第4.5話

 カサンドラは面白くなかった。
 一人、新しい「仲間」が増えたことが原因だ。仲間が増えたのは主人が望んだことで、そこに不満はない。むろん新たに加わった仲間……アヤを嫌っているわけでもない。
 しかし不満の原因は、そのアヤにあった。むろんアヤが悪いわけではない。悪いのは……アヤに対する感情。それを自覚しているからこそ、カサンドラは尚更不機嫌になっていた。
 面白くない。カサンドラは屋敷の縁側にあぐらで座り込み、足に片膝を付きその手で顎を支えながら庭を睨みつけていた。
「……いかがされた。このようなところで」
 庭に出来た木陰……まさにその影と同色の肌を持つ女性が、木陰そのものから這い出るように現れた。カサンドラにとってそれは、最悪のタイミングだ。自己嫌悪の原因である女性、アヤが目の前に現れたのだから。
「……レイリーと一緒じゃないのかよ」
 質問には答えず、質問で返すカサンドラ。むろんその声は不機嫌さを隠しもしない。隠すつもりが無かったからそんな声になったが、隠せば良かったかと言った後でほんの僅か後悔もする。
「フレア殿の店に、これを取りに伺っていたもので」
 そう言うと、アヤは二振りの剣をそれぞれ片手に持ちカサンドラに見せた。どちらも刀身が僅かに曲がった剣……シミターだが、同一の剣ではない。右手に持っているシミターからは冷気が感じられる。おそらく氷の魔力を帯びた剣なのだろう。もう一方左手に握られているシミターからも魔力を感じるが、右手の剣と比べてハッキリとした要素が判らない。しかし魔具屋フレアの作品なのだから、強力な武器であることは間違いないはずだ。
「あっそ……」
 興味がない、とばかりにカサンドラは視線をアヤから外しそっぽを向く。本当に興味がないと言うよりは、今アヤを直視できないカサンドラの感情がそうさせただけ。それを判っているのかどうか、アヤはカサンドラの態度を気にする様子も見せず、話を続けていた。
「カサンドラ、この新しい剣を試したい。手合わせ願えるか?」
 迷った。カサンドラはどう応えるべきか、悩んだ。無類の喧嘩好きである彼女にとって、アヤの申し出は魅力的だ。何よりあの時……アヤと初めて会い、初めて闘ったあの夜。アヤの剣をたたき割るという形で一応の決着が付いた闘いからずっと、再戦を望んでいたから。あの時アヤは真正面から闘っていたわけではない。逃げることを前提にした、守りの闘い。それでは面白くない。だからいつか、全力のアヤとサシで闘ってみたかった。それは常日頃カサンドラが思い描いていたこと……そのはずなのに。
 事実カサンドラはアヤが仲間になってからすぐ、ことあるごとにアヤへ再戦を申し出ていた。しかし「同じ眷属だから」「対抗できる武器がないから」と理由を付けられ実現しなかった。あれだけ申し出て願った再戦を、アヤの方から言い出したのだ。本来なら是が非にもと飛びつくところなのだが……日に日に増していく「不安」から、アヤとの直接的なやり取りが減っていき、申し出ることもなくなって……今に至っている。やっと「対抗できる武器」をアヤが手に入れたというのに、それへ興味を示せないほどカサンドラは悩み続けている。
「……手加減は出来ねぇぞ」
 だがやはり、戦士の血が不安を上回った。側に立てかけてあった愛斧を手に立ち上がり、庭の中枢へと進んでいく。
「そんな心配は無用。あなたでは私に勝てないのですから」
「てめぇ……叩っ切ってやる!」
 安い挑発にまんまと乗り、カサンドラは斧を振り上げ襲いかかった。
 甲高い金属音が庭に鳴り響く。屋敷の庭とはいえ、所詮は高級住宅街の一角。あらかじめ魔法で防音壁を設置していなければこの音で近隣住人が驚き集まってきたかもしれない。そもそもこの防音壁は夜な夜な行われる淫魔達の宴、その「祭り囃子」が周囲に聞こえないようにする為であったが、このような形でも役に立つとは。それをカサンドラが意識していたかは別として。
「うらぁあ!」
 本気の一振り。それをアヤは左手のシミターで受け流す。そして右手のシミターで斬りかかる。カサンドラはその攻撃を避け、次の攻撃に備える。
 同じだ。あの夜の戦闘をそのまま再現したかのような、激しいやり取りが続く。だがあの時と違うのは、アヤの持つシミターが割れることはなく、また彼女が逃げようとすることもない。互角の戦いが、永遠と続けられている。
 しかしこの戦いがずっと続くわけがない。二人とも、互いの攻撃で傷を負っているのだから。手数では圧倒的にアヤが勝っているが、ダメージ量で言えばその差は僅か。しかも二人の体力差を考えれば……結果は見えてくる。それはカサンドラも実感しており、勝ちを意識し始めていた。
 そこに、勝敗の分かれ目があった。
「……今回は私の勝ちです」
 本気ではあったが、これは殺し合いではない。二人とも本戦で使う武器を手にしてはいるが。だからカサンドラは、勝ちが見えてきたからこそ「試合」の落としどころを探り、攻撃に加減が加えられた。それを負けの言い訳には出来ないが……冷気を首筋に感じながら、カサンドラは悔しさにただ唸ることしかできなかった。
「ちっ……」
 言い訳はしない。負けたのだから。しかし……先ほどまでの悩みもぶり返し、悔しさが更に増してくる。このぶつけ所のない怒りをどう処理して良いのかも判らず、舌打ちをして屋敷へと戻ることしか出来なかった。
 そんな自分がふがいない。そう思うとまた不安が募り、感情が負のスパイラルへと陥っていく。自分では、もうどうしようも出来なかった。
「待ってください」
 アヤの声に、カサンドラはもう耳も貸さない。黙ってそのまま屋敷の中へ入っていく。
「私が憎いのでは? もっと「本気」で斬りかかってくると思っていたのですが」
 影を伝い先回りしてきたアヤがカサンドラの前に立ち、真っ向から挑んできた。感情をぶつけるという、どうしようもなく直接的な方法で。
 当たり前だが、アヤにも判っていた。カサンドラが自分を避け始めているのを。それは同時に、アヤにも「不安」と「不満」を与えていた。ただアヤはカサンドラと違い、その思いをずっと押し殺してはいられなかった。アサシンとしての忍耐強さは持ち合わせているが、この手の「不慣れな」人間関係に、アヤは耐える術を持ち合わせていなかったから。
「……関係ない」
 カサンドラはそれしか言えなかった。アヤのように自分の不満を直接ぶつけることが出来ない、しかし態度に表れないよう自分を押さえることまでは出来ない、そんな不器用な彼女に言えるはずもない。出来るのは、言ったその言葉を荒げることくらい。
「……なら力ずくで聞き出します」
 そう宣言したアヤがカサンドラに抱きついた。すると、まるで沼にはまったかのようにズブズブと二人の身体が沈んでいった。まるで……いや実際に、二人は影に引き込まれていった。
「ちょ、てめぇ! なにしやがる!」
 暴れるカサンドラ。しかしアヤは必死にしがみつき離れない。カサンドラも身体を影に引き込まれ徐々に身動きが取れなくなり……そして二人は消えていった。

「ここは影の中です。安心してください、あなたに危害はありません」
 暗闇の中、声がする。むろん声の主はアヤだ。カサンドラは周囲を見渡したが、真っ暗で何も見えない。暗視できる力を得ているが、どうやらここは闇夜の暗さとは全く異なる世界のようで、声の主を見つけられない。それにまず、自分がどんな状況にあるのかすら確認できなかった。
 妙な感触がカサンドラを覆っている。宙に浮いているような浮遊感と、泥に捕らわれたような重量感。確実に判るのは、自分の身体を思うように動かせないことだ。
「意識を「私」に集中してください……見えてくるはずです」
 言われるまでもなく、アヤを探すことで彼女を意識しているカサンドラ。その声により、更に彼女を意識し始めた。あいつめ、なんてことをしやがる。ぶっ飛ばしてやるからな! といった具合にだ。
「……どーいうことだよ」
 ぼんやりと見え始めた輪郭。それを認識したことで更に意識が集中し、そしてハッキリと姿が見える。カサンドラは寸分違わず彼女を見据え、そして問いただした。
「どうやら見えているようですね」
 スッと、アヤは泳ぐように……いや、飛んでいるように? とにかく暗闇の中を動きカサンドラに近づいてきた。
「……お互い、誤解があると思います」
 そう切り出した言葉には、まだ確信が持てない不確かな響きが滲んでいる。しかしそれでも、アヤは言葉を続けた。
「……どうして良いか、よく判りません。でも……」
 不意に、顔を近づけるアヤ。思うように動けないカサンドラは、何も出来ない。何も出来ないまま……唇を重ねた。
 そこからは、もう余計な言葉はいらなかった。彼女達は本能で……人間から書き換えられた淫魔の本能で、理解していた。
 絆を深め合う方法を。
「ん、クチュ……ん、じょ、上手、ですね……ん、チュパ、クチュ……」
 キスを迫ったのはアヤ。だがリードしているのはカサンドラ。唇を噛み、吸い、舌を入れ込み、絡ませ、アヤの身体をピクピクと引きつかせている。だが身体の自由が利かないカサンドラはこれ以上のことが出来ない。
「ふふ……ここでは私が「攻め」ですね」
 アヤは頬、そして首筋に唇を当て舌を這わせながら、カサンドラの鎧を脱がせていく。鎧とはいえ元々露出の高いビキニアーマー。下着を脱がせるのとさして変わらない。下に着ているチェインシャツは全身タイツのように全体を覆っているが、常時「すぐに」出来るよう、陰部の部分には穴がある。素材も柔らかく、感触も直で触られるのとさして変わらない為、こちらは脱がす必要がない。むしろ脱がさない方が見た目的に卑猥なくらいだ。
「すごい……もうトロトロになってる。ほら、ここもこんなに……」
「くっ! ちょ、弄るならもっと……さ」
「もっと……なんですか?」
「……ちゃんとしてくれ……その、もっと強くひっ……ぐっ! い、いきなりは無いだろ……ひぐぅ!」
 肥大した陰核を強く摘み、擦るように指を動かすアヤ。一方で陰核同様に突起した乳首を歯で甘噛みしながら、先端をチロチロと舐め始めた。顔の位置に鍵盤のあるオルガンを奏でるように、アヤはカサンドラという楽器を演奏していた。その楽器からは力強くも甘い、卑猥な賛美歌が奏でられる。
「ふあ、ん、あ、はぁあ! ん、く……う、上手いじゃ……ね、くぅう!」
「セイラほどではないですが、私も「尋問」の仕方くらい知ってますから」
 むろん、この尋問に込められた感情は憎しみではない。互いを知ろうとする淫魔同士の、淫魔なりの愛情がそこにはあった。
「ん……でも、攻め続けるだけだと……んふぅ……」
 乳房を掴んでいた手を離し、アヤはその手を自分の陰部へと導き、相手と自分、双方を攻め始めた。
「いいのかい? 自分で慰めちゃってさ……んっ! ほら、気持ち良くなりたいん、だろ?」
 カサンドラの言葉を聞きながらも、しばらくは黙って続けていたアヤだったが、突然ふわりと身体をカサンドラの顔に跨ぐよう乗せてきた。
「……舐めて、ください」
「おや? ここでは攻めだったんじゃないのか? アヤ」
「……」
 何も言わず、アヤは自分の陰部をカサンドラの顔に押しつけながら身体を曲げた。そして先ほどまでは指でグチョグチョにしていたカサンドラの淫唇に、自分の唇を重ね合わせる。
「クチュ、チュパ……ん、ふあ、ん! や、やっぱり……はわぁあ! カサンドラ、うま、すぎ……んっ!」
「チュ……へ、こっちの経験じゃ絶対に負けないよ……クチュ、チュ、チュプ……ん! い、でもアヤも……ふぁあ! や、やるじゃねぇ……かぁああ!」
 互いの淫唇と陰核を舐め合い、愛液を啜り合う。顔中がベトベトになるのも気にせず、アヤは自分の顔を相手の陰部に埋め、そして自分の腰を深く相手の顔に押しつけた。
「や、ダメ! も、もう……ふぁあ!」
「なんだよ……まぁいいか。逝けよ。逝かせてやるからさ……」
「は、はい、い、いか、いかせてもら、ん、ふぁ!」
 半身を起こし、アヤは腰を振って快楽を貪る。カサンドラはそんなアヤを愛おしく攻め続けた。少し前までは不機嫌に見つめていた彼女を愛おしく……。
「いき、いく、した、したで、い、これ、すご、い……ふぁ、ん、はあ、ふぁああああ!」
 まるで放尿したかのように、勢いよく噴き出す潮。それをカサンドラは黙って受け止め、そして僅かに喉を鳴らした。
「は……激しかった、です……」
「だろうな……それよりさ、なあ、私はまだなんだから……」
 動きづらいながらに、カサンドラはモジモジと身体を揺する。それを上から見つめながら、アヤは微笑んでいた。
「ちょうど、フレアさんから預かってきた物があるんです」
 カサンドラから降りた……というか、浮いたアヤは、くるりと反転しカサンドラに向き直る。そして手にした物を彼女に見せた。
「……ペニスバンド?」
「ええ。でも普通のじゃないんです。見ててください」
 アヤは淫具の先端、疑似男根の先端を軽く摘み、ゆっくりと根本までスライドさせる。すると反対側から、同じような男根がゆっくりと生えるように出てきた。そして今度は強く握りしめる。すると片方の男根が大きくなった。
「判りますか? これ、相手に入れた分だけ同じように自分の中にも「コレ」が入ってきて、更に締め付けられると膨張までするようになっています」
 つまりこれを身につけた側も、挿入される側と同じく挿入感を味わえる淫具。当然原動力は魔力で、その気になれば相手の精力を吸い取ることも出来る……まさに彼女達のために開発された淫具だ。
「……またとんでもない物を作るね、あの人は」
「ええ……本当に」
 嬉々としてこの手の淫具を作り出すアイテムマスターに多少呆れながら、しかしそんな彼女の作り出す淫具に二人は期待の目を向けていた。
「それでは……カサンドラ、犯しますよ」
「ああ、犯してくれアヤ……激しく頼むぜ」
 カサンドラの両足を広げるように持ち上げ、アヤは狙い定めて腰を一気に突き入れた。
「くぅう! これ……ふか、い……」
「私にも……きてる、すごい、これ……」
 入れた分、入れた威力で自分の中にも返ってくるディルド。その衝撃的な快楽に、しばしアヤの腰は止まった。だがすぐにその腰は動きだし、すぐに激しくなった。
「これ、い、すごい、な……ん! いい、奥まで、届いてる……あ、ふぁ!」
「え、ええ、ん! とどいて、わたしの、おく、おくにも、とど、いて……あっ、あっ、あっ、ん! すごい、これ、とま、とまら、ない、ふぁあ! ん、いっ、あっ、あっ、あっ!」
 あまり感情を表に出さないアヤが、その感情を惜しみなく出し喘ぐ。その様子を見ながら、カサンドラは快楽に包まれながらも微笑んでいた。
「な、きっ、キス、なあ、キス、しよう、ぜ、キス、なぁ、キス、キス……」
「はい、キス、します、キス……ん、クチュ、チュ、ふあ、ん、ひあ、ん、クチュ、はぁ、チュパ、んん!」
 大柄なカサンドラ相手に唇を重ねながら腰を振るのは容易ではない。それでもアヤは求められるままカサンドラに身体を預け、カサンドラも不自由ながらに身体を懸命に折り曲げアヤの唇を求めた。
「い、くぁ! そろ、そろそろ、いっ、いきそう……だ、ん! クチュ、は、んっ!」
「わたしも、い、いく、いきます、から、い、いっしょ、カ、カサンドラ……ん、ふぁ、い、きもち、い、いい、いい、いい!」
「アヤ、アヤ、アヤ……あぁあ! い、いい、いく、いくぞ、アヤ、いく、アヤ、アヤ、い、いく、いっ、くぁあああ!」
「カサ、カサン、ドラ、いく、わたしも、いく、いっ! ふあ、ん、いく、わた、たわしも、い、いく、いく、いく、いく、いく、いっ……くぅううあああ!」
 互いに身体を引くつかせ、絶頂を向かえた二人。淫具を通じて繋がった二人は、快楽を共有する。いや、そればかりでは無い。ギュッとアヤは大きな大きなカサンドラの背中を抱きしめながら、呟き始めた。
「私……あなたが羨ましい」
 それは、押しとどめていたアヤの感情。一度堰を切ったその感情は止まらず、アヤの本音が紡ぎ出された。
「私は産まれたときから、一人だった。隣人は全て利用するべき者か、敵か……肉親ですら、そんな間柄だった」
 ダークエルフの社会は厳しい。それはカサンドラも噂で聞いたことはある。しかし当事者の話はそんな噂の不確かな信憑性を軽く超え、重い重い現実が語られた。
「だから私は……何時からか、強い「絆」に憧れていた」
 いくつもある暗殺術の中で、彼女がシャドーダンサーの道を選んだのもそんな理由があったからだと、告白するアヤ。主と決めた相手の影と同化する秘術。その「束縛」に、憧れていた。
「主は私を求めた。それが……嬉しかった。眷属になった事もあるけど、でも私は主の影と同化できて……幸せ。でも……」
 憧れていた夢が現実になっても尚、いやなったからこそ、アヤは悩んでいた。
「私は……強制的に束縛されなければ、「絆」を維持できない……主以外の人と、親密になれない……もしかしたら、主とも……私は、ただの影だから……」
 抱きしめていた腕に力がこもる。今こうして悩みを打ち明けられる相手がいることこそが「絆」だと気付かない、気付けないアヤは、貯まりに貯まった不安を吐き出し続けた。
「だから羨ましい……カサンドラのように、気さくに、主やセイラ、あの姉妹達と絆を保てるあなたが……」
 困惑した。カサンドラはアヤの告白に、戸惑った。その戸惑いがさせたのか、それとも彼女に同情したのか……あるいは……カサンドラが、今度は自分だとばかりに口を開き始める。
「逆だ……羨ましいのは私の方だ」
 もう、押さえられない。押さえる必要がない。カサンドラもアヤに、自分の気持ちを打ち明け始める。
「私も「あの日」以来、あんたと同じ……誰も、信じられなかった。慕ってくれる部下ですら、平気で見捨てたり殺したり……そんな事を何度もやってきた」
 口にした「あの日」について言及することなく、アヤはカサンドラの話に耳を傾ける。
「そんな時に、レイリーと会って……同じだよ。強引なやり口だがこんな私を欲しがるアイツに……惚れた。もちろん眷属になったからってのもあるけど……でもさ」
 言葉に詰まる。口にするのが怖い。だが、不安を打ち明け始めたその勢いが、つまりを取り除いていった。
「私とレイリーとの「絆」は……もう無い。たぶんアイツも気付いてるはずだが……眷属としての強制的な繋がりは、もう消えてんだ」
 元々弱かった眷属としての主従関係。吸血鬼と淫魔の力はカサンドラに残ったままだが、書き換えられたはずの本能……主に対する絶対忠誠が消え失せている。
「だから……アヤが羨ましかった。あんな……影になるなんて、そんな強烈な「束縛」がさ」
 主に惚れたのは、従者に生まれ変わったから。その根底が無くなった今、彼女が抱えている「恋心」がなんなのか、その正体に不安を抱き始めていた。だから余計にアヤという存在が、理想の存在がカサンドラを苦しめていた。
「……憎んでいるのかと思ってました」
「まさか。仲間としては心強いし、なにより……」
「んっ! もう……いきなり腰を動かさないで」
「あはは、なんかアヤが可愛くてさ……な、またやろうぜ」
 返事の代わりに、アヤは唇を重ねてきた。暗い暗い影の世界に、湿った音が二重奏で響き渡る。

「これ、すご……ふぁあ! 奥、こんな、奥にまで……んふぁあ!」
「な、いいだろ……これ、好きなんだ……くっ! アヤ、すげぇ、奥まで、届いて……くぅ!」
 影から出た二人は、まだ繋がっていた。身体を自由に動かせるようになったカサンドラはアヤに抱きつかせ、アヤの尻を下から持ち上げる……自分の主人と好んでやる駅弁スタイルで愛し合っていた。
「……なにやってんだよ二人して。こんなところで昼真っから」
 二人は繋がったまま影から出てきた……その場所は縁側のちょっと奥……外から見えそうで見えない、通路だった。そこを通りかかった二人の主人が、あきれ顔で尋ねてきた。
「なにって……見て、判るだろ」
「ええ……んっ! ご覧の、通り……「絆」を、深めあって、ます、ん、ふぁ!」
「いやまぁ……いいけどさ」
 頭を掻きながら、やれやれと溜息をつく二人の主。だがその目は熱を帯び、激しく晒される痴態に食い入っていた。
「んぁあ! カサンドラ、急に、はげし……ん!」
「レイリー……ご主人様に、見られてるの、好きだから……なあ、もっと、もって見てくれ、ん、くぁああ!」
「このドスケベ眷属どもめ……もっと喘げ。その痴態と喘ぎだけで俺を逝かせてみろ」
 服を突き破ろうと膨張する、二人の好物。その膨らみを見ただけで、二人の腰は更に激しさを増した。
「みて、みて、もっと、はずかしいすがた、みて、み、ん、クチュ、チュ……ん、チュパ」
「チュ、チュプ、チュパ……ん、あるじ、ね、どう? レズ、わたしたちの、レズ、どう?」
「官能的でいいぞお前ら。もっと互いを求めろよ」
 逝かせてみろとは言ったが、本当に逝かされそうになっている主。視姦しているつもりが、逆にされているような気分。すぐさまズボンを脱ぎ下ろし、自らの手で肉棒に刺激を与えたくなるのを必死で我慢していた。
「ふふ、ごしゅじんさま……レイリーはかわいいな、ん、くぅあぁあ!」
「ええ……ふふ、ん、ね、あるじぃ……わた、わたし、あいてる、から、ど、どうぞ……」
 アヤが誘い、カサンドラがその場所を広げたのは……尻。揺れる尻が、振り子の催眠術のように二人の主をフラフラと近づけている。
「ったく……しょうがねぇな、ほら!」
「ひぎぃぃい! ん、かは……きもち、いい、ですぅ、あ、あるじぃ……ん、あぁあ!」
「アヤ……ん、アヤ、すごい、しめつけ、ん、なかの、おおきくなって……あぁああ!」
 アヤを挟み三人で腰を振る淫魔達。その激しくも淫靡な声に引き寄せられたのだろう、いつの間にか残りの淫魔も周囲を囲んで互いを慰め合っていた。
「み、んみにな、みられて……ん、ふあ、い、そろ、そろ……んくぁあ!」
「い、わたしも、またいく、いく、カサ、ン、ドラ……また、い、いっしょ、いっしょ、いっしょ!」
「ほら逝けよ。逝っちまえドスケベども! ほら、逝けよ!」
「ああ、いく、いく、いく、アヤ、いく、いくよ、いっ、くぁあああ!」
「おく、い、すご、い、いく、わた、たわしも、いく、い、ふあ、んぁああああ!」
 締まる膣。震える身体。二人は主と仲間達に見られながら、快楽と幸福に包まれていた。
「……ったく、どうすんだよ。俺のはまだ中途半端だぞ?」
 アヤから引き抜いた主の肉棒は、膨張したまま軽く引きつっている。途中参加だった彼は、彼女達のようには逝けなかった様子。
「そんなの……決まってんだろ、なぁ?」
「ええ……ふふ、責任、取らせていただきます。ん、クチュ……」
 主の前で跪き、奉仕を始める二人の雌奴隷。
「やっぱり……これが一番ですね」
「だよな……これ、これが一番美味しくて、好きだ……」
 競い合うように、しかし奪い合わず、二人の奉仕は丁寧に進められる。
「お前らは本当に可愛いな。流石俺様の眷属だ」
 頭を撫でられながら、二人は微笑んだ。どんな形で繋がっていても、二人は主の眷属。その事実は変わらない。それを再認識した二人は、大好きな主への奉仕に心をときめかせ、大好きな仲間との共同共有に心を温めていた。

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