第5話

 悪党から「全て」を奪う、悪党狩り。ため込んでいた金銀財宝はもちろん、血も精力も、吸えるものは根こそぎ奪う。それが俺達の仕事だ。対象は悪党……小さな夜盗からちょっとした邪教教団まで、その幅は広い。が、それでも限度というものはある。
「悪徳領主だと? ちょっと待て、それは規模がでかすぎるだろ」
 師匠が提案してきた仕事は、四人の冒険者が担うにはあまりにも規模が大きすぎるものだ。俺達の住む街「黒の0番街」から馬車で1週間ほどの山岳地域。その一帯を納める領主を成敗してこいという、無茶なものだ。
 正直、その領主を殺すだけなら良い。俺の眷属に有能なアサシンが加わった事だしな。むろんそう簡単なことではないだろうが……それだけで全てが解決するなら、まだ楽な方だ。だが領主を相手にするということは、その領主が納めている領土そのものの問題を抱えると言うことになる。
 例えば、突然領主が暗殺されていなくなったとしよう。そうなけばそいつが納めていた領土が混乱するのは間違いない。むろんそうなったところで俺達に被害がなければどうでもいいと言えばそうなんだが、しかしイタズラに無関係の領民を混乱させて楽しむ趣味はない。それに領主を殺しただけでは俺達に何の「旨味」もない。俺達の目的としては、その領主が所有している財産も全て没収しなければ旨味とはならないわけだが……それを求めれば求めるほど、手間暇も含めリスクが鰻登りに高くなる。そんなリスク、俺達が有能とはいえ四人で請け負えるようなものではないはずだ。
「だいたい、あそこの領主は確かに良い噂こそ聞かないが、そこらの領主と大差ないぜ?」
 領主と領民との間にある様々な待遇格差や、そこから産まれる領主ならではの黒い噂。そんなもの、多かれ少なかれどこの領主にもあることだ。その噂が正しくても間違っていても、驚くには値しない。ようするに、お役人なんて疑い始めればきりがない、そんなご時世だって事だ。
「昨日、数多のモンスター軍団を率いて独立宣言したとしても?」
「なんだと?」
 寝耳に水。あまりにも唐突な話に俺は疑い半分で聞き返した。
「私も驚いてるのよ。悪い噂しか聞かない領主だったけど、そんな力があるなんてとても思えないし……」
 山岳地域……「火色山岳」はその名の通り岩肌が真っ赤なことで知られた山岳地帯で、その赤土は多くの鉄分が含まれている。その為その土から鉄を生成したり、また山岳の一部からは稀ではあるが様々な水晶が発見されることもある。そんな土地柄もあり火色山岳は工業や工芸で栄えていた。またそんな土地柄だからこそ……領主ベラウスには黒い噂が絶えなかった。私腹を肥やすために様々な裏取引をしているだとか、近々王族に娘を金目的で嫁がせるらしいとか、まぁそんなたわいもない噂……どの噂もあり得そうで、だが確証もない、そんな噂はいくらでもある。
 これらの噂が絶えない理由は他にもあり、その主立ったものとしては領主が贅沢好きだというところにある。事実領主は派手な生活をしていたが、しかしそれが現地の工芸を支えている一面もあったし、何より領主が贅沢だったからと言って領民が貧しかったわけではなく……噂の火元ではあったがそれを非難する領民は少なかった。
 さて……それらを踏まえたとしてもやはり今の話はにわかに信じがたい物がある。そもそもそれらの噂は大半が金銭絡みのものであって、「領主が王国に離反して独立する」とか「モンスター軍団を雇い入れて武力を蓄えているらしい」とか、そんな噂は聞いたことがない。噂にもなっていないことが起きたとなれば、そりゃ俺だって聞き返すし疑うさ。だが師匠の話では、どうも本当らしい。どうやって彼女が昨日起きたばかりの独立事件を知ったのかは……まあ師匠は何でもありだからそれはさておくか。
 師匠が仕入れた話では、突然街にゴブリン達があふれ出しオーガに警備兵が食われ、領主の館では高笑いする領主一家と、傍らには漆黒の鎧をまとった騎士と四本の腕を持った悪魔がいたという。
「……そいつらか」
「ええ、間違いないでしょうね」
 そいつとは……むろん、悪魔のことだ。どう考えてもおかしいだろ。流れ聞いた話が本当なら、その悪魔が後ろで手を回しているのは疑いようがない。そして漆黒の騎士……見た目だけで判断は出来ないが、悪魔と共にいたのならば……ブラックガードと見て間違いないだろう。悪のパラディンとも言われている、最凶最悪の騎士ブラックガード。そいつがモンスターの一軍を率いていると見て間違いないか……。
「……大義名分は判った。だがどちらにしても俺達だけじゃデカ過ぎる話だぜ。国家レベルの話だろ? これ」
 領主を完全な「悪」として、俺達の狩り対象にする理由は整っている。だがそれだけで、何の問題解決になっていない。
「実際国王はすぐに兵を送るでしょうね。だからその前に、出来る限り「貸し」を作ってきて欲しいのよ」
 この手の話、正義感溢れる冒険者が聞きつけたならいざ聖戦の場へと駆けつけるだろう。あるいは飯の種だと傭兵達も動くはずだ……どちらの軍勢に付くかは別にして。そして正規軍が来るまでに彼らはそこで「成果」を残し、後の「名誉」あるいは「報奨金」へと繋げていく。師匠の狙いはそれだ。
「商業都市として申し分のないところだから。そこの流通ルートを確保できたら、色んな意味で「旨味」があるのよ」
 魔具屋としては品を売るにしても材料を買うにしても、流通の確保は大きな旨味になる。むろん領主がため込んだ財産を奪えればそれに越したことはないが、今回はそこまで求めない、というのが師匠の方針らしい。
「……本音は?」
「根こそぎ持って来ちゃってね♪」
 無茶を言う人だ……人じゃないけどさ。
「もちろん無理はしないで良いわよ。そもそも、潜入して手柄を立ててくるだけでも大変だから」
 それでも俺達なら出来ることは多い……俺達が吸血鬼であり淫魔であることに、師匠は色々期待しているようだが……だとしても、他にも問題がある。
「で……俺達の旨味は?」
 ここだよ。そもそも悪党狩りは俺にも旨味があるから続けていることだ。例えば財宝。分け前が極端に少ないとはいえ、俺達にも一応分配がある。それに俺の場合、美しい眷属を増やせるという旨味が時たまある。こればかりは必ずではないが、それがあるか無いかでモチベーションがかなり違う。
「絶世の悪女がいるじゃない」
「……領主夫人と娘を狙えって?」
 領主の奥方とその娘は、美人としてその名は広く知られている。だからこそ「娘が王族に嫁ぐ」という噂話が事欠かなかったんだが……さてどうだろう。美人なのは間違いないだろうし、母娘が「悪」なのも、もう疑う余地はない。だがそれだけで眷属にするだけの価値があるか……
「その不細工なにやけ顔、もう決まったわね」
「……不細工は余計だ」
 考慮するまでもなかった……というより、考慮しようとすると色々とイメージが……妄想が幅を広げて制御できない。村娘の姉妹ってのも素朴で良いが、贅沢を知り尽くした母娘を傅かせるってのも確かに悪くないよな。
「突然の話だったからちょっと準備に時間を頂戴。そっちも色々準備がいるだろうし」
「判った……また後で来る」
 難易度の高すぎる仕事という事に頭を悩ませるよりも、さてあの母娘をどうしてやろうかという妄想ばかりが膨らみ収拾が付かない。楽天家な俺の思考回路が、さて今回は吉と出るのか凶と出るのか……。

 屋敷に戻ってする準備は、そう多くない。そもそも装備や荷物のほとんどは師匠が用意してくれるから。俺がしなければならないのは、眷属達へ仕事の内容説明と今後の方針を話すことぐらい。これはいつものことなんだが……今回はちょっと様子が違う。
「えっ、私達も同伴してよろしいんですか?」
「やったぁ! お姉ちゃん、やったね!」
 フィーネとリーネも火色山岳に連れて行く。これが普段とは大きく異なるところだ。彼女達は俺の眷属だから普通の人よりも身体能力に優れている。しかしコレといった戦闘訓練を積んでいない彼女達は、基本的に戦力外だ。だから悪党狩りの仕事に彼女達を連れて行くことはなく、普段は留守番をさせていたんだが……。
「片道だけで一週間。滞在期間はどれだれになるか見当が付かない。それだけの長い期間、お前達何も無しで「耐えられる」わけがないだろ?」
 淫魔が長い夜を何もせず、長期間我慢できるのかって話だよ。普段悪党狩りの仕事をしている時は留守番させ、姉妹で慰め合いながら主の帰りを待ちわびるわけだが……それにだって限度がある。彼女達の「疼き」を考えたら、今回は同行させた方が良いだろう。
「それに……今回はお前達だから出来ることも色々あるだろう」
 俺もただ未来の眷属に対する妄想だけしているんじゃない。それなりの「プラン」ってのは頭の中にある。
「ご主人様のお役に立てるなら、何なりと」
「ね、もちろんそれって、とってもエッチな事だよね?」
 姉に比べて妹は……まあ、その姉も淫猥な笑みで俺を見ているわけだが。
「当たり前だ。お前達には立派な「娼婦」になって貰わないとな」
 それを聞いた姉妹の喜びようと言ったら……くく、流石は俺様の眷属だよ。
「……で、レイリー。正直、勝算はあるのか?」
「わからん。潜入するだけなら簡単だが、そこからは……現地に向かいながら考えるしかないな」
 師匠の情報もまだ乏しいからな。準備しながら新しい情報は仕入れるし、現地に向かう道中も情報は俺達の元へ魔具を通じて届けるとは言っていたが、いずれにしても今何か対策を立てられるような状況ではない。
「ま、いいか。どっちにしても……久しぶりに思い切り暴れられそうだ」
「ですわね。ふふ……領主クラスを虐められたらどんなにか心地好いでしょうか……ああ、ゾクゾクします」
 カサンドラとセイラはやる気だ。だが一人……アヤだけが浮かぬ表情。
「……何が心配だ?」
「悪魔とブラックガード……主はどちらが「首謀者」だと思われますか?」
 アヤは俺達がどんな狩りをするのかということに着眼している中で、今回の事件背景に目を向けていた。彼女はそこから対策を立てようと思っているらしいが……。
「情報を待とう。それからでも遅くないだろう」
「……御心のままに」
 仕事依頼としては、無理をして領主を倒す必要もなく、当然噂の悪魔やブラックガードとまともにやり合う必要はない。だが……領主の妻や娘を狙えば自ずと関わってくるはず。いずれは考えなければならない離反の裏事情だが……今はその時ではない。
「ま、何はなくともまずは景気づけだ……出発まで、愉しむか」
「……御心のままに」
 さわさわと尻を触る俺に、アヤが俺の太股に股間を押しつけ応える。俺達の雰囲気を即座に察し、他の四人も物欲しげに近づいてきた。難しいことは後回し、快楽主義の俺達は今を愉しむのが正しいあり方なんだよ。

「ね。私達全然怪しくなんて無いからぁ……入れて、ね?」
「お願ぁい、おじさまぁん」
 二人の門番にそれぞれ、身体を密着させながらお強請りしているのはうちの娼婦姉妹だ。色香を漂わせ耳元で甘く囁き、そして相手の股間を手でなで上げている。完全なる色仕掛けだ。
「私達を街に入れてくれたら……私達の「アソコ」にも、入れさせてあげるから。ね?」
「夜に兵舎へ行けばいい? みんなにサービスしてあげるからぁ……お願ぁい」
 通行料は身体で支払うという……通常なら絶対にあり得ない取引。だがこの街では……それがあり得る街に変貌してしまった。
 赤の13番街。火色山岳の中心街。1週間前までなら娼婦の誘惑に屈するような門番はいなかっただろう。いや、そもそももっと人の往来が自由な街だったはずだ。だが今は硬く門を閉ざし屈強な門番を見張らせる、そんな街になってしまった……もっとも、その門番が門番としての役割を果たせていないのだが。
「ま、まあ……怪しい者ではないようだな。通して問題はないだろう。なぁ?」
「そう……だな。だが、中は今危険な状態だ。何かあったら……ここを尋ねるが良い。我々が相談に乗ろう」
 そう言って門番が指さしたのは、近くにある兵舎。つまり通行料の受付窓口を案内したと……まったく、たいした警備だよ。おかげで助かった……色々とな。姉妹は門番が門を開けるのを見届けてから彼らの頬に口づけし、手を振りながらこちらへ戻ってきた。門番も姉妹に手を振って笑顔で街に入る俺達を見送っている……いい気なもんだ。自分達が淫魔の術中にはまっているとも気付かないのだからな。
「上手くいきましたね、ご主人様」
「これで後は……にひひ、楽しみぃ」
 無邪気で、そして淫猥な笑みをたたえる二人。俺の役に立てたことが素直に嬉しいというのもあるのだろうが、これはまだ作戦の初段階……彼女達の楽しみは、夜に待っている。だがその夜もこれから次第……門番を誘惑したのは、模索しているいくつかの「作戦ルート」の一つを行う前準備だ。実際に門番達が待つ兵舎に彼女達が向かえるかどうかは……本当に見えてこない。それでも馬車は真っ直ぐ、街の中をゆっくりと進んでいった。
 馬車に乗ったままの俺達はかなり目立っている。周囲の人々……ゴブリン達魔物連中も含め、多くの者達から視線が注がれていた。むろんこうして目立つ事も作戦の一つ。馬車はカサンドラが普段の格好で……とはいえあの露出アーマーだからそれだけでも目立つんだが……ごく平然と馬の手綱を握り、馬車の中では俺を含め四人が座ったまま馬車に揺られている。姉妹は娼婦が着る派手で露出度の高い服を着させ首輪をはめ、その首輪からは鎖が伸びており、その鎖は俺が握っている。セイラも姉妹とほぼ同じ格好だが腰に愛用の鞭をぶら下げ首輪は付けていない。俺は少し悪趣味な、いかにも成金ですって格好をし、アヤは俺の影の中に潜んでいる。門番を姉妹に誘惑させていたときからこの格好でアピールを続けているのだが……とりあえず周囲の「食いつき」は良好だ。これが上手く言ってくれれば良いんだが……。
「……聞いてはいたが、酷いな」
 死体が散乱し死臭が漂う街。姉妹達の故郷だった村でも似たような光景を見たことはあるが……あの時の比ではない。俺は周囲の惨状を見て思わず呟いてしまった。セイラですら眉間にしわを寄せるほどの光景だからな。
「しかし思っていたより……「人」もおりますね」
 そのセイラが周囲に怪しまれないよう気を遣いながら監視し、呟く。モンスター軍に占拠されたと聞いていたが、街にはゴブリンやバグベアの他にも人間を多く見かける。全てが街の生き残りではないだろうが、冒険者や傭兵にも見えない……初めから領主の軍に加わっていた人間だろう。
「……ドワーフを見ないな」
 俺もセイラ同様キョロキョロと視線を泳がせないよう注意を払いながら様子を見ていたが……この街には数多く住んでいるはずのドワーフを見かけない。ここは鉱員の街であると同時に工芸の街。鉱員の職人もドワーフが多く、この街も例外ではないはず。なのにドワーフを一人も見かけないというのは妙だ。通りに出てこないだけ……なら良いんだがな。
「ご主人様、着きました」
 カサンドラが目的の場所……領主の館に到着したことを告げる。演出の一つとして、カサンドラには調教時と同じよう「ご主人様」と呼ぶように伝えている。誰が何処で見ているか判らないからな……演じるなら徹底的にやらないと。
「そうか……では参ろうか」
 むろん演技は俺もやらないと行けないんだが……言い辛いな、こういう言い回しは。
「貴様ら、何者だ?」
 館を見張るバグベアの門番に馬車から降りたところで問い詰められる。俺はわざとらしいほどに深々と頭を下げ、その質問に答える。
「はっ、私めは「このような」商いをしておりますレイリーと申します。こちらの領主様の素晴らしい噂を耳にし、是非お力になりたいとはせ参じました。お目通り、願えますでしょうか?」
 ……大丈夫かな? こんな感じで……とりあえずバグベアに礼法のなんたるかは理解できないだろうから大丈夫だと思いたいが……むしろ「このような商い」という事を理解したかの方が心配か。
「……待ってろ、今聞いてくる」
 とりあえず上手く行ったか……門番が一人奥へと引っ込み、しばらく……門番が一人の少女に付き従うようにして戻ってきた。
「ふぅん……奴隷商人ね。なるほど、お父様に取り入ろうってわけ」
 お嬢様というよりはお姫様。少女の出で立ちはまさに姫君のそれ。美しい光沢を放つ金髪は縦ロールで綺麗にまとめられ、宝石が沢山ちりばめられたティアラを乗せている。服も貴族が愛用するドレス……だが色は白ではなく黒を基調としているのが「らしい」といえばらしいか。口調もお姫様という感じではないが、やはりこの生意気そうな口調も服の色とあいまって「らしさ」が出ている。小生意気だが、なるほど確かに噂通りの美人だな。歳はフィーネと同じくらいだと思うが……見方によってはフィーネより年下にも見えるし、年上にも見える。
「はっ、アリスお嬢様とお見受けしましたが……いや、噂とはあてにならぬものですな。かのようにお美しい方を言葉で表そうという事がそもそもの間違いか。私も商売柄、美人と呼ばれる女性を多く見て参りましたが……女神にお会いしたのは生まれて初めてでございます」
 うわぁ……言っててなんか吐きそうだよ俺。こんな世辞でいいのかな……とりあえず、良いらしい。小生意気そうなお嬢さんは、まんざらでもなさそうに笑ってやがる。
「せせこましい商人らしい口ぶりね。でも気に入ったわ。いいわよ、会わせてあげるから付いてきて」
 よし、まずは潜入成功……やっと一歩踏み出せた。本番はここから……まだ気が抜けないぞ。

「ほう……上玉じゃないか。しかも姉妹か……そちらは調教師か?」
「はい、セイラと申します。どんな女でも、私の鞭に掛かれば従順な奴隷に仕立て上げることが出来ますわ」
 領主達との面会。俺達は領主達の座席から何段も下にある広場で膝を折り挨拶をしている。まったく、まるで国王の謁見じゃないか。周囲の装飾も一介の領主にしては度が過ぎている。王様気取りの悪徳領主を前にして、俺達は裸の王様をおだてる仕立屋よろしく領主ベラウスを持ち上げながら自分達「奴隷商人」を雇うよう頭を下げている。
 これが、道中で練りに練った作戦だ。自分達を奴隷商人に見立て領主に接近し、内情を探る。そして後から来るであろう国王の討伐部隊と師匠を通じて連絡を取り合い、内部から切り崩していく。仮に領主の懐へ飛び込めなくても、街で商売をさせてくれと食い下がれればどうにか……という所まで考えていた。
「良いだろう、街での商売を許可してやる。店は適当に自分達で探せ……俺の名を出せば好きなところで商売が出来るように手配してやろう」
 これはこれは……思った以上の好感触。領主が好色家だという噂は本当だったな。ま、領土を占拠したばかりで気前が良くなっているんだろうが……これはもしかしたら、一番楽なパターンで行けるかもしれない。何通りもの可能性を考慮した作戦の中でも、もっとも楽なパターン……領主を魅了するパターンが見えてきた。行けるぞ、この作戦。
「して……その姉妹はむろん我に献上する気でおるのだろう?」
「当然でございます。むろん、今後も定期的にベラウス様に気に入って貰える娘を手配いたしますとも」
 スケベジジイが。娘がすぐ側にいるってのにその態度か……まあ良い。こちらの筋書き通りに事が運んでいる……このまま行けば成功は間違いない。
 そのはずだったんだがな……。
「お待ちください、陛下。その女を近づけるのは危険です」
 商談に水を差す者が現れた。漆黒の鎧に身を包んだ騎士……やばいな。これは想定した一番まずいパターンへ流れるか……そんな最悪のシナリオが頭を過ぎりながら、俺はそれ以上に引っかかるものを感じた。声が……高い? 良く見れば鎧の胸元に……二つの膨らみ。女か……女のブラックガードとはそうかそうか、これはまた……くそっ、顔をフルフェイスのカブトで覆っているから見ることが出来ない。これで美人なら……いや、今はそんな予定外の作戦を組み込む余裕はない。まずは進行中の作戦に集中しないと……今作戦の成否がかかっている瞬間なんだから。
「その奴隷は、魔物にございます。吸血鬼と淫魔のハーフ……珍しい女ですが、近づけるには危険です」
 やはりばれたか……まあ、バレるのも想定済みだがな。そうだろう? 相手は悪魔にブラックガードだぜ。そりゃバレるよな……しかし楽勝パターンのレールからは外れても、まだ作戦は続けられる。
「はっ、その通りでございます……この娘は私が眷属にした者達でございまして……だからこそ、ベラウス様の元でなら私の商いを理解していただけるかと思いまして……」
 ここからは勢いで口車に乗せるしかない。淫魔だから娼婦向きなんだとか、だから領主には気に入って貰えるはずだとか、場合によっては邪魔な相手を眷属にして領主の手下に出来ますよとか……まぁとにかくセールスポイントをまくし立てた。正体を知ったときの領主は当然警戒色を強めていたが、俺のアピールにだんだんと乗ってきて、終いには……。
「どうだ、とりあえず商売だけでもさせてみては。それで様子を見ても良かろう?」
「……陛下がそこまで言うのであれば……」
 ブラックガードが折れた。よし、どうにか作戦は続けられそうだな。こいつ、相当な女好きだな。危険だと知っても淫魔を抱いてみたいらしい……近いうちに安心して姉妹やセイラを抱ける工夫をしろと注文を付けてきたよ。ここまでなら想定内……だったんだがな。
「もう一つ、私からも条件があります」
 ブラックガードがまた口を挟む。その条件が、俺の予想を超えたものだった。
「そこの女戦士を我が軍に加えたい。貴公の身の上は我々が保証する故、かまわんだろう?」
 ボディガードの奴隷として接見の場にいたカサンドラが指名されるとは……領主の「趣味」によってはありえるとは思っていたが、そのまま戦士としてか……ここまでなら想定はしなかったとしても想像は出来る。だが想像を超える偶然というのは、常にあるものだ……ブラックガードがゆっくりと兜を脱ぎ、その素顔を晒した。表れたのは精悍な顔立ち。当然美人……その美貌が予想外と言うことではない。カサンドラがその顔を見て狼狽し始めたのが予想外なことだった。
「まさかこんな形で巡り会うとはな……カサンドラ」
「おま……馬鹿な、なんでお前がこんな……それもブラックガードだと?」
 知り合いか? そのようだがこの様子は……何がどうなっている?
「商人……レイリーだったか。お前がどうやってカサンドラほどの女を奴隷にしたのかは聞かぬ。だがこの女、私とは浅からぬ間柄でな。どうしても配下に欲しい。譲ってくれるな?」
 口調からカサンドラの実力を知っているようだが……なんだこの、有無を言わさぬプレッシャー。流石ブラックガード、ただ者じゃない。
 さてどうする……これは無下に断れる雰囲気じゃない。だがカサンドラの様子を見る限りこのまますんなりと連れて行かれるのはまずいぞ。軍の中にカサンドラというスパイを紛れ込ませられるのはむしろ好機だが、しかし……。
「失礼ながら……カサンドラは私もお気に入りの奴隷でして。所望されるのでしたら断る理由もありませんが、せめて騎士様とどのような関係だったかをお話しいただければ……」
 断れないなら、せめて情報が欲しい。カサンドラがこの場で口を開ける状況にない以上、ブラックガードから情報を得なければ……。
「……昔の話だ。すまないがあまり詮索してくれるな」
 くそ、無理か……情報もないとなれば厳しいな……さてどうする? これ以上の引き延ばしは無理だな。ここはひとまずカサンドラを差し出すしかない。
「……お前に異論はないのか?」
「はっ……「麗しの聖騎士」と褒め称えられたミネルバ様の下でこの腕を振るえるならば、異論はありません」
「……余計なことを」
 麗しの聖騎士……ミネルバ……カサンドラがどうにか残してくれたヒントを脳内で何度も繰り返しながら、俺は次の行動に出なければならなかった。
「では騎士様、カサンドラをよろしくお願いいたします」
 一礼するとカサンドラは立ち上がり、黒騎士の側へと歩み寄った。として二人はそのまま謁見の間から遠ざかっていく。その後ろ姿を見送りながら、俺はどうしようもない不安に心を潰されそうになっていた。無事でいてくれよ、カサンドラ……。

 思い出したよ、麗しの聖騎士ミネルバ。五年前の戦争で滅亡した国のパラディン……彼女の美貌はもちろんその腕前と指導力でかなりのカリスマ性を維持していた聖騎士。滅亡後は行方不明になっていたと聞いたが……まさかブラックガードに堕ちていたとはな。カサンドラとの関係はまだ謎だが……色々見えてきたぞ。
 ミネルバの最終目的は……復讐だろうな。あの国を滅亡させた国はここ、ガルザック王国。その相手国の一領土で謀反を起こさせているんだ、領主を利用して復讐する気なんだと見るのが妥当だろう。その為にもカサンドラのような戦力を欲しながら、一方で自分の過去を語りたがらなかったと。色々見えてきたのは良いが、さてこの状況をどうすべきか……俺はベッドに腰掛け腕を組み、悩み始めた。
 俺は今領主の館で一泊している。ボディガードがいなくなったのだからしばらくは身の安全を守る意味でここに宿泊しろと。そういう領主……というかあのミネルバの計らいで。それだけならいいんだが、あの女、俺と眷属達との部屋を別々にしやがった。それもかなり離れた部屋に。警戒も怠らないってか……ったく、侮れないな。まあ、姉妹は元々夜になったら別行動を取らせるつもりだったからいいんだが……そういやもう始めてる頃かな? 俺は師匠の新作、ペンダントサイズにまで小さくなったロケーションの魔具を握り、姉妹の行方を探った。
 このペンダントは全員に持たせている。これは今までの魔具と同じようにロケーションの魔法を行えるだけでなく、ペンダントを持っている者をサーチしてその周囲をロケーションすることも出来るようになった優れもの。これを使って姉妹の「働きぶり」を覗いてみた。
「ん、いい、そこもっと……ふふ、ね、遠慮しないで……あんっ! そんなとこぉ……ん、もっと舐めてぇ」
「すごぉい、こんなにいっぱい……えへへ、オチンチンに囲まれて、リーネ幸せぇ。ん、クチュ、チュパ……チュ、ん、おいしぃ」
 やってるな。あらかじめ門番を誘惑しておいて良かった。フィーネとリーネは館を抜け出し、約束通り兵舎に「通行料」を支払いに行っている。むろんお礼が目的ではない。出来る限り兵士達を姉妹が魅了し、いざというときにこちらの手駒として動かすためだ。だから極端に精力は吸えないし血も吸えないが、下っ端の雑兵程度なら姉妹でも上手く取り入れさせることは出来るだろう。ゴブリンやバグベアの相手までしているが、それを嫌がることなくむしろ悦んでるな……よしよし、こちらは順調。残ったセイラはどうしてるかな……。
「困った方ですわね……でも、期待しておりましたのよ?」
「そうかそうか……ほほう、流石は淫魔、みっ、見事なな、その……」
「ふふ、そんなところからではなく……ほら、もっとこちらへいらして。もっと近くで……ご覧くださいませ」
「おお、おお……素晴らしい、素晴らしいよ……」
 これはこれは……領主はよほど我慢できなかったと見える。止められていたのにセイラの所へ行ったか……これは嬉しい誤算だな。このまま領主も魅了してしまえれば……雑兵同様、あのブラックガードがいる以上派手に取り込めないが、こちらの意見を通しやすくなるのは良い。
 三人は問題ないか。だが一番心配なのはやはりカサンドラ。様子を見てみようと意識を彼女へ向けようとしたその時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「……どうぞ」
「失礼いたしますわ」
 扉を開け入ってきたのは……黒いドレスに身を包んだ女性。アリス……ではない。その母、エリス夫人だ。
「これはこれは……エリス様ですね? 初めまして、私は……」
「レイリーでしたね? 夫や娘から話は聞いています」
 物腰の柔らかい、落ち着いた女性。だがどこにも……優しさが感じられない。態度とは裏腹に、人を射抜くような視線。それに見合う、つり目がちで細い目つき。口元もつり上がり、笑みを浮かべている。その笑みは……挑発的で、だがとても扇情的。娘アリスにソックリだが、娘が無邪気な悪意に満ちていたのに対して、母親は計算高い悪意に満ちている。第一印象をここまで俺に抱かせるだけの……悪女だな、コイツは。
「それはそれは。この度は私のような者をこのような素晴らしい……」
「止めましょう、無意味な探り合いは。私達はもっとストレートに、互いの「利益」を共有できると思いますのよ?」
 利益と来たか……何を企んでいる? 結局、俺達はここから「探り合い」を始めることになる。
「利益……ともうしますと?」
「言葉の通りですわ。夫が独立を宣言してから一週間ほど……これから正規軍が進軍してくるというにも関わらず、こんなにも早く夫に接触してきた……夫に何を見出しての接触ですか?」
 中々どうして……鋭いな。色香に狂う夫とは違うということか。
「お聞きでしょうが、我々は普通の人間とは違います。そんな我々が商いを出来る場所は限られておりまして……ベラウス様の下でなら、良い商いを開けるのではないかと馳せ参じました」
 正体がばれた時のために用意していた説明文。領主の前でも披露したこの暗記文を夫人の前でも披露する。
「それだけではないでしょう。あなたの狙いは、これから大きくなる赤の13番街という暗黒街で、確かな地位を確保したい……違いますか?」
 違うね、とはもちろん口にしない。彼女の推測は外れているが、しかし全くの見当違いとも言い難い。彼女が得ている情報……吸血鬼と淫魔のハーフが自分の眷属を売り物に奴隷商人をやっている……これだけの情報で考えるなら、妥当な推理だったといえる。
「それにあなたが連れていたあの女戦士……隻眼のカサンドラですわね? 凄腕の山賊として知られていた彼女を奴隷にしてしまうとは……あなた、ただの商人では無いのでしょう?」
 妥当どころか……良く見ているな。そして情報もしっかりと掴み自分なりに整理している……なるほど、美貌だけで領主夫人という地位を射止めたわけではないって事か。
「流石エリス様ですね。美しい方を前に嘘はつけませんから白状いたしますが、確かに私はここ赤の13番街が素晴らしい発展を遂げると見越し、これから来るであろう競争相手が根付く前にここでの地位を確保し、ゆくゆくはベラウス様の右腕となれれば……」
 おそらく、これが夫人の求めていた答え。夫人は俺がこんな野望を抱いていると予測したはずだ。そしてそれが正しかったことを、夫人は満足げな笑みで俺に示した。
「あら、あなたはその程度で満足なさるおつもり?」
 ゆっくりと腰をくねらせながら歩み寄る夫人。ドレスの肩口に手を掛け、ゆっくりと下ろしていく。シルクの擦れる音と共にドレスは足下に落ち、夫人はそのままドレスを脱ぎ捨て俺の隣に腰掛けた。
「どうせでしたら……この街を乗っ取りたい。それが本心。あなたにはそれを行うだけの力がおありなのでしょう?」
 ……まさか俺が色仕掛けされるとはね。それにこの夫人……侮れない。ニュアンスこそ違うが、確かに俺はこの街を最終的には乗っ取りたい……と言うよりは全てを奪って捨てるつもりでいる。計画は長期的ではなく短期的だが……ここまで近い推測をしてくるとはね。その上で、色仕掛けか……相当な悪党だな。
「……ベラウスは無能だわ。今までは貴族の血筋で領主をやってこられたけど、それももうダメ。ミネルバとゲルガーに利用されるだけの傀儡よ」
 ゲルガーというのは初耳だが……おそらくまだ見ぬ悪魔の事だろう。夫人は冷静に現状を見据え、自分の立ち位置の危うさに気付いているようだ。だからこうして、俺に乗り換えようと……ってことかい。
 なんか今回はサプライズが多すぎるぜ……何でも予定通りには行かないもんだ。とはいえ、夫人の接触は嬉しい驚き……この好機は上手く活用しないとな。
「そのようなことをおっしゃって大丈夫なのですか?」
「平気よ……ミネルバは今あなたの女戦士に夢中だし、ゲルガーは魔界に帰ってしばらく戻ってこないはずだし、夫は……ふふ、もしかしたらあなたのお仲間になってるかもしれませんわよ?」
 こんな接触をしてくる以上、当然周囲を確認した上で来たのだと思ったが……そうか、悪魔の方はいないのか。これは……今しかないな。カサンドラを除く三人がちょうど「最中」だし……かなり慌ただしくなるが、これを逃す手はないぞ。
 俺は胸元にあるペンダントにさりげなく触れる。そしてペンダントを通じて眷属達に指示を送った。
 吸い尽くせ、と。
 予定よりかなり早いが……行けるだろう。少なくとも三人は心配ない。問題はカサンドラだ……俺はベッドに映り込んでいる自分の「影」に手を置き、軽く指でその影を叩く。すると影がフッと二つに割れ、素早く他の影へと移動する。それを繰り返し、影……アヤは夫人に気付かれぬまま窓から外へ。カサンドラの援護に回った。
 さてと、こちらはこちらで……美味しく頂きましょうか。
「どう? 悪い話ではないでしょう?」
 会話の中に、一切「手を組もう」などという事は語っていない。だが言動がそれを物語っている。俺の耳元で交渉を持ちかけ胸の膨らみを俺に押しつけ、手はもう俺の服を脱がしにかかっている。交渉の内容は同名契約。その血判状は互いに刻む快楽。
「私があなたを奴隷にしてしまう……そうはお考えにならないのですか?」
 俺も自ら服を脱ぎながら質問する。半ば交渉は成立しているような流れだが、俺はあえて尋ねてみた。おそらく、夫人は俺がそうしないと踏んでいるのだろうが……その根拠が知りたい。どれだけこの女が計算高いのか、そこを見極めてみたかった。
「まだ早いでしょう? ミネルバがいる以上、あなたはそんな危険な賭に出られないわ。領主夫人に手を出したなんて……そんなことが知れたら、すぐに追い出されますものね」
 残念ながら、もうそんな「危険な賭」に出ているんだがな。それにこうしてもう手を出して……というか出させてるじゃないか。
「でもゆくゆくは……ふふ、そうなったら私も覚悟しなくてはね」
 何処まで本心なのか……ただこの女、よほど火遊びが好きらしい。口調とまなざしから、「期待」が滲み出ているように感じるぞ。
「エリス様……」
「エリスと呼んでください。これからは、あなたのエリスですわ……」
 あなたの……ね。なら遠慮無く俺様のエリスに命じてみるか。
「エリス、この話はリスクが大きすぎる……「あなただけ」では、いささか不足でございますな」
 そういって、俺は正面の壁に立てかけられた肖像画をジッと見つめた。
「……ふふ、私としたことがうっかりしてましたわ。確かにあなたの言うとおりですわね……アリス、見ているのでしょう? あなたもいらっしゃい。期待していたのでしょう?」
 エリスも俺に続き肖像画を見つめながら話しかけた。程なくして、部屋の扉が開きアリスが入ってきた。
「のぞき見とは、感心しませんね」
「ええ本当に……躾が行き届かなくて申し訳ないわ」
 アリスは顔を赤らめ下を俯いている。注意され反省しているのではない。肖像画の裏、壁越しに俺達をのぞき見ていたことがばれて気恥ずかしいだけだ。そして……これからのことに期待もしているのだろう。まったく、とんでもない母娘だ。娘の場合、父親も「あれ」だしな。
「わっ、私はお母様に危険が及ばないか、それが心配で……」
「ダメよ、この方を前にして嘘を言っては……これからは、この方が私達の主になるのですからね?」
 ま、文字通りそうするつもりだが……エリスと俺との間にあるニュアンスの違いに、俺は思わず苦笑してしまう。それをアリスはどう勘違いしたのか、睨みつけながら抗議する。
「なによ、いやらしい笑い……奴隷商人風情が本当に、私とお母様を救ってくれるの? すごく不安だわ」
 救う……ね。娘も娘で、自分の立場を理解していたのか。しかしなんだ、贅沢三昧してきたその生活を救って貰おう、これからも贅沢し続ける為の救済を求めるってのもね……俺がその贅沢を全部吸い尽くそうとしているってのにな。
「信用されないのは重々理解できますが、しかしアリスお嬢様、あなた様に最高の快楽を……並の男からでは味わえない快楽の提供には自信がありますよ?」
 ジッと見つめながら、俺は微笑んだ。この笑みが、とびきりのものに見えただろうな……俺様のチャームなんだから。
「あっ……うん。きっ、期待してる……から……」
 むろん本人はチャームされたと自覚していないだろう。突然湧き上がった恋心に戸惑いながら、それでもお嬢様としての自分を見失わないよう威厳を張ろうとしている。まさにツンデレだな。そんなツンデレお嬢様はゆっくりと自らドレスを脱いでいく。それを見ながら、俺はエリスの唇を愉しみ始めた。
「ん、クチュ、チュパ、チュ……ん、流石……ん、上手、クチュ、チュ……」
 遊び慣れているエリスは、積極的に舌を絡ませ、そして胸を押しつけ身体を揺さぶってくる。俺は下着の上からエリスの淫唇を弄り始めた。既に下着はしっとりと濡れ始めていた。
「ちょっと……ねえ、なによ二人だけで……」
 裸になったアリスが盛り上がる俺達に水を差す。まったく、我が儘なお嬢様だ。
「構って欲しいなら、そこでアピールしな」
「なによ、その言い方……あっ、アピールって……ん、こ、こんな……こと?」
 もう口調を演じることを止めた俺が命令する。それに反発しながらも、アリスは愛しい俺様に構って欲しくて自分なりにアピールを考え実演し始めた。立ったまま軽く足を開き、クチュクチュと右手で淫唇を弄り始める。そして左手は自分の胸をまさぐり始め、視線はジッと俺達に向けている。俺と母親の痴態を見ながらのオナニーか。これは中々見物だな。
「どうだ、娘がお前を見ながらオナニーしてるぞ?」
「ん、クチュ……ふふ、いやらしい娘ね、ん、チュ……そんな娘に、育てた覚えは……んっ! あ、ありません、よ……はぁん!」
「嘘……んっ、お、お母様は、いつも、私に……ハァ、あそこから、わ、私が見てたの、しってたくせに……んんっ!」
 なるほど、ここまで堂々とはしていないがいつものことなのか。母親が男を連れ込み、それを娘がのぞき見しながらオナニー……とんだ変態母娘だな。
「逆はあるのか?」
 下着の中に手を入れエリスの中をまさぐりながら、俺は何となく聞いてみた。何となく答えは予測付くんだが。
「ん、え、ええ……む、娘をちゃんと見守るのは……は、母親の務め……んっ! 務め、ですから……ハァ、そこ、深い……」
「うそ、み、見てた……見られてたんだ、んっ! お、お母様だって、ん、い、いやらしい……あぁ、ね、もう切ないよ……」
 娘も娘で男を連れ込んだりしてたようだな。というか、この部屋はそういう部屋ってことか……おそらく二人とも、領主の痴態ものぞき見してただろうなぁ。
「アリス、ほら……どうしたい?」
 膨張した俺の肉棒を、アリスに見せつける。口を開き舌を出し、アリスは息荒げ応えた。
「ほ、欲しい、欲しいわ……ねえ、頂戴。もう、入れて……」
「だ、ダメよ。まずは私が……ああ、レイリー、もう指では我慢できませんわ……入れて、ねぇ、お願いぃ」
 アリスはチャームされているせいもあるだろうが、エリスはチャームをしかけてないのにコレだ……本当に好き者だな。こりゃ、俺の眷属になるべくして生まれてきたような二人じゃないか。
 ……これが俺を取り込むための演技だとしたらたいしたものだが、二人とも発情しきってるのは間違いなさそうだ。
「そうだな……まずは舐めてくれ。上手く俺を逝かせた方に入れてやる」
 聞くやいなや、二人は争うように俺の前に跪き、腰掛けている俺を押し倒すかって勢いで肉棒を奪い合う。
「ふふ、こんなに熱くて硬くて……ん、ベロ、クチュ……そしてこんなに、ああ、美味しいです……」
「ずるいお母様……ん、クチュ、チュ、ここ、この袋……ここも美味しい……ん、ベロ、ピチャ、クチュ……」
 母親は竿を、娘は袋を口に含み丹念に舐め上げる。激しく奉仕しながら、二人とも自分の陰核を弄るのを忘れない。こいつら、本当に普通の人間か? 元から淫魔なんじゃと疑いたくなるな。
「ん、ほらアリス……美味しいわよ?」
「チュ、クチュ……ん、ホント……すごい、こんなに美味しいの……は、初めて……ベロ、クチュ」
「ああ、こんなに大きな……はふ、クチュ……ん、ここも、美味しいですわぁ。ん、チュ、はむ、ピチャ」
 淫行に溺れながらも、ちゃんと娘に譲る余裕はあるのか……これも親子愛? 変なことに感心している間に……そろそろか。
「出るぞ、二人とも顔を……」
「はひ、ん、ふあ、ん……あ、あぁあ! す、すごい……」
「これ……あ、あつい、あつくて、ん、ふぁあ! あ、あふ……」
 二人の顔にたっぷりと、精子を降り注いでやる。それだけで、二人は逝ったようだ。まあ淫魔の精子を通常の人間がこれだけ高揚した後で浴びれば当然か。二人は逝きながらも、無意識に顔に掛かった精子を舐め、味わい、そしてどん欲に互いの顔に掛かった精子を奪い合っている。
「おいひい……おいひいよ……」
「ん、クチュ……ふふ、あはは……おいしい……ん、クチュ」
 かなり「キテる」ようだな。精子を口にしたことで催淫効果も発動しているはずだ。もう触れただけでも逝きそうだ。
「ベッドの上で股を開け。順番にしてやる」
 仕上げに取りかかるか。俺は二人に横になるよう命じた。エリスは素直に従い、足を開き俺を待っている。だがアリスは……その母の上へ抱き合うように被さった。
「イヤ、待たされるのイヤ……一緒に、お願い……」
 まったく、我が儘だな……俺がエリスと先にしようとしているのを察してか、アリスが割ってはいる形になった。
「……アリス、母親の顔の上に跨れ。エリス、娘のを舐めてやれ」
「そんな、お願い……」
「アリス、我が儘を言ってレイリー「様」を困らせてはダメよ?」
 母親の口調が微妙に変わったな……精子を飲んだせいか、それとも本能が察したか……いずれにせよ、もう母親は堕ちたも同然だな。
「はい……あの、レイリー……様。アリスも、後でもっと気持ち良く……して、くださいね」
 娘もか。まったく変われば変わるものだな、この短時間でも。
「アリス、ほらもっと……んっ! れ、レイリー様……ふぁ、ふ、ふかい……」
「あん! お母様、自分ばかりそんなに……んっ! そ、そこ、そこいい、おかあ、さま……ん、ふぁ!」
 もうここまで来れば構うことはない。俺は激しく腰を振りエリスを絶頂へと導き始めた。
「ん、ベロ、チュパ、クチュ、チュ……ん、はふ、クチュ、チュ、チュ……ん、ふぁあ!」
「ひあ、そこ、い、かま、かまない……ふぁあ! す、ごい、ん、ひあ、あ、レイリー……ん、クチュ、チュク、チュ、チュパ……」
 アリスの唇を弄びながら、腰は止まらない。エリスも下で娘を愛しながら懸命に腰を動かし俺に同調しようとする。その効果もあってか……そろそろか。
「アリス、どけ。そろそろ……」
「ん、や、なんで、ね、わたしも、い、いきそう、だ、か……キャッ!」
 色情に狂った娘が俺の言うことを素直に聞くわけもないか。俺は強引だがアリスを突き飛ばし、エリスの半身を抱き起こした。
「ひ、れ、レイリー、さま、ん、ふあ、い、いく、いきます、わた、わたくし、ももう、ふあ、ん、あ、ひ、あぁああああ!」
 エリスが逝くと同時に、俺はエリスの首に噛み付いた。そして遠慮無く、血を啜り始める。
「あ、あああ……そ、あ、は……」
 血を吸われることで、経験したことのない特殊な快楽がエリスの全身を駆けめぐる。その最中でぐっと締まる膣。俺はその膣に、今度は別の快楽を注ぎ込んでやった。
「お、お母様……」
 娘は混乱と色情の中で理解し始めているはずだ。母が眷属になっていくのを。人としての本能が、この光景に恐怖を感じ……だが同時に、この光景に興奮もしている。アリスは呟くだけで、震える身体を動かせずにいた。
「ふぅ……どうした、次はお前の番だぞ?」
「ああ……そんな、こんなの……」
 このままでは、自分も眷属にされる。その恐怖に戦きながら、しかしもう身体も心も俺を求めている。ゆっくりと、アリスは俺に四つんばいでにじり寄ってきた。
「さあ、自分で入れてみろ。私を眷属にしてくださいと願いながらな」
「あっ、わ……私を、眷属に……レイリー様のものに、して、ください……ふぁあ! ん、これ、すご……ひぁあ!」
 半身を起こしたままの俺に自ら腰を下ろし、そして自ら腰を振り始めるアリス。自らの全てを俺に差し出し、その見返りに快楽を得、それを貪るお嬢様。
「ふあ、すご、こ、こんなの、すご、ひ、い、いい、これ、すご、すて、すてき、い、ふぁ!ん、ひぃい!」
「どうだ? これから人間を捨てる気分は?」
「ひ、すて、すてる、わたし、い、これ、これいい、これ、いい、いいから、いい、いいの、も、もっと、い、ひ、ひぁあ!」
 これ以上を望むか。まったく、本当に淫乱だな……望み通り、これ以上をくれてやろう。俺は腰を加速させアリスの「人生」を切断しに掛かる。
「い、いく、もう、す、すごす、ぎ、い、ふぁ! ん、あ、も、い、いく、い、いっ、いく、い、いく、いっ、ひ、ひぁ、ん、は、ふぁ、ん、ふぁあああああ!」
 膣と腕で俺を抱きしめ、身体を震わせるアリス。俺はそんなアリスの首に噛み付き、そして最高の快楽を注いでやる。
「あ、は……あ、わた、し……」
 俺を抱きしめたまま、ぐったりと力を無くすアリス。これは当分目を覚まさないだろうな……それだけ刺激が強すぎたか。まぁ当然か。なにせ快楽のために人を捨て眷属になったのだからな。
 俺はアリスを優しくベッドの上に横たえ、一息つく。エリスもおそらく当分目を覚まさないだろう。さて……あまりゆっくりしていられないな。早めた作戦が進行中なんだ。カサンドラは無事だろうか……。
 そんな俺の心配が的中してしまったのか……ペンダントの魔具がチカチカと点滅している。これは……SOS! 俺は服も着ずに短剣とバッグだけを手に取り部屋を勢いよく飛び出した。
 どこだ? 俺はペンダントを握りカサンドラを探した……いた、ここは……地下室か? 俺がいるのは二階……とにかく駆けつけなければ。慣れない館内を駆け回り、俺はカサンドラの元へ急いだ。
 カサンドラは……戦闘になっている。相手は……アヤ? どういう事だ……とにかく急がないと。一階に降り、慌てて地下への入口を捜す。辺りを見回す俺の耳に、ガキッと激しい金属音が。戦闘の音……あそこか! 俺は急いだ。地下への入り口は開きっぱなし……飛び込んだ俺が目にしたのは、今まさに弾かれ床に倒れたアヤと、そのアヤを吹っ飛ばした……カサンドラ。そして彼女の後ろにはあのミネルバと……あいつがゲルガーか。四本の腕を持ち顔は狼のよう。腕の一対目は挟みのような形状、二対目は通常の手に鋭いかぎ爪か……始めて見るぞ、あんな悪魔。
「あっ、主……」
「アヤ、大丈夫か? おいカサンドラ、どうした!」
 目が尋常じゃないな……くそ、悪い予感があたっちまった。ミネルバか、あるいはあの悪魔に何かされたな……しばらく戻ってこないんじゃなかったのかよ。
「カッカッカッ、貧弱なご主人様じゃ物足りないってよ」
「言ったはずだぞ、商人。配下に欲しい、譲ってくれとな。だから頂いたぞ……この通りな」
 余裕からか、二人とも腕組みなんかして俺を見下してやがる。
「ふざけるなよ……カサンドラは俺の女だ。勝手なことしてんじゃねぇ」
「なら取り返してみたらどうだ? この女は嫌がるだろうがなぁ、カッカッカッ!」
 くそ、どうするよ……カサンドラだけならまだしも、後ろの二人も相手をするとなると分が悪すぎる……。
「レイリー様! これは……」
 セイラが駆けつけてきた。俺と同じく裸のまま鞭だけ手にして。状況を見てセイラは絶句していたが、鞭を構え臨戦体勢だけは整えた。
「……アヤ、術者を倒せばカサンドラは元に戻りそうか?」
「そう思い、どうにか手を尽くしたのですが……カサンドラに阻まれまして……」
 なるほど……しかもここは地下室。明かりが乏しく影があまりない。影からの不意打ちも不可能じゃないだろうが、カサンドラも後ろの二人も、それに対応できるだけの実力があるとなれば……難しいか。
「アヤ、セイラ……フォロー頼む」
「どうされるおつもりですか……」
「どうってセイラ……どうにかするしかねぇだろ!」
「まっ、レイリー様!」
 無策、無謀。とにかく俺は、カサンドラに接近しどうにかすれば……どうにかなると見た! 根拠なんか無い、それでも……カサンドラは俺の女だ! あんな奴らの好きにされてたまるか!
「バカが……殺れ、カサンドラ」
「……」
 命じられて動き出したカサンドラ……なにか引っかかる。もし洗脳が完璧なら、俺が飛びかかった段階で動き出すよな? 命じられなければ動けないってのは……操り人形のような状態か。つまり完全な洗脳じゃない……なら、どこかに隙があるはず……くそ、どこだ!
「主!」
 カサンドラの強烈な一撃、避け損ねそうになった俺を影から飛び出してきたアヤが防いでくれた。
「私が盾になります」
「……すまないアヤ」
 頭に血が上っていたとはいえ、大事な眷属に無茶をさせてしまった……カサンドラも大切だが、アヤだってセイラだって……くっそぉ、どうすれば良い?
 今手元にあるのは短剣吸血丸と、いつものゾンビパウダーや連絡用の魔具、それから……
「くっ!」
 アヤがまた攻撃を防いでくれた。考える暇もねぇぞこれじゃ……手元の道具で何か策はあるか? 考えるんだ、カサンドラは俺の女だろ。取り返すんだよ、レイリー。初めて眷属にした大事な女……苦労して眷属に……ん? そうかもしかしたら……。
「カサンドラ!」
 俺は彼女目掛け粉袋を投げつけた。もちろん中身はゾンビパウダー……もう一度、カサンドラを魅了してみせる!
 相手がどうやってカサンドラを操っているのかよく判らない。しかしこの様子、俺がゾンビパウダーで相手を操る時と同じような……だったら、カサンドラを俺がまた操るなり魅了してしまえばあるいは……。
「俺を見ろカサンドラ、俺は誰だ、応えろ!」
「……」
 応えない。だが、動きが止まった。これは……行ける!
「カサンドラ!」
「目の前の男は敵だ。殺れ、カサンドラ」
 動かない……彼女の中で、何かがせめぎ合っているのか……もう一押し、もう一押しのはずだ……。
「カサンドラ!」
「カサンドラ、そいつは……ぐっ!」
 呻く悪魔。何時の間に……アヤが悪魔の影に忍び込んでいた。
「カサンドラ……目を覚ましなさい!」
 そしてこの隙に、セイラがカサンドラに接触し、回復魔法を唱える。これで洗脳が溶ければ……。
「……私のご主人様だろ、判ってるよレイリー……」
「カサンドラ!」
 まったく……ふぅ、洗脳が溶けて良かった……っと、ホッとしている場合じゃないな。
「ミネルバ……堕ちたもんだね。昔のあんたなら、こんな手も使わないしこんな奴と組むこともなかったろうに……」
「綺麗事では何も産まれない、何も変えられない……それをようやく自覚した。それだけだカサンドラ」
 にらみ合う両者……緊迫し切迫した空気で肌がビリビリと痛い。さて、次はこの女だな……。
「カサンドラ、そいつを……」
「判ってるよ。ミネルバ、今度はお前の番だ。いいぜぇ、世界が変わるくらい気持ち良くなれるぞ」
「……下劣な。同じ言葉を返そうカサンドラ。堕ちたものだな……」
 兜を被っているから表情は読めないが……ものすごい形相で睨みつけているのだろうな。そのミネルバが鞘から剣を引き抜いた……それだけで、空気がまた変わる。なんだこのまがまがしい……黒いオーラは……刃まで漆黒に染まった黒い剣、そこから放たれる黒い靄……息が詰まりそうだ。
「……引くぞ、ミネルバ。時間の無駄だ……どうやら作戦は失敗に終わったようだ」
「……そのようだな。カサンドラ、次こそ跪かせてやろう……楽しみにしていろ」
「ふざけるな! 待て、逃げんな!」
 カサンドラの叫びも虚しく、二人はあの黒い靄に包まれるようにして……消えていった。
「くそ……ミネルバぁ!」
 悔しそうなカサンドラには悪いが……助かったな。あのまま闘っていたら……勝てたかどうか。
「……無事か? カサンドラ」
「……ああ。すまねぇ、俺としたことが……くそっ!」
 何があったんだ一体……まあ、それはゆっくり聞くとするか。それに……なんか外が騒がしいな。
「主……どうやらフィーネとリーネが、兵士達を使い、暴動を始めたようです」
 ああそうか……それであいつら逃げたのか。こうなると確かに、俺達に勝てても作戦は失敗したろうからな。
 フィーネとリーネは当初の作戦では、まず兵達を魅了しておき「いざとなったら」内紛を起こさせる手はずだった。だが乱交中に俺からの指示、そして突然のSOS信号……それで彼女達は内紛を即座に始めてしまったようだ。結果論だがそのおかげで助かったな。
「セイラ、領主はどうした?」
「彼は……既に洗脳さていました。私に近づき油断したところを……殺傷するつもりだったようです」
 そういって床に短剣を放り出した。刀身が見るからに毒々しい色……猛毒が塗られているようだ。そしてセイラは既に「吸い尽くした」と、報告を重ねる。
「ちょっと待て、じゃああの謁見の時も……」
「ああ、あの時から小芝居入ってたんだよ。私を洗脳するためにな」
 ……してやられていたのか。ん、でもあの領主はカサンドラのような中途半端な状態じゃなかったぞ?
「私が駆けつけたとき、まさに洗脳中でした。一歩遅ければ、あるいは……」
「言うなよ。考えただけでぞっとする……助かったよ、アヤ」
 そうだったか……そうなると、作戦を急遽早めたのが幸運を呼び込んだって事になるな。そうなると……
「お前の強欲さに感謝しないとな、エリス」
 ちょうど地下へ降りてきた母娘に声を掛ける。エリスは何を言われているのか理解はしていないだろうが、褒められたことで顔を赤らめ静かに頭を下げた。
「さて、フィーネ達を止めないと……その前に」
 俺は降りてきた母娘に近づく。二人は膝を折り頭を下げ、新しい主を迎えた。
「お前達の忠誠、お前達の言葉と態度で示せ」
「……私たち母娘の全ては、ご主人様のものです。身も心も、全てを捧げます」
「私達はただ、ご主人様の愛だけが欲しいです。他はいりません……お金も地位もいらない、ご主人様だけが欲しいです……」
 贅沢を死守するために身体を売った母娘が、その贅沢をいらないと言うか……ふむ、まずまずかな。俺は満足げに笑いながら、二人の頭を撫でてやった。
「その言葉、忘れるなよ……では早速、宝物庫へ案内してくれ。カサンドラとセイラはフィーネ達のフォローを頼む」
「あいよ。さて、鬱憤晴らしてやろうかね」
「ほどほどにしてくださいよ、カサンドラ。苦しまずに即死されると、面白くありませんからね」
 いつものカサンドラだな……良かった。さぁてと、なんだかんだで本当に「根こそぎ」って感じになったな……討伐軍が来るまでに、全部頂くとするか。

 領主によるクーデターは、仲間割れによる内紛で沈黙。世間的にはそのように伝わった赤の13番街での騒動。むろんその裏で俺や師匠が暗躍していたのは言うまでもない。
 カサンドラの話では、ミネルバはやはりガルザック王国に対する復讐を企てていたようだ。その第一歩として赤の13番街を選んだのは、領主の強欲さに付け入りやすかったのと、あの街が鉄鉱の街だったことにあるらしい。
 俺が街に来て感じていた違和感……ドワーフを一人も見かけなかったのは、彼らを監禁していたため。資源の鉄とそれを加工する技術を確保することで、兵器の生産力も確保しようと、そういう腹づもりだったようだ。
 ミネルバはそれをカサンドラに明かした上で、仲間にならないかと誘ったらしい。だがそれを断られると、あの悪魔を呼び洗脳に取りかかった……ミネルバの事については、カサンドラはこれ以上語りたがらなかった。俺もこれ以上深くは尋ねなかったが……ミネルバとは、今後も色々ありそうだな。いずれは……眷属にしてやる。このままじゃバカにされっぱなしなようで悔しいし、何よりあんな良い女、眷属にしない手はねぇぞ。
 さて……あの女が逃げた後、俺達は討伐軍が来る前に財宝を運び出しに取りかかった。その一方で、「残務」にも取りかかる。領主が死に、ミネルバ達もいなくなったことでモンスター軍は浮き足立ち、フィーネ達が操る反乱軍との衝突でその威力は急速に衰える。そこへ討伐軍が到着し、瞬く間に街は再び国の元へ。その際、反乱軍は領主夫人エリスの指揮下にあったこととして、エリスが「夫の悪行を見かねて軍を立ち上げた」って事にしている。こうすることでエリスとアリスの罪をうやむやにして、身の安全を確保しようって狙いだ。このあたりは師匠が上手くやってくれたよ。
「そりゃねぇ、これだけ儲けたんだもの。それくらいのフォローはするわよぉ」
 ホクホク顔の師匠が上機嫌に話す。命じといて、俺達がここまで上手くやるとは思っていなかったらしく……予想外の収入にいたく喜んでいる。
 とはいえ、領主の財産全てを没収することは出来なかった。出来なかったと言うより……一度没収した財産を、街の復興や討伐軍への謝礼金など様々な形で散財したせいだ。これは当初の目的だった「流通の確保」をするため。国や街、そして人に恩を売ることで商売を成り立たせる……まったく、とんだ偽善者だ。
「偽善も善よ。そもそも、これで困る人がいないんだからいいじゃない」
 ま、その通りだな。別に俺は師匠の商売に口を挟むつもりはない。俺としては、新たな眷属を二人加えられただけでも良かったとしないと。どうせそれ以上の報酬は期待できないんだから。
「ね、レイちゃんも本当に商売始めたら?」
 これで何度目だろうか……今回の仕事が終わってから、師匠はことごとく俺にこの話を持ちかけてくる。俺が領主やエリスの前で演じていた商人が板に付いていたと、眷属達から伝え聞いてその気になっているらしい。
「無理だって。そもそも、自分の眷属を商品にする気はないし、商品用に眷属を増やす気もない」
「だからぁ、別に奴隷商人じゃなくても良いから……娼婦館でも良いし。そうすればあの娘達の性欲も満たされていいじゃない」
「だーかーらー、あいつらの性欲は俺が満たすからいいの!」
 ま、確かに他の男達の相手をすることもあいつらには必要だしそれを愉しんでいる。だがそれは、「俺の命令」があってこそであり、調教の一環のようなもの。あるいは今回のような任務だったり仕事だっりであって……まあ、娼婦も仕事で俺の命令ってことになるんだろうが、なんつーかそれはまた別というか……あー、とにかくイヤなんだよ、生理的に。
「儲かるのに……」
「儲けたくてご主人様やってんじゃないんだよ」
 そして儲けるために吸血鬼や淫魔として産まれたわけでもない。あいつらを眷属にして気持ち良く毎日を過ごすためだ。そしてその眷属の中に……ミネルバ、あの女も絶対に加えてやる。

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