胸を強請り、股間を擦りつけながら。
「そろそろ、よろしいですか?」
「いつでも良いぞ」
淫猥に微笑むとエリスは一度俺から身体を離し、こちらに背を向ける。そして自分の股間から後ろへ手を伸ばし、俺の肉棒を掴んだ。俺はエリスの腰を片手で支えながらもう一方の手で片足を持ち上げ、エリスの導きのまま肉棒を押し進める。
「んっ!」
一啼きした後、エリスは俺に合わせ腰を振り始める。
「ふ、ん、ん、んっ!」
曲げた人差し指を咥え、大きな喘ぎ声が漏れるのを防いでいる。男達が二人の少女に夢中とはいえ、外野から大きな喘ぎが聞こえては興をそがれる、あるいはこちらに興味を移してしまうだろう。そうなっては折角の主役である二人に申し訳ないからな……これも一種のマナーって奴だ。男達に囲まれながら主の淫行を目の当たりにするという、このかなり特異なシチュエーションを邪魔しちゃ悪い。
「ねえ、おじさまぁ。もっとぉ、もっとはげしくぅ! ん、い、ひぅ! そ、そう、もっと、もっとぉ! い、いい、なか、私の中で擦れて、い、んっ! に、二本のオチンチン、こす、擦れて、い、いいよ、いいよぉ!」
「ひゃっ、ん、り、リーネにも、リーネにもぉ! ね、もっと、もっとちょうだ、い、んっ! が、我慢しない、で、も、もっと、かけて、いっぱい、いっぱい、かけて、かけてぇ!」
俺達を見ながら興奮し、二人は周囲の男達に更なる刺激と快楽を求める。自分達の行為に興奮していると思っているだろう男達は、少女達の求めを受け奮闘している。
「ご、ご主人、さま……そろ、そろ……」
二人の少女から羨望の眼差しを向けられ、痴態をその眼差しに晒す事で興奮しきっている母親は限界を口にし始めた。俺は少女に群がる男達にも負けぬほどに腰を振り、婦人を一人極楽浄土へと導く。
「ん、ひ、ん、んぐ、ん、ん、んんんん!!」
指を噛み千切るんじゃないかと心配になるほど喘ぎに耐え、エリスは大きく背を反らし身体を痙攣させた。むろん俺はそんな彼女に白い「褒美」をドクドクと注ぎ込んでいる。
「ん、ふぁ、ああ……ご主人様……ん、チュ……」
背中越しに求められる唇。俺は素直に応じ唇を重ねた。そしてゆっくりと肉棒を引き抜き、そっと唇を離す。
「では後を任せるぞエリス」
「はい、お任せを……」
名残惜しそうな視線をこちらへ向けながら、エリスは先ほどまで俺達を結びつけていた淫唇に指を伸ばし、俺からの褒美をネチョネチョと音を立て弄り始めた。俺はもう一度軽く唇を重ねると、俺との淫行を忘れまいと自慰を始めたエリスに背を向け応接室を出て行った。
娼婦街は夜に花咲く場所。だが花だってつぼみの時期があり、その時期だって生きている。それは当然娼婦街も同じだ。通りに賑わいこそ無いが、各々の店では夜の花たちが咲く準備に追われていた。花となる女達が起床し始め、眠りに就く前に洗濯屋に出したシーツなどを受け取り、自分の花壇を綺麗に整えていく。むろん花である自分を丹念に磨くことも忘れない。
娼婦のような商売を不浄だと、汚らしく考える人間は多い。だが彼女達ほど自分を磨くこと、そして周囲の衛生に気をつけている者達はそういないだろう。むろん美容や衛生に無頓着なまま商売を続けている者もいるが、そのような者は所詮安い女。自分を高く魅せ高く買わせるための努力を惜しまない女ほど、ここでは「良い女」なのだ。そして俺はそんな良い女を育てる努力を惜しまない。
「師匠に話を持ちかけられても、首を縦には振らなかったんだがなぁ……」
「ん? ああ娼婦館の話?」
準備に追われる女達の足音を聞きながら、俺は自分の使い魔であるシーラに入れさせた紅茶を飲みながらポツリと呟いた。
以前俺の能力と眷属達の「質」を見込んで、師匠は俺に娼婦館を開けと何度も迫ったことがあった。その度にその気はないと突っぱねていたのだが、今こうして館一つどころか娼婦街を取り仕切っている。もっとも実際にここを仕切っているのは俺ではないんだが、実質的な支配者は俺だ。そして運営の方向性を定めたのも俺。成り行きではあるが、結局師匠の助言通りにしている自分が情け無い。
そもそも俺が娼婦館を開くのを嫌ったのは、単純に自分の可愛い眷属達を他の男に抱かせるという行為が好きになれなかったから。しかしそれはもう娼婦館以前の問題で、街の権力者達を魅了し続けるために眷属達を抱かせているから……俺のこだわりは脆くも崩れている。まぁ師匠は眷属達ではなく新しく娼婦用に女を魅了しろとも提案していたが……それも当初は嫌だった。儲けるだけのために女を操るという行為がなんとも生理的に受け付けない……淫魔や吸血鬼が言うセリフじゃないが、どうにも好きになれなかった。だがどうだ、結局俺は女達を操り利用し、娼婦街を切り盛りしている。俺のこだわりは何だったのだろうと……溜息が出る。
「所詮は淫魔……ってことかね」
「あー、そういう言い方は私が傷つくなぁ」
生粋の淫魔が頬を膨らませ不平を口にする。出会った頃も多少幼さが見えていたが、彼女は日に日に言動が幼くなってきた気がする。そしてその分甘えん坊になった気も。
だがそれでも、彼女は俺と違い完全な淫魔だ。未だに俺は彼女から淫魔という存在について学ぶことが非常に多い。
「だいたいアレですよ? 普通の淫魔ならこんな娼婦館とか回りくどい方法しないですから。直接異性を襲ってナンボって淫魔が、客を取らせて喜ぶと思います? ご主人様他に聞いたことあります? 淫魔が開いた娼婦館って」
指を一本立てながら、淫魔の講義はしばし続く。
「こういうのはリスクが大きい割には見返り少ないですから。召還された淫魔が召還者の命令でやってるっていうなら判りますけど、自分からこんな事しませんよ」
淫魔は元々自身の淫欲に実直で、自分の快楽優先で行動するのだという。眷属を増やすという目的もあるが、それは「もののついで」というくらい重視はしていないらしい。よほど気に入った相手でもない限り眷属にはせず、全てを吸い尽くしてしまうのが当たり前らしい。それを考えたら娼婦館の運営なんて淫魔にとってはほとんど利益がない行為だと力説する。
「ご主人様のこだわりは、淫魔だとか吸血鬼だとか、関係ないんです。ご主人様だから、なんです! ご主人様だからって、私の大好きなご主人様を侮辱したら許さないんだから!」
……なんか話が変なことになってるな。ひとまず俺は自分の使い魔をなだめながら、話を少し戻す。
「まあなんだ……こだわっていた癖に始めてしまった娼婦業だが……やるからには徹底したいんだよ」
それが新しいこだわり。娼婦の質を上げる努力を惜しまないというこだわりだ。
娼婦に限らず、メイドも闘技場の戦士達も、魅了で縛り操っている者達には、出来る限りその分野で幸せを掴んで欲しい……というのが俺のこだわり。その為には徹底した質の向上と、その分野に従事する喜びを見出して貰うことが大事だと思っている。
メイドの場合は何事においても従事することが求められるため、性的な教育も奉仕など従事する性交が主となる。娼婦も基本的には客に従事する商売だが、しかし客が娼婦に求めるものが必ずしも従えることばかりではない。単純にMな客はSとなる娼婦を求めるし、そのような性癖がない者でも娼婦にあらゆる女性像を重ねたがる。母親や姉のような優しさであったり、妹のようになつくことを求めたり、恋人のように甘い時を過ごしたがる者も多い。そのような求めに対して順応し客を包み込むのが娼婦……だと、俺は考えている。それだけに幅広いリクエストに対応できなければならないが……一人の娼婦が全てをまかなえるはずがない。
そこで俺は、娼婦街でバラバラに運営されていたのを強引に一つにまとめ、各館を客の求める性癖に見合う「専門館」にしていった。そもそも娼婦館は盗賊ギルドが仕切っていたとはいえ、各館で経営者は異なっていた。単純にギルドは各館の売り上げをピンハネし、様々なトラブルを引き受けて納めていたに過ぎない。だが俺はそのシステムを根底から覆して今の状況を築いた。どうせ経営者も魅了して操ることになるのだから、やるなら徹底的にやった方が良い。
娼婦街を真の意味で一つにまとめたことで、各館同士での経営競争はなくなった。そうなると質が低下してしまうのが普通だが、そこは徹底した教育で補う。娼婦の質を上げることが客の喜びになり、それが娼婦の喜びにもなる……そういう心構えもテクニックと共に教育していくのだ。その心構えこそが結局は魅了による洗脳ではあるんだが。ただそうすることで本人達が幸せに感じられるならそれで良い。この方がただ利益を追い求めるよりは、幾分マシだろう……そう信じている。
「教育の方は順調にいってるんだろう?」
俺のこだわりが浸透しているのか、それを今一度確かめてみる。
「もちろん。とは言ってもほとんどエマに任せてて、私はなにもしてないけどねぇ」
尻尾を振りながら使い魔は、何もしていないという割には事細かく俺へ現状の報告をしてくれた。
娼婦を教育するのは淫魔のシーラと娼婦女王のエマ……なのが理想だが、数多といる娼婦達を一人一人直接教育していくのは不可能だ。シーラとエマが教育するのは、娼婦達を教育する教育係や調教師。まず講師となる彼ら彼女らへの教育を徹底させ、そして娼婦一人一人への教育を徹底させる。元々各館にはそれぞれに教育係や調教師がいたので、そいつらをシーマとエマが再教育し、後は分野別に教育を行わせている。効率の面ではこのやり方が最適だろう。
ただ娼婦達を各専門館へどう割り振るかは直接シーラとエマが選別している。まずシーラが娼婦の心から性癖を読み取り、エマが容姿とテクニックをチェックしてランクを決定する。そうやって分別された娼婦達は各館で教育を受け、質を磨きながら客を悦ばせていく。今のところこの方法で問題はなく、円滑に運営されている。
「ってわけで、今のところバッチリOK。特に困ってることもないかなぁ」
ニコニコと笑顔で報告をすませると、シーラはジッとこちらを見つめ始めた。
「ところでご主人様……私ね、紅茶にミルクを入れたいんだけど?」
ほとんど空になったカップを手に取りながら、シーラが強請り始めた。
「もう全部飲んでるじゃないか」
「んー、お腹の中でミルクティーにすれば良いかな?」
つまりは直に飲むと。シーラは俺の返事を待たずに机の下へと潜り込んだ。
「許可した覚えはないが?」
「えー、くれないのぉ?」
机の下から上目遣いで甘えてくる。本当にコイツは、出会った頃よりも甘えん坊になった……そして感情表現が豊かになったな。
淫行が糧となる淫魔は、淫靡な感情を表に出すことばかり。喜怒哀楽どの感情も持ち合わせているが、その全てに淫猥さを滲ませている。今のシーラだってそうなのだが、彼女には他に愛らしさも加わっていると俺は感じている。何というか……淫魔らしいがどこか人間くささもある、そんな感情を晒すようになったと思う。
「しょうがない奴だな……だが一回だけだぞ?」
「うん、ありがとうご主人様!」
明るくも淫らな笑みを満面に浮かべ、シーラは尋ねながらもまさぐっていた肉棒を頬張った。
「でも一回だけなら……ゆぅっくり、味わおうかなぁ」
「おいおい、この後カサンドラ達の所にも行くんだ。あまりゆっくりもしていられないんだよ」
「きっこえっませーん! ん、ベロ、チュ、んふふ、おいしぃ……ベロ、ん、チュパ……」
宣言通り、シーラはゆっくり味わうように亀頭を舌で転がすよう舐め続け、なかなか咥えこもうとしなかった。まあ急いでいると言うほどではないが、そうゆっくりもしていられないのになぁ。俺は苦笑しながら、こそばゆい感触を楽しみつつシーラの髪を撫でてやる。
「失礼します……あら、シーラは?」
扉を開け室内に入ってきたのは、シーラと共に娼婦街を切り盛りしているギルドマスター。彼女は質問を自ら口にした直後視線を落とし、机の下でモゾモゾと動く「何か」を確認した様子。
「あの娘にも困ったものですね。ご主人様を一人にしてどこへ行ったのでしょう?」
口元を僅かにつり上げながら、エマはまだ温もりの残る椅子に腰掛ける。
「ひぅ!」
不意に机の下から大きな声がしたが、エマは全く気にする様子を見せない。
「ちょ、エマなにすんっ!」
よく見ればエマは机から少し椅子を退いて座っている。椅子のヘリに手を置き身体を安定させながら、足を動かしているようだ。その足が何処へ伸び何をしているのかは……見えなくともよく判る。
俺は苦笑いを浮かべながら、ポンポンとシーラの頭を軽く叩く。するとシーラは直ぐさま「ミルクティー製造」の作業を再開する。
「ではご主人様、シーラ不在ではありますが「先に」ご報告申し上げます」
とても主に報告をするような姿勢になっていないが、エマは僅かに身体を揺すりながらシーラに報告義務のある娼婦街関係以外の、盗賊ギルドに関わる現状報告を伝えてきた。
盗賊ギルドはミネルバの一件によって重要な幹部を何人か失い、崩壊の危機にさらされていた。それを魅了という手段でつなぎ止め、ギルドマスターのエマが再編成の指揮を執り復興させた。とはいえ、やはり各々の部署をまとめていた幹部を失ったのはギルドとして大きな損失で、弱体化は避けられなかった。
ギルドはいくつかの専門部署があり、それぞれにその筋のスペシャリストがいる。高い技術を持つ者ほど色々と「我が儘」なのはどの世界でも同じで、一癖も二癖もある連中をまとめるというのは至難の業。ギルドマスターであるエマだって、専門だった娼婦部門以外のことに関しては幹部任せ。あくまで彼女はその幹部達をまとめる頂点だというだけで、盗賊ギルドの抱える全てに精通しているわけではない。故に幹部を失ったのは大きな痛手だったのだが、残った幹部と幹部候補によって復興を成しえたのだ。
特にギルドマスターの影武者、チップマンの功績は筆舌し難いほどだとエマは言う。
そもそもチップマンはエマに代わって表向きギルドを取り仕切る人物。エマ曰く、彼女以上にマスターとしての技量を持つ男なのだとか。そんな彼が何故影武者でエマが真のマスターなのか……その真意は当人同士の問題らしく、俺は詳しく知らない。ただ判るのは、彼がいなければギルドの復興はあり得なかっただろうということ。
実を言うと、盗賊ギルドに関しては「魅了縛り」が商人や富豪達ほどに効果を発揮していない。特に暗殺部門などに身を置く者達はほとんどを魅了できていないし、幹部クラスはほぼ全員「素面」なまま。にも関わらず統治できているのはチップマンの働きあってのこと。エマが俺の眷属になり街が「魅了」で操られていく中でも、盗賊ギルドはこれまで通り、いやこれまで以上に実権を握り利益を上げられる……それをチップマンが力説し説得して回ったのが大きいのだ。こればかりは「操られている」と見られているエマでは出来ないこと。実質的なギルドマスターはもはやチップマンだと言っても過言ではない。
それでも、ギルドはエマと俺に忠誠を誓う。そうすることがギルドにとって有益であるから……なにより、チップマンを初めとした幹部のほとんどは、とうの昔からエマに「魅了」させていたから。彼女のカリスマ性と行動力はギルド幹部の誰もが認めるところで、不平を言う者はいない。ゲルガーによってエマが洗脳されたときですら、エマを心配するあまり洗脳されていると知りながらも仕え続けた幹部もいたほど。チップマンもそんな幹部の一人だった。もっとも、洗脳されたエマの統治に疑問を感じた者は真っ先にエマ同様洗脳され、そして今回の騒動で命を落としているので、結果として残った幹部はみんなエマに忠誠を誓っている者ばかりとなっている訳だ。
情報を集めるのは人を気遣い心を配ることに似ていると、エマは言う。情報収集に長けている彼女は、同様に周囲への気配り心配りもきめ細やかに行われていた。その気配り心配りを受ける幹部達がエマに心を奪われても仕方のないことだろう。その気遣いが腹黒い目論見によるものだとしても、自分に損益がないのならば気遣いによる心地よさを味わいたくなるのが人の情だろう。そう、「情報」とは「情」に「報」える事でもある。
とまあ、ひとしきりエマを持ち上げては見たが……全ては結果論でしかないのかもしれない。娼婦から成り上がった美貌の頭領は、淫魔の力に頼らずとも人を惹き付ける術を心得ている。そうやってギルドマスターの座を守ってきた彼女に、今更淫魔の力は必要なかった……ということなのだろう。にも関わらず彼女には淫魔の力だけでなく吸血鬼の力、そしてサイキックという異能まで宿っている。もはや盗賊ギルドどころか俺に代わって街を、領土を、国を治めても不思議じゃないんだが……。
「……と、需要と供給のバランスがいささか取れていない面もありますが、概ね奴隷部門にもさしあたって大きな問題はない模様です」
「ん、チュ、クチュ……ん、ふぁ! や、ん、エマそこ、い、ん、チュ……」
仲間を足先で弄びながら平然と報告を続けるエマ。サキュバス以上の淫技を持つ娼婦女王は、愛する俺に永遠の忠誠を誓っている。チップマンが頭領の力量を持ちながらエマにその座を譲っているように、エマも街を支配出来る力を持ちながら俺にその座を譲って貰っている……ようなものだな。
「また暗殺部門は……私からよりはアヤから報告を受ける方が適当かと」
「そうだな……アヤ、どうなんだ?」
俺の呼びかけに応じ、俺の影が揺らめく。そして中からアヤが姿を現し、片膝を突いて俺に一礼した。
「はっ。特にご報告するような問題はありません。以前よりも「依頼」の数は減っていたようですが、それも徐々に回復しているようです」
アヤは今でこそ俺の影と同化し俺の護衛を主な任務にしているが、元々は暗殺者。その為エマとギルドの幹部から頼まれ時折暗殺術の講義をメンバー相手に施している。直接暗殺部門と関わっているだけに、この部門に関してはエマよりも事情を詳しく知り得ているのだ。先も述べたように暗殺部門に所属している者達に魅了はほとんど効果がないのだが、伝説のシャドーダンサーに対する尊敬はあるようで、彼女の指導を受けたがるメンバーは後を絶たないとか。それだけでもギルドに対する忠誠は高くなるらしく、エマも幹部も助かっていると言っていたな。
そもそも暗殺者は他の部門以上に独立心が強く、ギルドはあくまで仕事を受ける窓口に過ぎないと考えている者ばかり。実際その通りで構わないのだが、職業が職業なだけにいざという時に裏切られるのは怖い。メンバーとして名を連ねるための「規律」くらいには従って貰いたいのがギルドの本音で、その要に今アヤという講師の存在が当てはまっている。まあ講師という側面もあるが……「裏切ればシャドーダンサーが動く」という脅しにもなるわけだ。
「そうか、二人ともご苦労だったな……ところで、お前達は良いのか?」
何が? と問い返されることはない。今現在一人、「良いこと」をしているのを前提に言っているのだから。
「私は主の影として、主と共に「感じて」おりますので」
アヤが俺の影と同化してからそれなりの歳月が流れたが……そもそも影とは宿主に最も近い「別次元」であり、特に精神へ影響を与える。とはいえ精神がむき出しになっているわけではなく、影を通して精神に影響を与えられる術はごく僅かで、影縛りなどがその限られた特殊な技になる。影と同化するという行為もまた特殊な一例だが、こちらの影響力は影縛りなどとは比べものにならないほど大きい。アヤは宿主である俺の精神から自身の精神に強い影響を受ける状態にあり、その影響力は日に日に増している。特に快楽に関するシンクロは主従関係にある淫魔同士ということもあり、絶大。俺が女達を抱いている快楽はそのままアヤの快楽にも等しくなっていた。
つまり、今涼しい顔をして俺の前で跪いているアヤではあるが、俺の感じている快楽……「形のない肉棒」を愛撫される快楽を彼女は得ているのだ。
余談だが、この逆……つまりアヤが感じる快楽を俺が感じるということはない。誰だって、自分の影を踏まれたって痛くないのと同じように、影から俺自身に対して大きな影響はほとんど無い。むろん彼女がその気になれば相互シンクロも可能らしいく、俺が「無い膣」を感じるように仕向けることも出来るらしいが、それをやらせたことは……オナニー程度ならたまにあるくらいか。流石に肉棒を「入れられる」感じだけは経験しちゃいけない気がする。この一線は絶対に越えてはならないだろう。
「私も……そうですね。フフッ、後でシーラが帰ってきましたら相手をして貰いますので、ご主人様の手を煩わせるまでもありません」
「ひぐっ! ちょ、エマ、急にはげ、し、んぁあ!」
机の下から響く喘ぎに、エマはクスクスと笑いだす。生粋の淫魔であるシーマを満足させられるのは、主であるこの俺以外にはエマだけだろうな。それだけ彼女の技は素晴らしく、足先だけでもこの通りだ。またその逆……エマを満足させられるのも俺を除いてはシーラくらいだろう。この二人、そう言った面においてもベストパートナーだったりする。
「そうか……ならもうしばらくしたら「出る」としようか」
部屋を出る前に、「出すもの」がそろそろだ。
「ん、チュ、ん、ふあっ! ん、く、あ、ベロ、クチュ、ん、んく、ん、ん、んんんん!」
喉の奥へと流れ込む白濁液。それをこぼさず喉を鳴らしながら飲み込んでいくシーラ。腹の中ではミルクティーに……いや、ティーオレにはなっているだろうな。
「……どうだった? アヤ」
自分のことなんだから判りきっているんだが、あえてアヤに言わせてみる。
「はい、相変わらず素晴らしいテクニック……参考になります」
「もっと直感的な感想が欲しいな」
「……とても気持ち良かったです。私の「女」までもが刺激され軽く逝ってしまうほど……」
傍目からはとてもそうは見えないが、確かに彼女の股間を注意深く見ればしっとりと濡れているのが判る。まあ彼女はその前にエリスとの一戦も俺と一緒に感じていたんだから、その分もあるのだろうけど。
「うむ……そうだったな。それではエマ、シーラが戻ったらよろしくな」
そう言いながら俺はシーラの頭をポンポンと軽く叩き、服を整えながら席を立つ。
「はい、行ってらっしゃいませご主人様」
「ハァ……ん、いってらっしゃぁい……エマぁ、今度は直接指入れてよぉ」
まだ俺が部屋にいるというのに、シーマはもう次の快楽へと心を移していた。相変わらずな使い魔に苦笑しながら、影へと戻ったアヤと共に俺は部屋を出て行った。