第8話

 金色の7番街。いよいよ、大勝負の舞台へとやって来た。
 ここには俺の眷属になる女、ミネルバが待っている。だが彼女はゲルガーを名乗る破滅の悪魔と手を組み、彼女の故郷イーリスを滅したガルザック王国への復讐と破滅を企んでいた。
 ポイントとなるのは……彼女の望んでいる事がイーリスの復権や侵略者ガルザックに対するレジスタンスではなく、むろん王国への侵略でもない事。破滅という復讐を成立させることにある点だ。その為に兵をここ金色の7番街に集めていることを知ったから、俺達はこうしてこの街へやって来たわけだが……さて、ここからだよ問題は。
 彼女が望んでいるのは破滅。それも兵を集めていることからして……物理的な破壊行為だと推測される。実際彼女と初めて対面した街……赤の13番街ではモンスター軍を挙兵し物理的に街を占拠した。今回も同じ手口かと思ったが……どうも様子がおかしい。
 そもそも、何故わざわざ「人間の」兵を集めている? ゲルガーの手先であったシーラが言うには、彼女のように方々で戦力となる山賊や海賊のようなならず者や傭兵や冒険者など闘いに秀でた者をゲルガーは魅了や洗脳などして集めていた。その一端として動いていたシーラを止めることは出来たが、彼女が集めていた兵は全体のごく一部に過ぎない。同時に方々で集められた兵士達はもう集まっているはずだ。実際手前の街でその兵達に襲われたし。モンスター軍を招集できるゲルガーがわざわざかき集める人間の兵……意図して人間の兵を集めているのは間違いないが、その目的が戦力増幅だけとは思えない。何か別の狙いがあるはずだ。
 そして何を狙っているのか不透明なのは……ミネルバ、彼女もだ。こちらの動向に気付きながらも挑発してきた彼女。さて、わざわざこの街に招き入れて何を企んでいるのか……。
 気になることは多いが、もう街へ足を踏み入れてしまった。こうなれば行動を起こすしかない。俺達は当初の予定通り二手に分かれ、作戦を開始する。
 この街へ来た「表向き」の理由は、この街で行われる社交パーティにエリスが出席するため。そのパーティの名目は……闘技場で行われる武闘大会を見学に来る社交界の者達を持て成すというもの。このパーティの主催者は闘技場で活躍する奴隷戦士を何人も所有している富豪の一人、ベイリンチ卿。またベイリンチ卿以外にもパーティ参加者には奴隷戦士のオーナーが何人もいる。エリスは単純に見学だけという名目でのパーティ参加だったのだが……彼女には奴隷戦士のオーナーという役所も兼ねてもらうことになった。その奴隷戦士の役はもちろん、カサンドラが勤める。二手とは、エリスを中心とした外交組とカサンドラを中心とした参加組の振り分け。俺はエリスと共に外交へ回ることになる。
 そもそもカサンドラとあの闘技場には深い因縁がある。カサンドラは元々イーリスの戦士としてミネルバの率いる聖騎士団に所属していた。しかし敗戦兵となった彼女は敵国に掴まり、奴隷戦士として売られ……ここの闘技場で死線をかいくぐり続けた。俺としてはカサンドラにとって因縁の多き闘技場で再び奴隷戦士として参加させるのは忍びなし、何よりミネルバがカサンドラを狙っている以上別行動を取らせるのは危険だと躊躇っていたのだが、ミネルバの挑発もあってカサンドラ本人が参加することを強く望むようになった。エリスの立場としても、カサンドラを奴隷戦士役にする方が何かと都合が良いのは事実で……結局俺がカサンドラの熱意に折れた形になった。
 ミネルバがカサンドラを狙っている以上、カサンドラが参加するのをあの女が狙っている可能性は充分にあり得るので、俺はカサンドラに護衛兼手綱役としてセイラを同行させ、また彼女の雇い主代理となるアリスと、彼女のメイドとしてリーネもカサンドラ組に加わった。またシーラもカサンドラ組に同行させたが、当然彼女は翼も尻尾も隠してセイラ同様フードを被った魔法使いのような格好をさせている。正直、アリスがいないと怪しいことこの上ない集団だな、見た目は。ま……中身は違う意味で「妖しい」んだが。
 残った面子はエリス組として、主催者の屋敷へ挨拶へ向かう……前に、先に挨拶を済ませるべき人物との接触を図っていた。
「……なんだってお前がこんな人と……」
「まあいいから。ね、早くボスに会わせてよ」
 窓口となる男は目を見開き、ニコニコ笑いながら男を見上げているティティと、そして彼が所属する組合……盗賊ギルドにはあまりにも似つかわしくない貴婦人エリスとを何度も何度も見返した。
「突然の訪問に驚かれているでしょうが、ティティさんとのこと、そして誇り高きあなた方ギルドにも有益となるお話があるものですから、失礼とは思いましたが直接参りました。何卒、お取り次ぎをお願いいたします」
 一介の盗賊に深々と頭を下げる元領主夫人に、なかなか開いた口をふさげない男。だがギルドの窓口に立つだけに、抜け目なくエリスとその後ろに立つ護衛役の俺とメイドのフィーネを見定めている。
「……判った、ちょっと待っててくれ……ください、ご婦人」
 男はエリスを見つめたまま後ろへ下がり、姿を消した。おそらく大慌てで取り次ぎに向かっただろう。
「アハハ、あんなに慌てちゃって。おっかしぃの」
 同僚の様子に腹を抱え笑うティティ。まあ笑っていられるのは今だけだよな……さぁて、交渉はどう転ぶかね……カサンドラじゃないが、こういう緊張を強いられるなら直接戦場で剣を交えたい気分だが、ここはエリスの交渉術に期待しよう。

 俺達はティティも入ったことがないという奥の部屋……組織の長、ギルドマスターの部屋へ直々に通された。広いが薄暗い部屋の中に敷き詰められるよう並べられる装飾品。その中に置かれた豪勢な椅子に腰掛けているのが、部屋の主……チップマンと呼ばれているギルドマスター。
「こんな汚らしいところで悪いが、まあ座ってくれ」
 派手なアクセサリーをジャラジャラと鳴らしながら、葉巻を持った右手で俺達へ座るよう勧める。左手はこれまた派手に着飾った妖艶な女性の腰に回されている。なんというか、「いかにも」という感じだな。
「お目にかかれて光栄ですわ、チップマン様」
「こちらもだ、エリス夫人。あんたの武勇伝は聞いてるよ」
 武勇伝ね……どこまで、どれほど知っているのか……情報も商売にする盗賊ギルドだ。気になるところだが、今はエリスに全てを任せるしかない。俺とフィーネは護衛を名目に、ティティは交渉の中心となる人物と言うことで同席を許されている。その代わりチップマンの側にも近衛兵が一人いる。おそらく着飾った女も、その見た目とは裏腹にこの場に相応するだけの盗賊なのだろう。
「さて……なんでも我がファミリーであるティティのことで話があると伺ったが?」
「はい……その前にまずお聞きしたいのですが、ティティさんにあなた方が任せた依頼の内容は熟知しておりますか?」
 交渉という名の探り合いが始まった。俺はただ成り行きを見守ることしかできない。
「手紙を届ける……というものでしたな。その受取人があなた方だとは知りませんでしたよ。依頼人が直接ティティに伝えるということだったので」
「では、この依頼でティティさんが「生贄」にされていたということもご存じないと?」
 流石に眉をひそめるギルドマスター。だが……どうもわざとらしい。
「それは聞き捨てなりませんな。もしそうならば依頼人は我々に重大な過ちを犯したことになるが……少々解せませんね。何故手紙を運ぶだけでティティが生贄になると?」
 当然の疑問で返される。この問いに、さてエリスはどう切り返すのか……。
「生贄と言うよりは貢ぎ物と申しましょうか……私の口からは申し上げにくいのですが」
 エリスは悲しげな顔で溜息を一つ。そして続きを切り出した。
「手紙を届けた相手は私の奴隷戦士であるカサンドラでして、彼女は……その、とても「好事家」でして」
 そう良いながら、エリスはクシャクシャになった紙……ティティが届け、俺が一度丸めて捨てた手紙……「ささやかな餞別(せんべつ)を、死に急ぐ君達へ送ろう」と書かれたあの手紙をチップマンに差し出した。アレをちゃんと保管してたのか……彼女はおそらく重要な手がかりになると思って隠し持っていたのだろう。実際にティティがカサンドラに忍ばせた手紙は別の物だが、エリスはこちらの手紙をティティがカサンドラへ「真正面から」渡し、そしてカサンドラに掴まったと説明した。
「餞別……なるほど、ティティをその餞別にと?」
「カサンドラは男女問わず見境のない性癖を持ってまして……特に最近は小さな女児に興味を持っていましたから……お恥ずかしい話ですわ」
 随分な言われようだな。本人が聞いたら何というのか……後者はともかく、「見境のない性癖」ってあたりは否定しきれないのがなんとも……。
「ふむ、依頼者はあなた方に敵対しているようですな」
「ええ、その通りです」
 しばし会話が途切れ、沈黙。しかしすぐにギルドマスターが口を開いた。
「申し訳ないが、依頼者の情報は話せない」
「もちろん、あなた方の立場は理解しておりますわ」
 こちらは何もまだ要求していないが、暗黙の提示を受け取ったギルドマスターは、しかしその要求を断った。信用あっての商売だからな、盗賊ギルドは。
「しかし、その依頼者はあなた方盗賊ギルドを騙し、ギルドの会員を一人生贄にしようと送らせたのですよ?」
「むろん依頼者には相応の処置を執るつもりですよ。だがそれとこれは、別の話。依頼者とあなた達との関係は我らが関与すべきものではないが、同時に、我らと依頼者の関係も、あなた方が関与すべき問題ではない」
 口調こそどこか軽いが、発言の重みは間違いなくある。これ以上の口出しは無用、という重みは。
「処置ですか……あなた方に、それが出来まして?」
 完全な挑発。流石にギルドマスターの目が細くなり、殺気にも似た空気が流れ始める。
「相手の名はミネルバ、ブラックガードです。彼女は破滅の悪魔グラブレズゥと手を組み、この街を破滅せんと目論んでいます。失礼ですが、盗賊ギルドが処置を執るなど「手軽」に手を出せるような相手ではありませんわよ?」
 エリスの言葉に反応し、近衛兵が一歩前へ近づく。それを片手でギルドマスターがなだめた。
「赤の13番街を解放したあなたでなければ相手に出来ない……と?」
「そうではありません。あなた方の結束力と手腕があればブラックガードでも悪魔でも、いくらでも屈服させるでしょう。しかしその為に受ける被害も大きいはず。あなた方がどれほどこの一件を重く見ているのか判りませんが、被害は最小限に止めるべきではなくて?」
「……処置の肩代わりをするから、情報をよこせ……そう言いたいのかな?」
「機転の利く方で助かりますわ」
 相手が誰であれ、便宜上報復処置は行いと言うのは当然。だがギルドがティティという人材をどれだけ大切にしているかにもよるが、処置の執行に際し分が悪くなるのであれば問題を放置するだろう。もちろんそんな事になればギルドの沽券(こけん)と面子に関わり結束力も鈍る。折り合いを何処で付けるか大いに悩むべき所……そこへ肩代わりしてやろうと申し出ているんだ。彼らにとって渡りに船、そうなるはずだ。
「……重要なことなんで、即答はしかねるねぇ」
 情報の漏洩を嫌ったのか、それともミネルバを恐れているのか……溜息と共に椅子へ深く座り直したギルドマスターから、良い返事が得られなかった。この流れ、悪い方へ行ったな……そう思い始めた矢先、エリスはとんでもないことを口走った。
「ならば決定権のある方にお伺いし直した方がよろしいかしら。いかがでしょう、私の提案は……本物のギルドマスター様」
 事もあろうに、エリスはチップマン……ではなく、その側にいる女に視線を向け再度提案を口にした。女は目を見開き、そして口を開き始める。
「……たいしたモンだ。自慢じゃないけど、正体を見破られたのは指で数えられるくらいだったんだよ? 領主夫人の座は、ただ「寝取った」ってだけじゃないんだね」
「ふふ、あの人の場合はそれで正解ですわ。その後はまた別にして」
 いやマジか……俺は完全に騙されていたぞ。それをよく見抜けたな、エリス。こりゃ俺が思っている以上にエリスは有能な外交官なのかもしれないな。
「何処で判った?」
「お渡しした手紙を見ている時、ですわ」
 何の変哲もない手紙ならまだしも、クシャクシャになった手紙から文字を読み取るのは通常でも見づらい。それを立った位置からのぞき見るなんてのはとても困難だ。もし女性が本当にチップマンの情婦なら、興味は持っても真剣にのぞき見ようとは思わないだろう。また女性が情婦に見せかけた近衛兵なら、視線は手紙ではなく手紙を渡す動作をしたエリスへ向けられるはず。にもかかわらず、女性はクシャクシャの手紙をどうにか読み取ろうと真剣な視線を向けていた。流石に凝視するそぶりは見せなかったが、しかしただの好奇心でのぞき見ていない、そんな雰囲気は読み取れたとエリスは語る。
「まいったね……そんな罠をしかけられていたとは」
 ウェーブの掛かった長い黒髪を掻き上げながら、エリスの観察力に舌を巻く女頭領。
「罠ではありませんわ、本当に偶然……私に運があっただけの事」
 確かに、俺はこんな事まで想定して手紙を丸めた訳じゃない……しかしエリスはどうだろう? 色々計算し尽くしていたとしたら……よくもまあ、こんな女を眷属に出来たな。皆そうだが、改めて彼女達の実力を知る度に、俺は運が良かったのだと思い直すよ。
「そう……さてと、改めて名乗らせて貰うよ。私がギルドマスターのエマ……と言っても、私が真のマスターだと知っているのはこの部屋にいる「8」人と、幹部の者達、それと外で待機している護衛数人だけよ。表向きは娼婦部門の取締役幹部って事になってる」
 今聞き捨てならない事を言ったぞ……娼婦部門というのも気になるがそれじゃない。この女、今「8人」って言ったな……今「見えている」のは俺とエリス、フィーネ、ティティの4人と、エマ、チップマン、そして近衛兵の3人、それを合わせて7人……俺の影に隠れているアヤに気付いているって事か……流石は本物ってことかよ。
「こっちは手の内を明かしたわ。対等に取引をしたいなら……そちらもお願いできないかしら? 悪党狩りのレイリーさん」
「……見透かしたのはエリスだけじゃないって事かよ」
 参ったね、この女達には。まあ俺がレイリーである事、そしてエリスと俺の立場については……情報を集めている盗賊ギルドなら気付いてもおかしくないか。
「エリス夫人が新しいパトロンを探しに来た……なんて噂もあるみたいだけど、あなたが本物のパトロンでしょう? 色男さん」
「まあそんなところだ」
 パトロンっていう立場じゃないんだが……まあここで正体を晒すわけにはいかないし……と、思っていたんだがな。
「……お互い、ここで信用を築いた方が得だとは思わない?」
 ただのパトロンじゃないってのはバレてるか。しかしこのまま素直に全てを語るわけにはいかないよな、やはり。
「何処まで知っていて、どんな関係だと思っている?」
 全てをこれからさらけ出すにしても、まず何処まで知られているのか……これは盗賊ギルドだけではなく、今後何処でも同じように知られていると危惧して取り組むためにも重要だ。
「エリス夫人を裏切らせ、実際にあの赤の13番街を救ったのがあなた……というくらいかな。どうやって夫人を虜にしたのかまでは知らないけど、寝取ったって言われても驚かないわ」
 さすが娼婦部門も束ねているボスだよ。舐めるように俺を見渡して舌なめずりする仕草はとても色っぽい。なんというか、外見的な魅力もそうだが、内面からあふれ出る妖しげなオーラというか……これがギルドマスターという座に着く者の風格か? 最初に見た時から思っていたが……この女も手に入れてみたいな。ま、流石に手を出す気にはなれないが。
「寝取った……ってのは、ほとんど正解に近いな」
 チップマンと入れ替わり席に座るエマにならい、俺もエリスと席を入れ替わりながら話を続けた。
「結論から言おう。彼女は俺の眷属だ」
 腹をくくり、俺は自分の正体と眷属達との関わりを話し始めた。
 正直……この盗賊ギルドを全面的に信用しているわけではない。というより、ギルドがミネルバの手に堕ちているのでは……という疑念が残っている。ティティをメッセンジャー兼餞別の生贄に仕立てたのはミネルバだが、彼女の目論見にギルドが全く気づけなかったのかは疑問だ。既に盗賊ギルドがミネルバの手中にあるものだとすれば、このお膳立てはすんなり出来ただろう。ミネルバの傘下に入ってはいなくとも、ミネルバの企みに気づいた上でティティを差し出したのならば、それはそれで信用できない組織という事になる。俺の危惧のどちらかが当たっていたとしても、ここでギルドに俺の正体をばらしても問題ないと、俺は判断した。組織がミネルバに操られているなら既に俺の正体は知られているだろうし、ミネルバの企みに気づけないような間抜け集団なら、ミネルバを俺の眷属にした後組織ごと利用してやるまでだから。
「……呆れた。それだけの理由で悪魔と闘おうって?」
 俺の目的が善意の救済ではなく個人的な欲望であることを知ったエマは、大きく音を立て背もたれに寄りかかる。
「それだけの価値があると思わないか? ミネルバには」
 どうだか……エマはそう呟き、息を吐き出した。まあ人の価値観はそれぞれだからな、うん。
「……そんな理由でも、悪魔やブラックガードに対抗できるだけの「力」があなたに集まっているのは事実のようだけど……」
 カサンドラをはじめとした戦力も彼女の耳には入っているのだろう。憶測だが、アヤの事を先ほど頭数に入れたのも、彼女が集めた情報を元に鎌をかけたのだろう……ということに今気付いた。くそ、やはり交渉術は俺が直接やるべきじゃないな……相手の方が何枚も上だぞ。
「まあいいわ。あなたと取引してこちらに損はないでしょう。この街を破滅させられるのも困るしね」
 苦笑いを浮かべながらも、目は真剣だ。ギルドがミネルバの傘下にないなら、街の破滅はギルドの存続にも関わるのだから当然か。
「それと、先にそちらの疑問と誤解を解かないとね……恥ずかしい話だけど、うちのギルドは半分ミネルバに持って行かれたわ。ティティの件も、それが原因」
 半分? 俺が眉間にしわを寄せたのを見取ってか、こちらから疑問を投げかける前にエマは語り出した。
「どうも裏切り者が何人かいるみたいでね……裏切ったのか操られているのか、判断が難しい所なんだけど……私の知らないところでギルドが勝手に動いてるのよ」
 むろん勝手に動かしている連中もエマには知られないようにしていたようだが、気づけないほどエマは無能ではなかった。裏切りに気づいたエマは直ぐさま「敵」の情報を集め始めたらしいんだが……。
「ミネルバという名前は、あなた達から初めて聞かされたわ」
 兵をこの街に集めている事や洗脳を駆使している事まではかぎつけたようだが、その首謀者が麗しの聖騎士ミネルバだとは知らなかったらしい。もちろん彼女がブラックガードになっていた事も。
「ギルドを正常な状態に戻すためにも、あなた達の力は必要だった。けれど……」
「情報通りの連中か、確かめたかった……って事か」
「そんなところ。まさかその正体が変態魔族とまでは思わなかったけどね」
「変態魔族とは失礼な……」
 まったくその通りだが。
「とにかく……私達は共通の敵を相手にしている。なら、手を組んで悪いことはないわね」
「そういうことだな」
 とりあえず……これで交渉は成立。お互いに協力し合い情報を交換できるよう細かい打ち合わせをすませたところで、握手を交わす。半分どころか全てをミネルバに奪われている可能性も否定しきれないが……ここはひとまずエマを信用するしか無いだろう。
「ところで……今更だけど、ティティは? まさか手紙の通り……」
 おっと、肝心なティティの話を忘れていた。俺は目配せでティティに合図を送る。するとティティははいているズボンを下ろし、上着をめくり、股間をギルド連中へ見せつけながら話し始める。
「ごめんなさいボス……あたしはもう、ご主人様の変態眷属にしてもらいました。だからギルドはもう辞めます」
 謝罪しながらも、ティティは張り型を入れられベットリと濡らした股間を見られながら微笑んでいた。ハーフリングであるティティはれっきとした成人女性だが、見た目は人間の幼女。そんな幼女が妖艶に微笑み痴態を晒すという光景はとても背徳的でいて、官能的。だからこそ尚更、その光景を見た者の感情をあらゆる方向へ激しく揺さぶる。性欲も理性も。
「……あなたにも報復すべきなのかしら?」
「仕方ないだろ、恨むならミネルバを恨んでくれ」
 まあ流石に大切なギルドメンバーをこんな風にしたら怒るよな。成り行きはエマも理解しているだろうが、だからって全てを納得できるわけではないだろう。ただエマとティティは直接的な面識があったわけではない。ティティを眷属にされて立腹しているのはティティだからではなく、ギルドメンバーに手を出されたという事へ対する怒り。
「……脱会はミネルバへの報復が終わるまで保留します。それと、ティティの事は内密にしておきましょう。その方がお互いの為でしょう?」
 互いの立場も考え、エマはその怒りを溜息一つで収める事にしたようだ。ティティに張り型を仕込んでおいたのは、話の流れによっては「こっちはこんな事も出来るんだぞ?」と脅しをかける為だったんだが……やりすぎた?
「それにしても……そう、ここまで……」
 なんか、目の色が変わってきたぞ……先ほどまでの怒りは何処へやら、エマは含み笑いを浮かべながらティティの痴態をじっくりと眺め始めた。ティティはエマの視線を感じて目尻を下げ口元を上げ、息を荒げ始めた。だが同時に、ただ露出しているだけという状態にもどかしさを感じているのだろう。腰がムズムズと動き出している。
 背徳的だと理性がエマを憤怒させたが、それを納めた今、この背徳的な官能は性欲を大きく揺さぶるのみ。女であることを商売にしているエマなら、尚更だろう。
 そしてこの状況と雰囲気を小さな身体で感じているティティは、更に息を荒げさせる。まだ淫魔の基礎技術を学んでいないティティだが、塗り替えられた淫魔の本能が、この状況を愉しめと囁いているのだろう。
「うちの娼婦達よりも良い顔するじゃないか。これが淫魔ってヤツかい?」
 興味と興奮の入り交じった、詰問とも感想ともとれるエマの発言。あからさまに、エマは自分の部下を奪われた口惜しさよりも恥辱にまみれた淫魔への好奇心が上回っているようだ。
「なんなら、試してみるか?」
 これは好機か? 俺はさりげなさを装いながら、エマを「こちら」へ誘った。軽くお茶でもどうかと誘うように。
「……好奇心は猫をも殺すって言うけどね……そうでしょう? エリスさん」
 エリスはただ微笑むだけでその答えとした。そしてエマも微笑んだ。その笑みが意味することは……さて、なんなのか。エマは自分の好奇心……欲情のままに動けば、その結果どうなるかを心得ているはず。だから自制してはいるが、それを完全に押さえ込めてはいないのか……。
「でもなんだか辛そうだねぇ、ティティ……おやおや、辛いのはうちの男どももかい?」
 エマが振り返ると、なんとも複雑な表情で軽く前のめりになっているギルドマスターの影武者、チップマンが。そして近衛兵は直立こそ保っているが、それ故に顔は辛そうだ。
「なんだったら、「ソレ」を処理して貰うかい? レイリー、お願いできるか?」
「あまり他の男の相手はさせたくないんだがね……ま、これも俺達の「同盟」と「友好」の為と思えばな」
 俺の許可を得て、エマが顎で男達に合図する。おずおずと二人の男はティティに近づき、いそいそとはち切れそうな彼らの肉棒を解放した。
「手と口で処理してやれ」
「はぁい。えへ、お兄ちゃん達のおっきいね」
 お兄ちゃん達……ねぇ。ティティは俺の眷属になる前から、保身のために人間の男達を何人も相手にしてきた。その経験から、人間の男を相手にする場合は「お兄ちゃん」と口にするのが良いと学んだのだろう。ま、こういう時の呼び名が重要なのは俺もよく判っているが。
 いきり立つ二本の肉棒を、ティティは小さな手で掴みしごき始めた。片手ずつでは掴みきれないが、むしろその掴みきれない力加減がもどかしく興奮させる。
「あは、もうお汁出てるね。ん、ピチャ、チュ……ふふ、おいしぃ」
 鈴口から漏れ出てきた先走り液を、小さな舌がチロチロと交互に舐め取っている。その様子を上から凝視しながら、二人の男は小さなうめき声と荒い息を吐き出す。
「すごい、まだ出るよ……ん、クチュ、チュ、ん、もっと出してね」
 懸命に握った指を滑らかに動かしながら、上目遣いにティティは催促する。短い指、その「小さな手」は盗賊ティティの二つ名。繊細で器用な指先は肉棒を掴み擦り、巧みに敏感な箇所を探り当て、的確な刺激を肉棒の主へ与える。かり首の根本を人差し指でギュッと押し込んだかと思えば、角を親指で柔らかく擦る。小指が裏筋を優しく撫でれば、中指が力強く肉棒を握る。まるで10本の指が各々意志を持っているかのように、悩ましく妖しげに動き回っている。おそらく眷属の中でもティティほどに「手コキ」が巧みな者はそういないはずだ。男達は片手でしごかれているが、これが両手ならもうとっくに果てていただろう。
「我慢しなくて良いよ。ね、白いの掛けて、ティティの顔に掛けてぇ」
 甘えた声に呼応するよう、二人の男は直ぐさま白濁液を勢いよく噴出した。
「ん、すごい……あは、美味しぃ」
 顔に掛かり垂れ落ちる白濁液を舌で舐め取り、ティティは上機嫌に微笑んだ。
「あれぇ? まだおっきしてるね……」
 わざとらしく幼稚な言葉を使いながら、ティティは二人の肉棒をツンツンと突き出す。そして振り返り、俺の指示を待った。
 黙って、俺は頷いた。ティティはにぱっと笑い、そして男達へ向き直った。
 刺さったままだった張り型を下から手で押さえながら、グチュグチュと音を鳴らしかき回すティティ。空いた手は成人女性らしい、あるいは幼女らしからぬ膨らみを帯びた胸へと伸びていた。
「今度はお兄ちゃん達がティティを気持ち良くしてね」
 その言葉を聞くやいなや、小さな身体を大人二人が群がるよう押し倒し、張り型を強引に抜き取り、直ぐさまあふれ出る甘露を争うように舐め啜る。
「やん、喧嘩しないで……そっちのお兄ちゃんはまた舐めてあげるから、ね」
 近衛兵を指名したティティは小さな口を大きく開き、太い肉棒を口いっぱいに含んだ。
「はむ、ん、チュク、チュ……ん、あは、そこもっと、ん、クリクリも一緒にぃ、ふあ、いいよ、指も使って……あ、ゴメンねお兄ちゃん、ちゃんと舐めてあげる……チュパ、チュ、クチュ……」
 言葉無く、行為に没頭する男達。彼らは完全に小さな淫魔に心を奪われ、本能の赴くままに身体を動かし始める。
「あ、うん。いいよお兄ちゃん、入れても……うあ! いい、おっきいよお兄ちゃん……ん、くふ、あふ……んふふ、こっちのお兄ちゃんもいいよ、ティティのお口マンコに突っ込んでね」
 まさに乱交。小さな女の子に対し、遠慮なしに腰を振る男達。どこか理性のたがが外れたよう……いや、もう外れている。
「ん、あふ、グチュ、グチョ……ん、はふ、んく、ジュポ、グチュ……」
 二つの小さな穴には大きすぎる肉棒が、その穴を押し広げ壊そうという勢いで何度も何度も激しく出し入れされる。だが入れられている当の本人は辛そうな表情を見せず、むしろ目尻を下げ受け入れていた。淫魔になってまだ間もないが、彼女もすっかりと俺の眷属として順応しているようだ。
 そんなティティ達の様子を見ているのは、もちろん俺だけではない。この刺激的で官能的な光景は俺達淫魔にとって日常だが、さて娼婦にとってはどうかな?
「エマ、君は良いのかい?」
 荒い息を上げながら胸を揉み服の上から股間をまさぐる娼婦が、そこにいた。俺はといえば、貴婦人とメイドにいつの間にか下半身を裸にされている。そして貴婦人は手で陰嚢を大切そうに持ち上げながら舐め始め、メイドは後ろに回り尻の中へ舌を伸ばした。そして二人とも、俺の肉棒には手を触れない……触れられずとも雄々しく起つ俺の肉棒は、そのたくましさを充分にエマへ見せつけていた。
「ふふ……そんなもの見せつけられちゃ……もう我慢できないわね」
 好奇心は猫をも殺す……ティティがどんな淫魔になったのか、興味を抱いた時点でエマの命運は決まっていた。淫魔であるティティの放つ愛液の香りは、人間には媚薬。ここ最近急速に力を付けてきた俺達に新たに備わった淫魔の能力だ。特にこの力に名称はないらしいが、便宜上俺は「淫魔香」と呼んでいる。
 この愛液の香りは大量に吸い込めばどんな人間でも欲情する。ただ濡れた股間を露出した程度ならさほど香りは強くないが、淫行を始めてしまったらその香りは直ぐさま部屋に充満する。そう、ティティの痴態を見るだけですませれば良かったところを、妙な「余興」を始めたエマは、その時点でこうなることが決まったようなものだ……少なくともこの時まで俺は、エマの失態をせせら笑っていた。
「ふふ……アレよりもっと凄いのでしょうね、あなたは」
「当然だろ。本物の快楽ってのを教えてやろう」
 派手にきらめくドレスの肩紐を下ろしながら、エマは俺に歩み寄る。そしてスルリとドレスを脱ぎ捨てながら、俺へ腕を伸ばし……。
「主、お待ちを!」
 突然、俺の足下から影が伸びた。そして影はガッシリとエマの顎、キスを求め半開きになっていた口を強引に開かせるよう強く握られた。言うまでもないが、影の正体はアヤだ。
「姑息な……このようなもの……」
 アヤはエマの口の中へ手を入れ、舌を摘み引きずり出そうとしている。舌? いやこれは……ズルズルと口から出される舌のようなソレは、異様に長い姿をさらし始めた。
「ひっ、ぐ……」
 呻くエマ。そしてアヤの手に絡まり抵抗する舌のような何か。
「滅!」
 勢いよくエマから引きちぎられた長い異形は、アヤのかけ声と共に握りつぶされ、そしてだらりと力なく垂れ落ちた。
「……助かったよ、アヤ。なんなんだそれは……」
「タンワームという寄生型の異形生物です。この女はこの異形を主の口内から体内へ潜り込ませ、抹殺しようと企てていたようです」
 ……ってことは、俺はここまで上手く踊らされていたって事かよ。たいした演技力だな……すっかり騙されていた。そしてハッキリしたな……盗賊ギルドは半分どころじゃねぇ、全てミネルバの手に堕ちていたって事か。
「やってくれたな、エマ」
 ぺたりと腰を落とし、青ざめた顔を左右に振りながら後ずさるエマ。恐怖におののいている……ように見えるが、しかし周囲へ視線を巡らせている当たり、何らかの逃走を企てているようだが……。
「無駄だ。待機していた護衛なら、既に私が無力化している。そして残り二人も……あの様だ」
「ひあ、ん、も、い、そこ、もっと、ん、ふぁ!」
 アヤの視線は、これだけの騒ぎをまったく気にせず乱痴気に耽る三人の姿へ……いや、それはそれでいいんだがな、なんかこう……まあいいか。
 それにしても、アヤは用意周到だな。俺は護衛をどうにかしておけと指示を出した覚えはない。彼女は独断で、俺にも気付かれぬうちに護衛を無力化しておいたのだろう。彼女なら何処に護衛が潜んでいるのかすぐに判るだろうから、後は影を伝って速やかに……って感じだな。だったらもう少し早く俺に伝えておけとも思うが……いや、たぶんこのタイミングも彼女なりの計算なのだろう。エマを逃がさないための。
 そのエマは退路を断たれ、震えながら俺を見上げている。万策尽きた彼女は、もうそれしかやるべき事がないから。
「たいした女だよ。どこまで演技だったんだ?」
 おそらくエマは……あるいはミネルバは……俺がエマの正体に気付くかどうか問わず、何らかの形で俺を誘うつもりだったのだろう。俺がエマに興味を持つことを想定し。まったく……好奇心は猫をも殺すって、それは俺に当てはまる言葉になりかけてたったわけだ。
 エマはミネルバから俺達のこと、むろんティティの事も含め全て聞かされていたはず。その上でティティに男達をあてがわせこんな状況になるまで持ってくるんだから……たいした役者だ。だが見くびりすぎたな。情報戦を得意とする盗賊ギルドのマスターが、アヤの存在を認識しながらもだまし通せるとたかを括ったのがエマの敗因か。
「ところでアヤ、よくその異形に気付いたな」
 エマは誰にも見抜けないと自信を持っていた寄生異形生物の存在。それをどうしてアヤは見抜けたのか?
「以前私も飼っていたことがありますゆえ……タンワームを口内に宿している者は、微妙ながら声がこもります。そして異形独特の口臭も」
 なるほど、流石はアサシン。この手のやり口は全てお見通しってわけか。
「……まだなんか取り憑いてないだろうな?」
「……異形はもう取り憑いておりません。毒物の類も大丈夫かと。ですが……妙な気配を感じます」
「は? どういう事だ?」
 なんだよ、妙な気配って。俺は説明を求めたが、どうやらアヤにはこれ以上の説明が出来ないようだ。となれば……本人に聞くしかないな。
「お互い、隠し事はしないって決めたんじゃなかったっけ? エマ」
 息を荒げるばかりで、エマは問いかけに答えるそぶりを見せない。こうなると面倒だな……まだ何か隠しているようだが、しかしここまで来たらやることは決まっている。
「アヤ、念のために「影縛り」をしておいてくれ」
 エマの影を封じ、エマを拘束する。これでとりあえずエマから何かされることはないと思うが……。
「ま、その様子じゃたいした抵抗も出来ないだろうよ」
 先ほどまで青ざめていた顔が、また徐々に赤みを帯び始め……ずっと荒かった息も、その意味が変わりつつある。彼女は俺を陥れようとしていたが、その為に招いた淫魔の媚薬香をたっぷりと吸い込んでいる。眷属にされる恐怖よりも、身を震わせる快楽に心を支配されているはずだ。この様子なら……大丈夫だろう。ここまで欲情してたら、まだ演技だって可能性はかなり低いと思う。
「そうだな……アヤ、褒美も兼ねてお前がまず舐めてくれ」
 手柄を立てたアヤを跪かせ、ずっと立ちっぱなしだった俺の肉棒を咥えさせた。身の危険を味わいながらも萎えなかったってのもなんだな……ティティ達のことを言える立場じゃないか。
「では主……ご主人様、頂戴いたします」
 アヤは髪を掻き上げながら顔を揺らし舌を絡め、俺の肉棒をしゃぶり始める。
「ん、クチュ、グチュ……んふ、ん、クチャ、チュ、チュパ……」
 頬をすぼめながら吸引し、舌を細かく動かしながら亀頭を刺激する。強引に俺の中から白濁液を吸い出そうとしているかのように。
「では私達はこのまま……ん、ご主人様のこんなに膨らんでて……コロコロして美味しいですわ」
「ピチャ、チュ……ん、美味しい、ご主人様のお尻……とても美味しいです……ん、チュ」
 陰嚢を軽く揉みながら何度も吸い付くエリスと菊門の中まで丁寧に舐め上げるフィーネがアヤの援護を続けていた……まあ援護と言うより二人とも本気のようだが。
「今日はよくやったな、アヤ」
 髪を撫でながら、俺の影を褒め称える。その影は上目遣いに満面の笑みを向けた。この世の幸福を全て受け取ったかのような笑顔を。
「よし、出すぞアヤ……」
 言って間もなく、俺はアナの喉奥へ白濁液を勢いよく浴びせた。それでもアヤは咽せることなく、だが身体を震わせながら白濁液を口いっぱいにため込む。いつの間にか露出していたアヤの膣からは、口のものとは異なった液を垂れ落としていた。淫魔として成長したアヤは、フェラだけでも逝けるようになったからな……まあアヤだけじゃなく……
「あふ、ん……ふふ、あまりにも美味しいのでつい……はしたないところをお見せしてしまいましたわ」
「チュ、クチュ、あっ、ふあ……あは、ご主人様の舐めてるだけで気持ち良くなれちゃう……」
 俺に触れているだけでも快楽を得られる眷属達は、これだけのことで膣をビタビタに濡らし軽く逝ったようだ。こんな眷属達へ新たに加わることになる女は、ジッと俺達の様子を震えながら凝視している。
 程なくして、アヤは振り返り動けなくしたエマに近づく。そして先ほどのように顎を掴み強引に口を開かせ、自分の口からたらりと白濁液を流し込む。エマは俺の洗礼を素直に飲み込んでいった。覚悟は出来たということか……いや、単純に快楽に精神を支配され、無意識により強い悦楽を求めているに過ぎないか。だがこれからだよ……眷属という最高の悦楽を感じるのは。
「さてエマ……お前はなんなんだ? アヤの言う妖しい気配とはな……」
「ああ、く、ダメ、も、もう……あぁああ!」
 俺の尋問が終わらぬうちに、エマは拘束されながらも悶え、そして……その姿を、変えた。
 長い黒髪は藍色に染まり、瞳はすみれ色に変色した。その他の容姿は変わっていないはずだが……なんだこれは、内から溢れる魅力とでも言うのか……先ほどよりも美貌と優雅さが幾分も増したような……どうなってるんだ?
「……そうか、お前インスパイアドだな?」
「イン……なんだそれ?」
 まだ口元から垂れる俺の精液を手で拭き取り、アヤはエマの正体を語り出す。
「クォーリという精神のみの生命体を取り込んだ人間です。簡単に言えば、「魂」が二つ宿った人間です。私が感じた妙な気配は、重なったその魂のものかと」
 アヤの話では、魂……精神は二つ同居しているが、「意識」は融合され一個人として生きているとのこと。だが入り込んだクォーリという精神体の恩恵は受けるらしく、「サイオニクス」と呼ばれる、魔法とはまた異なる能力が使えるようになっているとか……なんだかよく判らんぞ。
「おそらくそのサイオニクスの能力で、人間の姿に化けていたのでしょう。私でも見抜けませんでした……申し訳ありません」
 いや、そもそも妙な気配とやらだって感じられなかったからな俺は。アヤが謝罪することはないんだが……まあ彼女の忠義が謝罪させるのだろう。
「二つの精神と一つの意志か……えっと、ベースは人間なんだな? つまり……」
「はい、おそらく眷属にすることは可能かと」
 だよな。眷属化は肉体と精神のどちらへも影響を与える。まず肉体は人間なのだから、ここは問題ない。精神は二つあるが、意志が一つならおそらく可能だろう。眷属の本能は「意志」の書き換えなのだから。意志を書き換えれば自ずと二つの精神にも影響を与えるはずだ。
 ま、ようするにやることは変わらないと。
「詳しいことは後でゆっくり訊くぞ……まずは快楽の波に溺れろ、エマ」
「や、め……ん、うぁああああ!」
 精神が二つあろうと何だろうと、疼く身体は一つ。膣へ一気に突き入れた肉棒の衝撃に、二つの魂が一つの声で大きく喘いだ。くく、精神が二つなら快楽も二倍になってるのかもなぁ。
「や、ん、い、あっ、んぁあ! こ、きも、ん、あっ、あ、あぁあ!」
 俺の仮説もまんざらじゃないか? 影縛りをふりほどくんじゃないかってほどに、エマは乱れている。こうなりゃとことん責めるか。俺はアヤに影縛りを解かせ、そしてアヤを含めた三人にもエマを襲うよう合図を送る。
「ふふ、盗賊ギルドのマスターはただの淫乱娼婦でしたか。こんないやらしい身体をして……ちょっと羨ましいですわね」
 豊満な胸を大胆に大きく揉みながら、エリスがなじり始める。
「でも綺麗な乳首ですね……乳輪とか、もっと黒ずんでるかと思ったのに」
 フィーネはピンと起った乳首を歯で甘噛みしながら引っ張っている。
「もしかしたら、そこだけまだ変化の術を掛けておるかもしれぬぞ? さあどうなんだ淫乱異能者よ」
 エマの腕を背後へ回しそれを掴みながら、アヤは耳元で尋問する。
「ひ、ちく、ちくび、ひっぱら……んあっ! それ、き、きもちよす、い、いたぁ! いたい、けど、い、あ、んぁ! こ、こし、した、も、もっと、お、おく、おく、おく、ふあ、あ、ふぁああ!」
 三人の話など聞ける状況ではないな。藍色の髪を振り乱しながら、エマはただただ喘ぎ続ける。
「あら、ではこの柔らかい胸も偽物? そのようには見えませんが……もっと確かめてみましょうか」
「そうですね、エリスさん。私もこの乳首、もっと引っ張ってみようかな。なんでしたら、噛み切って良いかも」
「流石にこの首は本物であろうな? どれ、ご主人様が牙を立てる前に綺麗にしてやろうか」
「ちく、ひぐっ! く、くび、そこは、な、なめ、あぁあ! む、むねもそん、いぎっ! あ、んぁあ! おっ、おく、おくあたって、ん、ふあ、い、くぁああ!」
 体中を愛撫され、激しく腰を打ち付けられ、二つの精神が快楽に支配されていく。身体はもう、何度か逝っている。それでも俺達はエマを快楽で狂い殺そうかという勢いで攻め続ける。
「口の中はどうなのですか? まだあんな変なものが入っていないか確かめた方がよろしいのかしら」
「そうだな……では私が。ほらエマ、暴れるな……ん、クチュ……」
「ん、チュ、チュパ、チュ、ん、クチュ、クチュ、チュ……」
「あらら、すっかりアヤさんのキスに夢中? むー、ちょっと悔しいからこっちもキス責め」
「フィーネったら、そんなにキスマークを胸に付けたら取れなくなってしまいますわよ?」
「大丈夫ですよ、エリスさん。この胸は偽物なんですから。こんなに弾力あって、キスするだけでこっちが気持ち良くなっちゃいそうな胸……ん、チュ、チュ……こんなの、ん、もっと、キスマーク付けてやれば良いんですよ」
「……胸なら私も負けぬのだが……悔しいから背中にもキスマーク付けてやろうか」
「そ、やぁあ! き、キス、キス、い、や、んぁ! ぜ、ぜんしん、き、キス、んあ! や、ま、また、また……や、ん、ふぁああ!」
 流石にそろそろ……俺も限界だ。エマもまた絶頂に上り詰めるようだし、潮時か。
 俺は暴れるエマの頭を押さえこみ、首筋に牙を立てる。そして一気に牙と、そして肉棒を奥へ奥へと突き入れた。
「やっ、は、かっ……あ……」
 散々乱れていたエマは、まるで事切れたかのようにその動きを止め、だらりと力なく腕を垂らす。ゆっくりとエマを床に寝かせ、俺は腰を引いていった。コポッと音が漏れ、膣から愛液があふれ出る。俺が流し込んだ白濁液は……どうやら全て子宮が飲み込んだらしい。
「流石に気を失ったか」
 あれだけ責め続けられての絶頂だったからな、無理はない。目を覚ますまでしばらく待つとするか……ん、だがまだなにか……
「ふあ、ん、いい、いいよお兄ちゃん、もっと、もっとおくにぃ!」
 やっべ、ティティの事すっかり忘れてた……ティティが相手にしている男達はまだ利用価値があるかもしれない。ここで絞り尽くすのはまずいな。俺は慌てて、ティティを止めに入った。

「娼婦の身体と頭領の心、そして忌まわしき悪魔より植え付けられた異能、全てがご主人様のものにございます」
 深々と頭を下げ、エマが彼女なりの言葉で俺への忠誠と愛を誓った。その誓いの言葉には……聞き逃せない重要な要素が含まれていた。
「……植え付けられた異能?」
「はい。私がインスパイアドとなったのは、あの悪魔……ゲルガーめの仕業にございます」
 エマの話からは、これまで謎だった洗脳の秘密と、奴らの企みが見えてきた。
 まずエマ自身のこと。彼女は突然押しかけてきたミネルバ達に為す術無く押し切られ、そして洗脳されたとのこと。その方法が「強制インスパイアド化」というもの。
 インスパイアドはそもそも、訓練を受けた人間が自ら望んでクォーリという別次元の精神生命体を取り込んでなる、ある種の種族。基本的に邪悪な者達で、クォーリによる支配を目論んでいるとか。それをあのゲルガーは、「疑似クォーリ」を作り出し強制的に洗脳すべき人間に寄生させ、サイオニクスという異能力を備えた洗脳奴隷を生み出しているらしい。ただ本物のクォーリと訓練された人間とで生まれるインスパイアドとは異なり、様々な問題点がある。
「まず洗脳すべき人間の精神を……破壊します」
 疑似クォーリを定着させやすくするために、まず催眠状態による洗脳を行う。これがあの時のカサンドラと同じような状態。そして徐々に精神を崩壊させ、ほとんど自我が無くなったところで疑似クォーリを寄生。崩壊した精神を取り込みながら疑似クォーリは身体に定着し、そして強制インスパイアド化する。
「私のように成功する場合もありますが、ほとんどは自我が崩壊した段階で死亡してしまうケースが多いようです」
 だろうよ……だから訓練された人間でなければクォーリを寄生させないのだろうな。エマの話では、精神が崩壊してもインスパイアド化が上手くいけば自我を取り戻せるらしい。ただし、ゲルガーに洗脳された状態で。ある意味俺の眷属化と近いところもあるな……ただの操り人形ではない、自我を持った有能な奴隷、しかも特殊な能力を備えた奴隷を生み出すのだから。むろんヤツと俺とではは決定的に違うところもあるが。
「ご主人様のおかげで、ゲルガーの洗脳から解放されました。植え付けられた疑似クォーリも、ご主人様を主と認めております」
 俺の予測通り、意志が一つになっているエマと疑似クォーリは、俺の洗礼を一緒に受け眷属化したようだ。その為異能もそのままに、彼女は淫魔と吸血鬼の力も手に入れた事になる。
 ま……正直、異能については「おまけ」程度のものだ。重要なのは、エマという女を俺の眷属にしたということ。俺は頭を下げているエマの頬に手を当て、ゆっくりと面を上げさせた。
「俺はゲルガーとは違うぞ。エマ、お前も愛してやるからな」
「はい、ありがとうございますご主人様……」
 俺の手に自分の手を重ね、涙を浮かべるエマ。その歓喜が眷属化によるものだとしても……俺はゲルガーとは違う。眷属にした以上、エマを他の眷属達同様大切に、愛してやる。それが眷属にした俺の責務だ。
 さて……これで奴らの狙いがある程度判ってきたな。何故人間の兵力をかき集めていたのか……その答えは、エマに行った強制インスパイアド化の為だな。となると、サイオニクスなんて異能者も相手にすることになるのか……厄介だな。
 それともう一つ、盗賊ギルドのことだ。エマの話では、彼女のように洗脳されたのはごく一部。そいつらを排除すれば、どうにかギルドを立て直すことも可能ではあるらしい。彼女の言っていた「半分はミネルバの手に堕ちた」というのはほとんど正しい答えで、ただエマがその半分に入っていたという点だけが異なるくらいのようだ。そしてそのエマを眷属にしたことで……
「もはや盗賊ギルドはご主人様のものです。何なりとご命令を」
「そう言われてもなぁ……」
 正直、ギルドとかその手の組織には興味はない。俺は単に、好みの女を眷属にして堕落した日々を送りたいだけなんだが……どうしてこんな大事になっていくかなぁ。
「ギルドの統治は後々考えるとして、今はミネルバへの対抗組織を一つ味方に加えたと、そう考えられてはいかがか?」
「ええ、今はそう考えるべきかと。元々盗賊ギルドを味方に付けようと私達はここへ出向いたのですから」
 そう、そうなんだよな……チップマンがギルドマスターだと思っていた俺達は、エマという極上の女を手に入れる予定なんかこれっぽっちもなかったんだよ。思わぬ形で盗賊ギルドを味方に付けたが……まあ当初の予定通りといえばそうなる。アヤとエリスの意見はもっともか。
「エマ、ティティと共にまずはギルドの立て直しに取りかかってくれ。後でシーラも合流させるから……くれぐれも、無茶はしないようにな。ティティも頼むぞ」
「お任せください、ご主人様」
「はーい、任せてね」
 エマの裏切りに気付いたミネルバやゲルガーがどう出るか心配だが、ここは彼女達に任せるしかない。俺達は予定……よりかなり遅れているが、武闘大会とパーティの主催者であるベイリンチ卿の屋敷に向かわなくてはな。
 しかし盗賊ギルドがこの有様では……ベイリンチ卿も疑って掛かる必要があるだろうな。しかし地道にあいつらの勢力を潰していくしかないだろう。これもまた、ミネルバを追い詰める一手だと思えば……。ようやく見えてきたあいつらの狙い。ミネルバを俺の女にする日も、もうすぐ……そうだと信じたい。

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