第2話

 しけてんな……宝箱2箱分しかねぇや。武器類は豊富に格納されていたが……特にマジックアイテムらしきものはないからな。沢山あっても二束三文……まあこんなものか。
 俺は岬に出来た天然洞窟の中で、軽く溜息をついた。ここは海賊どもがアジト兼格納庫にしていた場所で、むろん俺達はその海賊を狩り、持ち主のいなくなった財宝を品定めしていたところだ。どうもため込むよりは「宵越しの銭は持たない」という主義だったようだな。事実海賊どもか近くの港町で豪遊している姿は何度も目撃されているし、だからこそ師匠の目に止まったんだから……はぁ、これじゃ今回も分け前は少なそうだ。
「レイリー、こっちは終わったぞ」
 声に気付き振り返ると、そこには全裸の女が仁王立ちしていた。がたいの大きな女で、片眼に髑髏のマークが入った黒い眼帯をしている。裸だからよく判るが、腹筋は当然のように割れ、二の腕や太股が筋肉で盛り上がっている。だがそのわりに胸はそれなりに大きく、ゴムまりのように形の整った弾む胸……まあ、見た目で感触は判らないが、しかし俺はあの感触を良く知っている。何度も何度も揉んでるしな……この女はカサンドラ、俺の眷属だ。
「どうだ、楽しめたか?」
「海賊だけあって精力はあったが……それだけだな」
 そう言いながら、足下に転がっている男……干からび絶命している男を蹴飛ばした。
「テクニックがなってねぇ。どうせ売女にしか相手をして貰えない、ちんけな男どもだったんだろうよ」
 テクニックねぇ……野獣のように男をむさぼり食うお前がそれを言うかね。そもそも十人はいた海賊どもを全て干からびるまで吸い尽くして満足していないってのもな……さすがは俺様の眷属か。
 彼女は……まあ俺もだが、吸血鬼と淫魔双方の能力を所持している。血を吸い精力を吸い、それを取り込んで力とする種族……だからちんけな男でも何でも、吸える相手からはトコトン吸い尽くさなければならない。
 血も精力も、財宝もな。
 吸い尽くした結果、相手がどうなろうが知ったことではない。どうせ悪党なのだから、気にする必要もない。食料の行く末がどうなろうが、普通気にしないだろう? 誰だってこれまでにパンを何枚食べたのかなんて数えていない……それと同じだ。
「それでもだいぶ吸えたんだろ? なら俺にも分けて貰うぞ」
「ああ……もちろん」
 ニカッと牙を見せるように笑いながら、頬は赤く染めている。
「レイリー……ご主人様、見てくれ……ほら、こんなになるまで吸い尽くしたのに、身体は満足できないんだ……」
 カサンドラは自分で淫唇を両手で広げながら、膣の中を俺に見せつける。中は彼女の愛液と海賊どもから啜った精液でドロドロだ。こんな恥ずかしい姿を見せながら、見せているから、膣はヒクヒクと蠢き「主」の来訪を待ちわびている。
「なんてはしたない格好だ。そんな姿をさらして感じてるのか?」
「ああ……見られると感じるんだ……ご主人様に見られるのが気持ちいい……そう調教したのはご主人様じゃないか……」
 嬉しそうに痴態を晒す元山賊。確かにこんな女にしたのはこの俺様だがな。くっくっく、よくここまで育ってくれたものだ。
 カサンドラは血を吸われ淫魔の精液を与えられた事で、俺の眷属に生まれ変わった……が、俺の力が不十分なため、能力は得たが俺への忠誠心が不安定なままになっていた。その不安定な忠誠心を、俺は「性調教」という形で補おうとし……それは成功しているように思える。だがやはりどこか不安定なのか、当初は俺のことを「主」と読んでいたカサンドラだったが、最近は俺を名前で呼ぶようになった。まあ、調教時はちゃんと「ご主人様」と呼ぶし、気にはしていないんだが……。
「ああ……ご主人様も私のを見て、そんなにしてくれるんだ……」
 手際よく鎧を脱ぎ捨て、俺も全裸になった。脱ぐ前から鎧を突き破ろうとギンギンにいきり起った肉棒を見て、カサンドラは興奮している。淫唇を広げていた指は膣の中へ、あるいは乳首を摘み、起ったままオナニーを始める始末。
「なんだ、俺のをオカズにオナニーかよ。はしたないにもほどがあるな」
「だって……ん、オナニー見られるのも、好き……ご主人様だって、見るの、好きだろ?」
 ああ、大好きだね。隻眼のカサンドラと恐れられたかの女が、俺の前で乱れているっていうこのシチュエーションがたまらない。だが、今は互いに見せ合っている場合じゃない。
「お前の痴態はまたゆっくり見てやるよ……そろそろ、「分け前」をもらおうか」
「ああ、入れてくれるんだね……今日はこのまま、このまま入れとくれ……」
 言うなり、カサンドラは軽々と俺を持ち上げ、そのまま引き寄せる。
「お前好きだな、このスタイル」
「ああ……ご主人様を抱きしめてるこの感じが、たまらなく好きなの」
 逆駅弁、とでもいうのだろうか。男が女を抱き上げるのではなく、女が男を抱き上げるスタイル。ただ挿入角度の問題とかもあって、男からの駅弁よりも腰の位置に気をつけなければうまく行かないのだが……それを調整しても継続できるだけの筋力をカサンドラは持ち合わせている。俺は尻をカサンドラに持ち上げられたままその姿勢で足をカサンドラに絡ませる。手は彼女の首に回し、顔はちょうど胸の辺り。この姿勢で、カサンドラはゆっくりと俺の腰を自分に引き寄せていく。
「くぁああ……いい、やっぱりご主人様のが一番……くぅ!」
 挿入こそゆっくりだったが、そこからはもうカサンドラのペース。まるで俺をオナニーの道具にでもしているかのように、激しく腰を動かし俺を前後に揺れ動かす。
「ご主人様、胸、胸も……ああ、そこ、そこもっと……ん、いい、ご主人様いい!」
 ったく、これじゃどっちが主だかも疑わしくなるな……まあ、カサンドラの話じゃ感情のままフルパワーで相手をして「無事」なのは俺くらいだから嬉しいとか言ってたし……俺も気持ちいいから、別に良いんだが。
「ふあ、ダメ、もう……いく、いきます、ごしゅじんさま……」
「早いな、もうちょっと我慢……っぷ!」
 強引に胸の谷間へ俺の顔を埋めて黙らせるカサンドラ。コイツはまったく……まあ、今は俺が逝く必要ないからいいんだけどよ。
「いく、いく、いく、いく、いく、よ、うけとめ、て、ね、いく、いく、いく、いく、いく、いく、いっくぅううう!」
 俺を窒息死させる気か、というほどにグッと俺を抱きしめるカサンドラ。俺は埋められた胸の中でどうにか牙を立て、乳房に内側から噛み付いた。
「ああああ……吸われる……ふぁ、きもち、いい……ああ……」
 吸血は吸う方も吸われる方も、性的快感を得られる。加えてカサンドラは逝った快楽と、そのことで精力を俺に吸われる快楽に酔いしれている。つまり彼女は、今三つの快楽を同時に受けている事になる。
「あああ……」
 ガクッ、とカサンドラは俺を抱きしめたまま両膝を付く。俺は足を解き自力で立つとカサンドラは俺を解放し、そのまま前のめりに倒れ込んだ。
「ったく、自分ばかり満足しやがって……まあ精力の分け前は頂いたから良しとしてやろう」
 カサンドラが海賊達から吸い取った精力を、俺はこうやって「分け前」として得ている。吸血鬼も淫魔も精力を人間から吸い取るが、それが全ての「糧」というわけではない。生きるだけならば人間と同じような食事だけで充分なのだが、精力を得なければ「力」を得ることが出来ない。そして厄介なことに、俺達はこの吸血などを「悪人」限定でしか行えない「制約」を受けている。つまり俺達の悪党狩りは、財宝を得るだけでなく精力も得られる貴重な機会なのだ。
 惜しむらくは……なかなか悪党に女がいないこと。雑魚でも良いから女がいれば、俺も直接精力を吸えるのになぁ……それにカサンドラは雑魚を殺しすぎる。今日彼女が吸い尽くした海賊達なんて、全員俺が眠らせたりした奴だけだ。全部で40人くらいはいた海賊の3/4を、コイツはアッサリと、ものの数分で切り倒しやがった……それでいて「張り合いがない」とか言うんだからなぁ……まったく、こんな恐ろしい女を、不十分とはいえよく眷属に出来たな俺も。
「ご主人様……」
「ん、どうした」
 目を覚ましたカサンドラが、ゆっくりと起き上がり……と思ったら、くるりと仰向けになり、そして足を広げ膣を手で広げ……
「もう一回……今度はご主人様も逝って……」
 分け前は得た。ここからは……淫魔同士のじゃれ合い。俺が逝っていないのに気を遣っているのか、それともただ自分がもっと気持ち良くなりたいだけなのか……まあどちらでもかまわんか。
「まずは俺のを起たせてみろ。お前のオナニーでな」
「ああ、良く見ててくれ、私のオナニー……ん、ほら、膣がこんなにヒクヒクしてる……」
 膣の中を見せながら、指をグチュグチュとかき回すカサンドラ。死臭漂う洞窟の中で、俺達の戯れはしばらく続いた。

「しけてるわねぇ……宝箱2箱分しかないの?」
 俺と全く同じ感想を漏らすのは、俺の師匠であり雇い主であり、そして色々……いつかはやりこめたい女。鬼神イフリータでもあり魔具屋の女房でもあるアイテムマスター、フレア。
「豪遊していたようだから……宵越しの銭は持たない連中だったんだろうね」
 これまた俺と同じ推測をしているのは、魔具屋の主であり師匠の旦那でもある男、ダグ。ダグというのは愛称で本名ではないらしいが……まあそこを詮索しても仕方ない。師匠の名前だって本名ではないはずだし。
「これじゃあカサンドラちゃんの斧代にもならないわ……」
 俺達の武器や防具、その他ありとあらゆるマジックアイテム……魔具は、すべてこの師匠が作りだしたもの。鬼神の力があるからこそ生み出せる最高級品ばかりなのだが、それ相応の材料費もかかる。師匠の言っている斧は、つい最近カサンドラに与えられたバトルアックスで……ミノタウロス用か、と言いたくなるほどにデカイ。それを軽々と使いこなすカサンドラは凄いが、そんなカサンドラの筋力をみこしてこの斧にあり得ない機能を付属させる師匠も、なんか色々と凄い。
「で、どうだったその斧」
「流石フレアさんの作った斧だね。どんなに相手を斬りつけてもちゃんと手元に「戻って」来たよ」
 信じられないだろ……投げるんだぜ……これを。ブーメランアックスみたいにバトルアックスを投げ、しかもそれをちゃんとキャッチするんだぜ……そら、十人程度ならいっぺんに真っ二つにするよ。
「それは良かった。鎧の方も大丈夫?」
「やられないから防御面はよく判らない……だが動きやすさは問題ない」
 カサンドラが着ている防具は、編み目の大きな全身チェインタイツ。その上にビキニアーマーという、完全に見た目重視の鎧だ。こんなのでもそこらのフルプレートよりも頑丈なんだから恐れ入る。なにより……エロい! ここ大事、ここ重要。似合うカサンドラも素晴らしいが、このデザインをして実用化させる師匠も素晴らしい! こればかりは手放しで褒め称えますよ師匠!
「……なるほど、あなたのご主人様も大喜びのようね」
「ああ……常にレイリーの視線を感じて、心地好いよ」
 俺だけのじゃないけどな、視線は。街をカサンドラが歩けば誰の注目でも浴びるから……この格好という理由もあるが、なにより身体は大きいし、それに……知る人ぞ知る、隻眼のカサンドラだから。
 残忍非道な隻眼のカサンドラが、一味を解体して冒険者になった。噂はたちまち広まり、実際カサンドラを目撃した人はその噂が本当であることを知る。何故冒険者に……それを直接本人に尋ねられるような命知らずはいないが、その疑問は注目という視線に代わり注がれるわけだ。それもこんな格好のカサンドラに……それを悦ぶようになったカサンドラには好都合だがね。
 都合が悪いのは、カサンドラに掛けられた賞金か……こればかりはどうしようもない。今後の課題だが……それはまあ、今考える事じゃないな。
「よしよし……さてと、これが今回の取り分ね」
 俺に手渡されたのは、片手でつかめる程度の小袋。
「おお、今回は奮発してるなぁ……銅貨一枚分な!」
 中身を確認して、俺は毎度のように肩を落とす。銅貨以外は宝石類で、これだけでもかなりの値打ちはあるんだが……持ち帰った宝箱の中はこんな宝石がぎっちりと詰まっていた。それを考えればあまりにも取り分は少なすぎる。
「言ったでしょ? 斧代にもならないって……その斧、普通に買おうとしたらもっとするのよ?」
 こんな斧が売れるとは思えないけどな……常人じゃ絶対に使えん、こんな斧。
「それに……実はね、もう次の「標的」を見つけたのよ。今度のはかなり「美味しい」わよ」
 間を置かずに次の仕事とは珍しい。話はそらされたが、その「美味しい標的」に俺達は耳を傾けた。

 師匠の館がある街「黒の0番街」から馬車で二日ほど行った先にある、小さな町。この町に、最近妙な噂が流れていた。
「ああ、確かなことは言えないが……あんたの言う怪しげな連中なら俺も見たぜ」
 定石とも言える情報集め。まずはこの町で師匠が目を付けた怪しげな連中に関する情報を集め始めた。
 フードを目深に被った者達が、近くの森の中を徘徊している。
 噂の大元はこれ。これだけなら師匠が気にするような話ではないのだが、この連中、正体を隠そうとしている割には目立つ行為をしているという。
 一番特徴的なのが、馬車。怪しい連中のほとんどは馬車に乗って森の中へと入っていくらしいんだが、その馬車はかなり豪勢な物が多いらしい。森の中を抜ければその先に集落はあるが、木こり達の集落であり豪華な馬車が行き交うような所ではない。なにより、その集落ではそんな馬車は見たことがないという。
 これは何かある。誰もがそう思う話だが……その「何か」まで目撃した人がいない。森の中に入った馬車がどこへ向かったのかは皆目見当もつかないらしく、森の「中」で馬車を目撃した人もいない。ただフードを被った怪しい連中が数人、森の中で見かけたという話はある。
 なんともつかみ所のない話だが……師匠は豪華な馬車、という点に注目したらしい。これは金の匂いがすると……まったく、たいした守銭奴だ。だが正直同感だ。そしてここまであからさまに怪しいと、「悪」の匂いもする。確かにこれは俺達には打って付けの「美味しい標的」かもしれない。
「どうするレイリー。被害がないから話が噂の領域を出ないままだぞ」
「うむ……ロケーションの魔法で探すにしては、森は広すぎるしな……もうちょっと絞り込める情報があれば良いんだが……」
 とりあえず俺は、「豪華な馬車」に注目して別のアプローチから情報を集めてみた。ここはそもそも街道沿いの町だから馬車自体は珍しくないんだが、それでも突き詰めれば何かが見えてくるかも……
「ビンゴ、これだろ……」
 俺は高めの宿屋にあった宿泊客名簿の一部を指さし、ニヤリと笑う。
 そもそもこれだけ消える馬車の目撃情報があること自体おかしい。被害がないから今は噂で終わっているが、頻発するようになったらこの俺達みたいに怪しんで調べようとする者は出てくるだろうに……実際、宿屋の主人は俺達が馬車の行方を調べていると言ったら、快く名簿を見せてくれた。気味が悪いから解決してくれるならそれに越したことはない……そう思って当然。なのに、だ。フードで姿を隠し自分の正体が知られるのを恐れながらも、馬車は乗り換えたり偽装したりしないで目撃される間抜け……おそらくそこまで頭の回らない素人。ならば何か痕跡を残しているはずだ……と再度情報を洗ってみたら、出てきたよ。
「チャールズ卿……か。最近成り上がった貴族だったか」
 俺は宿泊名簿にある宿泊客の所在地と目的地を調べた。本来なら顧客情報を他人に見せるのは御法度だが、俺が冒険者であること、なによりあの気味悪い噂を調査しているならばと、情報を漏洩しないことを約束に見せてくれた。むろん多少袖の下を通したが……。
 さて、この名簿で何を調べたか。重要なのはここが街道沿いの町だということ。ここを「通る」馬車は多いが、ここを拠点に「引き返す」馬車は滅多にない、そんな町だということ。後者の理由で宿泊する客がいるとすれば、それはこの町へ物資を運ぶ荷馬車か、この町に用のある者……そんな「貴族」が、一人いた。コイツはあからさまに怪しいよな。貴族がこんな町に用があるというのは、普通に考えればあり得ない。
「なるほど……それでレイリー、このチャールズ卿がここに来るまで待機するのか?」
「まさか……こっちから迎えに行くぜ。ついでに、卿が住む屋敷の中も案内して貰おうじゃないか……宝物庫とか」
「……いいね。その卿はたぶん、私にとっても優しくしてくれるんだろうさ」
 たぶんっていうか……確実に。優しくというか……メロメロにする。卿の好みは知らないが、カサンドラには夢中になるはずだからな。ヴァンパイアにしてサキュバスのカサンドラにはな。

 チャールズ卿の屋敷は黒の0番街にある。俺達はこの街に戻り、チャールズ卿を尋ねた。堂々と、二階の窓から。
「……おお、なんと美しい……あなたのような方がこんな街にいようとは……」
 悪党にしか通用しないカサンドラのチャームに、卿は見事掛かった。つまりコイツは……そういう奴だ。だがコイツに雇われている使用人達も同じとは限らない……雇われいるだけの善良な者がほとんどだろう。だから卿だけをターゲットに絞る必要があった。幸い屋敷の防犯は手薄……ではなかったが強固というほどではなく、夜に紛れることが出来る俺達にとっては侵入するのにさして難しくなかった。
「さぁチャールズ……私の質問にちゃんと答えてね……そうすれば……」
「おお、なんでも、何でも応える。だから……」
 カサンドラは彼女なりに「しな」を作って身体をくねらせ、猫なで声で卿を誘惑している……なんというか、カサンドラには似つかわしくない動きと声に、俺は思わず噴き出しそうになったがどうにか堪えた。そんな俺を一度睨みつけ、カサンドラは卿への誘惑を続けた。
「ああ、確かにあの森へはよく行く……あそこには、至極の快楽が……」
「至極の快楽だって?」
 誘惑も忘れて素で聞き返してしまうカサンドラ。俺も思わず声を出しそうになった。
 卿の話は恐ろしいものだった。森の奥には女神の祭壇があり、そこでは定期的に女神を祀る儀式が執り行われているという。その儀式と祀る女神……なにより、それらを「至極の快楽」と言い切る信者達が問題だ。
「そう……ねえチャールズ、私達もその集会に連れて行ってくださる? そうしたら、そこでお礼をたっぷり……してあげるから」
「ああもちろんだ。あなたのような女性にあそこで……ああ、考えただけでも私は……」
 ……変態が。まあ、人のことは言えないが……
「じゃ、約束よ」
 カサンドラはチャームが溶けないために卿の唇に近づき唇を重ね……その唇を軽く咬み、血を流させる。それを一舐めして、唇を離した。
 本来なら首筋から血を吸ってしまう方が手っ取り早いんだが、中途半端な吸血は牙の跡を残してしまう。そこから俺達のことが使用人などにばれては意味がない。今はチャームを継続させる程度で充分だ。骨の髄までしゃぶり尽くすのは、後からゆっくりやれば良い。
「それじゃあね、チャールズ。私達のこと、誰にも話しちゃダメよ?」
「もちろんだ……ああ、待ち遠しい、待ち遠しいよ宴の日まで……」
 俺達は闇に紛れ屋敷を後にする。しばらく歩き充分屋敷から離れたところで俺は……。
「くっ、んくくくく……あははははは!」
「ちょっとレイリー、笑いすぎだろ」
 いやぁ、良い物を見せて貰ったよ。あんなにぎこちない誘惑でも効果あるんだなぁ……しかしあれは……俺はとうとう、腹を抱えてしまった。
「……なあ、そんなに可笑しいか?」
 そう言ってふて腐れるカサンドラは、ちょっと寂しそうな顔を見せる。ああ、ちょっと笑いすぎたかな。
「いやすまん。普段とのギャップがありすぎてな……だが様にはなってたぞ」
 ふて腐れるカサンドラをなだめるために、俺は彼女の手を取り、その手を俺の股間に当てる。
「な? これでも軽く嫉妬してたんだぜ?」
「……バカ」
 可笑しかったが、同時に充分魅力的だったのも確か。俺はそんな魅力的な女の唇を奪い、この続きをベッドの上でする約束をした。

「愛しのカサンドラよ。この先に我らの女神ローエを祀る祭壇がございますぞ」
 卿と接触して四日後。俺達は彼の馬車に乗り、森の中に隠された邪教徒の集会場に向かっていた。
 消える馬車のからくりはたわいもないものだった。単純に林道の脇道から森の中へと入り、その入り口をイリュージョンなどの魔法で隠す。それだけだ。この程度のイリュージョンなら本格的に調べ始めればすぐに見つかるだろうが、ただの木こりには見破れないだろう。しかもその脇道は迷いやすいため進入を制限されている区域。常識的な木こりは近くを素通りしても草木を掻き分けて入ろうなどとはしない。単純だが計算された隠し通路になっている。
 まあ大方こんなものだろうとは思っていたが……驚いたのは、この先だ。
「さあ麗しのカサンドラよ。「こ奴ら」めにお乗り換えを」
「えっ、ええ……」
 馬車が通れない道まで来たところで、卿は俺達に「別の乗り物」へ乗り換えるように勧めた。その乗り物とは……人。人間なのだ。カサンドラには男の、卿と俺には女の人間が一人ずつ用意されていた。これは流石のカサンドラも引いた。俺ももちろん引いた。だがここで妙な拒絶を見せてはチャームが解けてしまうかもしれない。俺達は素直に勧めに応じ、顔を覆っていたフードを取り払い四つんばいになった彼らに跨った。
 馬役の彼らはゆっくりと俺達を乗せ歩く。当たり前だが自分の足で歩くよりもかなり遅い。だがわざわざ彼らに跨り教会へ向かうことに意味がある。それがこいつら邪教徒が信じる女神の教えなのだ。
 乗り換えた場所から教会まではそんなに距離はないと思うが、なにせ歩みが遅いから時間が掛かる。その間も卿はカサンドラに愛を語り、彼女をうんざりさせていた。ちなみにカサンドラは卿が用意したドレスに身を包んでいる……カサンドラは最初嫌がったが、鎧を着たまま同行するわけにはいかないからな。それに卿の趣味は悪くない。大柄のカサンドラだからこそ似合うドレスをよくチョイスしてきたなと感心するほどだ。眼帯にまで気を遣い、花模様が刺繍されたものを用意したくらいだから……腐っても貴族、ということか。まあそのドレスと眼帯を渡すまでに、いかにこのドレスが高級か、本来ならば特注のドレスを用意したかった、などとあれこれ語られては、ドレスの善し悪し以前にげんなりするのは判るが……これからの「作戦」を考えれば、ドレスの方が都合良い。
「でも……斧が近くにないのはちょっと落ち着かない……」
 卿の隙を突き、小声で愚痴をこぼすカサンドラ。まあそれも仕方ないだろ……今回の作戦は出来る限り死者は出さない方がいいし。
 さて俺はといえば……ありがたいことにカサンドラの付き人程度に見られているのか、同行は許可されているが半ば無視されている。おかげでカサンドラほど大変ではないが、暇なのはそれで大変なものだ。この「苦行」こそ、こいつらの女神が俺達に強いた「教え」なのかもしれないな……周囲を見渡しながらそんなことを考えていた。
 暇な分、色々と考える時間が取れたのだが……考えるだけ、気分がめいるな。目立つリスクを負ってまで卿や他の連中が馬車で来るのは、同行者の数が多いからだ。今こうして乗り物にされている人間はもちろん、その他にも通常の従者と、買い付けてきたばかりだと自慢していた奴隷がいる。その奴隷達をどうするのか……既に聞かされている俺は、彼ら彼女らの行く末を案じている。助けてやる義理はないが、しかし見捨てる道理もない……まあ、それはこれからの展開次第か。
「着きましたぞ、美しきカサンドラよ。ここが女神ローエの祭壇、我らの宴が行われる場所ですぞ」
 森を切り開き作られた広場。今中央では、祭壇の組み立てが行われている。なるほど……儀式の時だけ祭具を持ち込んで執り行うのか。これだと儀式のない日にロケーションで見つけようとしても無駄だったな……
「おお、来たかチャールズ。して、そちらのご婦人は……」
 信者の一人が近づき挨拶をしてた。それに応じている卿の横で、カサンドラがこっそりと香水を付け治す。貴婦人としての嗜み……ではない。通常ならこういう事は見えないところでするものだ。これはカサンドラのチャームを強化するための魔具。作戦の下準備だ。
「えっと……お、お目にかかれて光栄ですわ」
 ドレスを軽く摘みながら一礼。出発前に師匠と練習していた礼儀作法をぎこちなく再現している。付け焼き刃でどうにかなるものではないと思っていたが、これはまた……笑いを堪える俺をカサンドラが軽く睨みつけて、すぐに相手へ視線を戻した。俺から見れば不格好でも、しかし相手にはそんなぎこちなさなど眼中にもない。
「これはまたお美しい……あなたのような方ならば「メイデン・オヴ・ウィップ」もさぞお気に召すだろう」
 メイデン・オヴ・ウィップ……鞭の乙女。こいつら邪教徒を束ねる女司教で、この馬鹿げた宴の中心人物。そして当然……俺の眷属二号候補だ。司教を名乗り勤める以上、それ相応の実力はあるだろう。そいつを眷属化できるだけの力があるか……それはカサンドラの下準備がどれだけ上手くいくかにかかっている。
 カサンドラは宴が始まるまでに、卿の案内で様々な主要人物と接触し、ことごとく魅了していく。卿もそうだが、主要人物のほとんどが資産家……道楽に多額の金をつぎ込める人物ばかり。卿のような道楽貴族もいれば、商人らしき者も……推測だが、役人クラスもいるだろう。そいつらは皆カサンドラの魅力にやられて、彼女の周囲には軽い人だかりが……やりすぎたか? いや、まあこれくらいがちょうど良いかも……そのはずだ……ちょっと嫉妬してる自分に気付いて、俺は思わず苦笑してしまった。
「そろそろメイデン・オヴ・ウィップがお見えになる。我らも準備を」
 カサンドラを取り囲んでいた男達は名残惜しそうに彼女の元を離れ、準備を始めた。準備とは言っても、ただ服を脱ぎ鞭を手に取るだけなのだが……手にした鞭が極悪だ。革製ではなく有刺鉄線で出来た拷問用。叩くのではなく肌を切り刻む目的で作られた、まさに凶器。
 彼らはそれを手に、連れてきた奴隷達を組み上がった祭壇の前へと連れて行く。司祭らしき者達……俗に言うレザースーツのような「司祭服」に身を包んだ男女がその奴隷を台座に大の字で縛り付け並べていく。奴隷の性別や年齢、容姿も様々だが……どうやら彼らは連れてきた男達の「好み」が反映されているようだ。奴隷達は自分達の運命を悟り、皆怯えている。当然泣き出す者もおり、それを司祭が煽っているのか……叫び出す者まで現れた。
「ほお、なかなか活きの良い者もおりますようで」
「これはこれは……ますます楽しみですな」
 外道が……奴らの言動には吐き気がする。それに耐えきれない……という訳ではないが、俺は奴らの視界から消えるよう、森の中へと入っていく。宴が始まるまで身を潜めるために。カサンドラも今は「着替えをしてくる」という理由で場から離れ、身を隠している。彼女の下準備もあらかた終わった……後は待つだけだ。
「おお、司教様がお出になった!」
「メイデン・オヴ・ウィップ……我らに痛みを!」
「生贄に痛みを、至福の痛みを我らに!」
 始まったか……祭壇には司祭達に混じり、メイデン・オヴ・ウィップ……赤紫、いやまさに「血の色」に染まったかのようなレザースーツを着た女が現れる。胸や局部はかろうじてスーツで被われているが、あからさまに目立っている。特に胸はかなり大きく、どうしたってそこへ視線が集中してしまいそうになる。
「皆の者!」
 真っ赤な唇から一言。その一言で熱狂していた広場が一斉に静まりかえった。
「今宵も良く集まられた……我らが女神ローエも、皆の苦痛と苦悩を待ちわびておりました」
 細くつり上がった瞳が周囲を見渡している。俺の位置からではよく見えないが、集まった観衆はまた興奮し始めているのだろうな……離れた森の中からでも、奴らの荒い息遣いまで聞こえてきそうなほど、広場の熱気が高まっている。
「さあ、女神に苦痛の賛美歌を届けよう、皆に祝福の苦痛を!」
 怒号のような歓声。程なくして響き渡る悲鳴。信者どもが生贄となった奴隷達に凶器と狂気の鞭を振るい始めた。
 これが邪神ローエの教義。かの女神は苦痛と苦悩がお好み……短絡的に言えばSMの女神だが、短絡的にすませるにはハードすぎる……いやもう、ハードなんてレベルじゃない……拷問だ。聞いた話では、女神の求める苦悩は肉体的な痛みに限らず、苦しみなら何でも好物……例えば虐めから圧政に至るまで、精神や金銭の苦しみも含まれている。そんな女神の信者に貴族やら商人、役人なんかが多いってのはなんだ……嫌な世の中だ。
 地獄絵図が眼前で繰り広げられている……が、俺は耐えた。まだ踏み込むには早い……もう少し、もっとこいつらが興奮してしまわないと……。
「どうか、おおどうかこの女神の卑しき家畜にも苦痛を……」
「豚が、そんなに鞭が欲しいのかい?」
「はい、その鞭を、この豚めにも……ぐぁあ!」
 司祭の足下に跪き、信者の一人が鞭を受け苦痛と快楽の声を上げている。そう、こいつらはサディストでありながらマゾヒストでもある。究極の変態だよ。
「気絶したか……だがまだだ。まだ終わらせんよ?」
「……あっ、ああ……もう、もう許して……」
 血だるまとなった生贄に司祭が近づき、傷をキュアで癒していく。完治していく生贄に、また有刺鉄線の鞭が襲う。生贄も信者も司祭も、これを繰り返している。
 祭場の興奮度はかなり高まり、周囲の木々がその熱気で燃え出しそうだ……そろそろか。というか、俺がもう耐えられそうにない。俺は隠し持っていた粉袋を三つ、祭場に投げ込んだ。
「くっ……なっ、なにごとか!」
 鞭の乙女が巻き上がる煙の中で叫んだ。俺は煙に紛れその声主に忍び寄る。
「……何奴!」
 鞭が俺目掛け振り下ろされる。この視界の中でも的確なコントロール……見事肩口に当てられた。だがこの程度で怯むか……俺は構わず間合いを詰め、一気に司教の腰を抱き引き寄せる。
「この……」
 司教の左手が淡い紫色に光る。その手が俺の腹部に当てられる……寸前、止まった。
「きっ……さま……」
 首筋に俺の牙。煮えたぎるような熱い血を啜り、司教の身体を支配する。ふぅ……間に合った。
「せ、セイラ様!」
 煙が晴れ、視界が良好になり始めた。祭壇の異変に気付いた司祭達が司教の名を叫ぶ。そうか、こいつセイラって名前なのか……えぐい事してる割に名前だけは清楚っぽいな。
「ほら、コッチを見な!」
 反対側、祭壇から離れたところで大きな声が張り上げられた。カサンドラだ。官能的なレザースーツに着替えたカサンドラが、声を張り上げ注目を集めた。
「お……おお……」
「なんと……美しい……」
 事態をまったく飲み込めていない者達も一斉にカサンドラを見つめ、そしてフラフラと男達は近づいていく。
「これは一体……」
「……はっ、せ、セイラ様!」
 残った女司祭が、近くにいた俺と司教に迫る。俺は慌てず……内心かなぁりビビリながら……その女司祭達に命じる。
「止まれ、そして跪け」
 勢いよく駆けてきた彼女達はフラフラと失速し、そして命令通り、跪いた。
「なにが……なにを、した……」
「チャームだよ。ゾンビパウダーも使っている」
 先ほど投げた粉袋は煙を巻き上げると同時に、その煙に紛れてゾンビパウダーを周囲に振りまいていた。その粉は俺達ヴァンパイアのチャーム能力を補佐する力がある。そのおかげで、男はカサンドラが、女は俺が魅了し無力化できた。もっともカサンドラは引き受ける男の数が多いから、事前にチャームをしかけていたわけだが……下準備のかいはあったな。
「……ヴァンパイア、ふぜいが……」
「はっ、サドとしては屈辱かい? それともマゾとしてこの状況を楽しんでるか?」
 まあ儀式を邪魔されている以上、司教としては屈辱なはずだがな。さてと、こいつをどうしてやろうかな……っと、その前に……
「お前達、まず生贄達の傷を癒せ」
 跪いている女達に、俺は命じた。フラフラと無言で立ち上がる彼女達は生贄達に近づき傷を癒していった。その生贄達は……俺を複雑な心境で見つめている。敵なのか味方なのか、判別つかないのだろう。加えてこの状況を理解できず混乱しっぱなしなはずだ。なにせ彼ら彼女らにはチャームもゾンビパウダーも効いてないから。善良かどうかはさておき、少なくとも悪党ではない彼らに俺達の術は効かない。だから尚更、今何が起きているのかも理解できないはずだ。
「終わったら戻ってこい……君達は悪いが、しばらくそのまま待っていてくれ」
 生贄達は一様にホッとしたようだ。少なくともこれ以上酷いことをされないと理解したから。
「さぁてと……どうしてやろうか」
「くっ……」
 何せ相手は司教にまで上り詰めた実力者。このまま眷属にしようとしても、カサンドラのような従順な眷属になってくれるかどうか、イマイチ不安だ。かといって眷属化を諦め血と精力を吸い尽くすのはもったいない……いや、間近で見ると本当に良い女なんだよ。豊満な胸、そのくせキッチリくびれた腰。張りのある尻。レザースーツでそれらのプロポーションがより強調され美しいラインを描いている。顔つきも気が強そうな細いつり目に薄い唇。こーいう女を傅かせたらさぞ気分良いだろうなぁ……やはり眷属にしなければな。もったいないよやっぱり。
「跪いて口を開けろ」
「この……」
 ちょっと早いが、まずは俺のを飲ませてしまうか。俺は鞭の乙女、セイラの口へ俺の肉棒を突っ込んだ。
「舐めろ……噛むなよ。そう……そうやって俺のを大きくしろ」
「くっ、クチュ……ピチャ、チュ……ふぐっ、ん……クチュ、クチャ……」
 当たり前だが積極性に欠けるフェラチオ。このままでも気持ち良いが……時間が掛かりすぎるな。
「仕方ない……おい、お前だ。こっちへ来い」
 待機している女司祭の一人を呼びつけ、俺は首筋に噛み付いた。
「んく……ふぅ、流石邪神の司祭か……なかなか旨かったぞ」
 ドサリと、干からびた女が倒れる。俺は眷属化させることなく女の血を全て飲み干したから。仲間が倒れたのを目撃しながらも、女司祭達は動揺しない。チャームに掛かっているからというのもあるんだろうが……微妙に、息を荒げ始めているぞあいつら……流石はマゾ司祭といったところなのか……。
「よし、みなぎってきた……動くぞ」
 血を飲んだことで俺の肉棒が一気に硬く大きくなった。これならイラマチオも出来る。俺はセイラの口に突っ込んだまま、頭を押さえ腰を動かし始めた。
「ぐっ、く……くふ、ん、グチュ、チュ、んぐ……グチュ、グチャ……」
 苦しそうな顔をするセイラ……予想はしていたが、こいつ悦んでるな。頬が高揚しているぞ。この状況を楽しみ始めてるな。
「出すぞ、こぼさず飲め」
 喉の奥に向け、精液を吹き付ける。咳き込みそうなのを耐え、懸命に俺のを飲み下していくセイラ。これでまず下準備は出来たかな。俺はちょっとした征服感を楽しみながら、次のプランを考える。
「これ……んっ、そうか、さいいん……」
「ご名答。流石にこの手の知識はあるんだな」
 自分の身体に起きた変化を、司教はすぐに理解していた。淫魔の精液による催淫効果。セイラは今不自由な身体に走る快楽の要求に耐えている。
「どうする……きだ……」
「それなんだがな……まぁ慌てるな。今考えている」
 さてどうしたものか……このまま最後までやって眷属にしても、裏切りそうだよな……出来れば今この状況で、俺への忠誠心を植え付けないと。女神を信仰するのではなく、この俺を信仰するように……その為にはどうすれば良いか。
 調教の定番といえば、被虐調教だ。だが元から苦痛と苦悩を快楽としているこいつらには効果が薄い。むしろこれは女神からの恩恵だと受け入れるだろう……となれば……焦らすか。
「お前ら、手伝え」
 待機中の司祭達に命じ、俺は祭壇に縛られていた生贄達を解放し、代わりにセイラを縛り付けさせる。生贄達は俺の指示を素直に従い、近くでジッと待機している。この場を逃げ出しても森の中では迷うだけだと、判っているのだろう。
 ちらりと、カサンドラ達が気になってそちらを見る。
「おお、おお……」
「ああ……」
 自我を失った男達が、カサンドラを取り囲んでいる。その中央でカサンドラは、突きつけられる数多の肉棒を嬉しそうにしゃぶり、擦り、入れている。
「ほら、もっと……ん、激しくできない? ん、もっと、もっとだよ……」
 大丈夫かなアイツ……司祭達は殺しても構わないが、他の信者達、特にチャールズ卿達は殺さないように言いつけているんだが……ここは任せるしかないか。
「こっちも楽しもうか……まずはお前だ。こい」
 司祭の一人を呼びつけ、まずは首筋に噛み付く。
「……よし、四つんばいになれ」
 身体の自由を奪ってから、俺は彼女達が愛用していた鞭を使い、痛めつけてやる。
「ん、ひぐ、あっ、い……いたい、いい、ひぎゃあ!」
 悲鳴を上げ、頬を染め、股を濡らす変態司祭。おそらく痛みでチャームはすぐ解けてしまったはずだが、しかし身体の自由を奪っているから反抗はない。むしろこの苦行を楽しんでいるようで、潤んだ瞳は期待と興奮に染まっている。
「あああ……すわ、すわれて、い……く……」
 限界間近まで痛めつけてから、俺は血を吸い尽くし、逝かせてやる……女神の元へ。苦痛を受け続けた末の昇天だ、彼女にしてみれば本望だろう……そう思うとしゃくだが、これもセイラを完全な眷属にするための布石だと思えば仕方ない。
「どうした、随分息が荒いな」
「ハァ、ハァ……なぜ、こんな……」
 セイラは身体をよじりながら疼きに耐えている。
「お前も鞭が欲しいか?」
「あっ、ああ……ほしい、むち、わたしを、いため……つけて……」
 目の色が変わった。先ほどまで憎悪の入り交じった視線をこちらに向けていたが、とたんに期待を滲ませるようになった。
「欲しければ誓え。女神ではなく、この俺様を信仰すると。女神の前でな」
「バカ……な……」
 ここは彼女達の祭壇。女神を祀る祭壇。ここで、俺への忠誠を誓わせる。それが出来れば眷属化も上手くいくだろう。快楽が欲しい為に嘘の忠誠を誓うこともありえるが、嘘だとしても女神の前でそれを口にした段階で、完全な背徳行為だ。誓わせられれば……俺の勝ちだ。
「後……三人か。彼女達の血を全て吸い尽くすまでに誓え。出来なければ……「楽に」殺してやるよ」
「この……ハァ、ん……」
 頑張るな……このまま耐えきってしまうかも……っと、弱気になっても仕方ない。次の女だ。
「ほら、司教様に見て貰えよ」
「ああ、なんという、くつじょく……ハァ、ん! セイラ、さまぁ……」
「おのれ……ハァ、ん、むち、むちを……」
 誓わない限り与えない。俺は司教の代わりに司祭へと鞭を振るう。悦楽に浸る顔を司教に見せつけながら、なんとも幸せそうに悲鳴を上げる。
「くぁあ! い、こんなこと……ろ、ローエ、わがめがみ、んぁあ! あなたの、もとへ……んっ、んん!」
 俺は間違いなくサディストだと思う。だがここまでは……血を見て血を吸うことで自分の中での興奮度を継続しているが、やはりただ痛めつけるだけってのは気が進まない。調教するにしても、そこになんというか……互いの信頼関係とか、好意とか……そういう感情があって成り立つものだと思う。無ければただの拷問だ。やはり俺は、女神ローエを信仰する気にはなれん。
「めがみ……よ……」
 信仰はしていないが、俺は女神の信徒を次々とその女神の元へと送り続け……最後の一人が昇天した。未だ、セイラは邪神の司教の座にいる。
「……時間だ。答えを聞こう」
「ハァ、ハァ……ん、く……」
 返事が出来ないほど参っている……訳ではないな。まだ耐えてる……ここまで耐えるようだと、眷属にしてもすぐ裏切るだろう……残念だが、仕方ないか。
「まっ……て……」
 諦め、俺が祭具用の短剣を拾ったところで、セイラが呟く。
「なんだ?」
「……ちかい、ハァ、ちかい、ます……」
 良かったぁぁぁぁぁ。胸をなで下ろしたくなる衝動を耐え、俺は毅然と司教を見つめる。
「何をだ?」
「あ、あなたさま、に……ちゅうせ、い、を……ちかい、ます、ハァ、だから……」
「忠誠を誓うか。その忠誠は、女神の信仰よりも勝るのか?」
「はっ、はい……」
「ハッキリと、自分の口から誓え」
「め、がみ、よりも、あなた、あなたさまを、あなたさまに、ちゅうせいを……んっ! ハァ……ち、ちかい、ます……だから……むち、を、おねが、んぎぃ!」
 言い終わる前に、俺は鞭を一振りくれてやった。
「……おいおい、今のだけで逝ったのか?」
「ああ……はい、いきました……はぁ、でも、まだ……」
 やべぇ、ゾクゾクするほど美しい……汗ばんだ肌に一筋の赤い傷跡……血を滲ませながら悶える彼女が、とてもいやらしく美しく見える……よかった、この女を自分のものに出来て良かったぁ!
「ください……くつうを、いたみを……むち、むちを……」
「それは女神に捧げるためか?」
「いえ、わたしが、ほしい……あなたさまの、あなたさまの、むちが、ほしい……」
 先ほどまでの、司祭達に振るった鞭とは違う。俺はこの女が欲しいから、女の求める鞭を振るう。やはり、やはりこうでなければな。
「ひぐぅ! こ、これが……いぎっ! あっ、また……ん、くぅあぁ! いっ、もっと……あぁああ!」
 悶絶し扇情的な顔になるセイラ……たまらないな。だがこのまま続けたらセイラの体力が持たない。そうなる前に……
「ひあ、はいって……る、ああ、おとこの……んっ、ふぁ、ん、ああ!」
 ドロドロになった淫唇。俺は肉棒を一気に突き入れ、秘粘膜を擦り上げる。膣は俺を悦んで迎え入れ、歓迎の意を圧迫で示す。
「なに、これ……ん、いあ、これ、すご……んっ!」
 男が初めてだった訳ではないようだが……慣れているようでもない。おそらく痛みを伴うためにも充分濡れていない状態でやったり、そんな無茶な性交が多かったんじゃないか……推測でしかないが、そんな気がする。となれば、これだけ濡れて興奮している状態で、この俺様の……インキュバスの肉棒じゃ効くだろうよ。
「叩かれるのと、どっちが良い?」
「こ、こっち……これ、すご、い、こ、こんな、すご、い、あっ、ふあ、わた、わたし、も、もう……」
 勝った。ちょっと困らせるくらいの気持ちで尋ねたんだが……即答とは思わなかった。やはり拷問よりも愛情ある調教だぜ女神よ! 俺は邪神の祭壇で信徒を一人改心させている。
「……逝くぞ。首を差し出せ」
「は、はい、わたし、わたしも、い、これ……ん、くあ……ん、んぁああ!……ああ……」
 膣がぐっと締まり、俺はその膣に、奥の子宮に、淫魔の精液をたっぷりと注ぐ。むろん首からは煮えたぎるような熱い血を飲み込んでいく。
「ああ……」
 ピクピクと身体を震わせるセイラ……俺は彼女を祭壇から解放し、ゆっくりと下ろしてやる。
「動けるか? まず自分の傷を癒せ」
 しばらく動かなかったが、程なくしてセイラは腰を下ろしたまま呪文を唱え自分の傷を治していく……僧侶や司教の使う信仰呪文は神への信仰心によって効果が高まる呪文。だがその信仰心はあくまで気の持ちよう……気力や魔力の補助的なものでしかないらしい。だから信仰を失っても、他に支えがあれば信仰呪文を使えることは可能だ。さて、セイラはアッサリと信仰呪文を使っているが……彼女の魔力を支えているのは信仰なのか忠誠なのか……。
「セイラ、お前のやり方で構わない。俺への忠誠を示してみろ」
 無言のまま、セイラは近くにあった鞭を手に取り立ち上がる……カサンドラの時と同じパターンだな。さてその鞭をどうするのか……セイラはその鞭をためらいなく、振り下ろした。
「……これが、私の答えでございますご主人様」
 振り返り、セイラが微笑んだ。彼女の前にはズタズタになった祭壇が崩れ落ちている。
「これより、私は信仰を捨てあなた様にお仕えします。これからも私を導き……そして」
 跪き、四つんばいになってセイラは俺の足を一舐めする。そして顔を上げ続けた。
「快楽と苦痛を。あなた様の愛と鞭を、お与えくださいませ……」
 信仰は捨てても趣向まで変わるわけではない。むろんそれは望むところだ。拷問ではなく調教を、これからも続けてやるさ。
「ああ、もちろんだセイラ。俺の可愛い眷属よ」
 頭を撫でてやると、セイラは幸せそうに微笑んだ。くぅ、こうやってなつくと可愛いなぁ。
「さて……カサンドラの方はまだ終わりそうにないな」
 幾人かは疲れ果て倒れているようだが……まだカサンドラは四人ほど相手をし続けている。
「あの……ご主人様は何が目的でこのようなことを?」
 俺に忠誠を誓ったはいいが、俺の目的をまだ理解していないセイラ。不思議に思うのは当然だ。
「あいつらがこぞって、財産を俺達に差し出すようにし向ける為だ」
 殺すな、と命じているのはその為だ。死んでしまってはあいつらの財産を吸い尽くせないからな。チャームは掛け続けることで解けにくくなり、完全な傀儡状態にまでもっていく事が出来る。カサンドラは今あいつらにチャームを掛けながら吸血や性交を行って、チャームの効果を加速させている。傀儡になればこちらの言いなり通り、全財産を躊躇無く差し出すようになる。そして全部を差し出したところで……血も精力も吸い尽くす。傀儡のまま飼い続けても仕方ないし、財産が無くなればただの悪党。悲しむ者もいやしないさ。
「……ふふ、ご主人様は相当に、悪党でございますね」
「なに言ってんだ。あいつらはあれで幸せなんだぜ? どこが悪党だってんだよ」
 見方によっちゃ、俺達は天使だぜ。むろんそんなこと微塵も思ってないが。
「カサンドラを手助けしてやってくれ、「偽」司教さん」
「心得ました。彼らの薄汚い信仰を利用してやりましょう」
 あれだけ熱烈だった信仰を薄汚いと言い切るか……変われば変わるものだな。
「さあ豚ども。このメイデン・オヴ・ウィップが直々に苦痛をくれてやろう。跪き媚びるが良い」
「……それとも、私の平手打ちがお好みかい? こっちが欲しかったらケツを向けな、豚野郎」
 カサンドラもノリノリだな……さぁて残るは……
「ああ……いや……」
「こっ、殺さないで……」
 生贄達か。実は一番厄介なんだよなぁ……この一部始終を見てるから尚更。
「……黙って付いてこい。命が惜しければな」
 だが対処の方法は事前に師匠と打ち合わせている。まずは安全でかつ目立たないところまで移動しないと……怯える生贄達を更に脅かすのは気が引けるんだけど、ここでなだめて善人面しても説得力無いからなぁ。
「カサンドラ、セイラ。そいつらは頼んだぞ」
「ああ、任せてくれ……ほら、まだ叩かれたいのかい!」
「お任せを……ホホホ、まだ足りないのかい? どうしようもない家畜だね……そらっ!」
 なんつーか……あれで恍惚の表情を浮かべている男どもはなんというか……道楽や信仰で人を傷つけてきた奴らの、なれの果てがアレか。なんともやるせないね……俺は溜息をつきながら、生贄達を先導していった。

 数日後。ホクホク顔の師匠が俺達を館に呼びつけた。あれからの経過を、俺達に知らせるために。
「流石は極悪人よねぇ。かなりため込んでたのよぉ」
 チャールズ卿を始め、元ローエ信者から巻き上げた財産は想像以上のものだった。それこそ、小さな街なら丸ごと買収できそうなくらいは集まったらしい。
「その代わり……出ていく分も多かったけど」
 収入を得るために必要な後処理の数々。それが思った以上の出費になったらしい。
 師匠はとにかく、全ての痕跡を消そうとした。それは俺達がやってきたことも当然、ローエ信者達が集会場にしていた場所なども含まれた。死体の後処理から伐採された森の修復、それを行うために呼び寄せたエルフやドルイド達への謝礼金と口止め料。更に財産を奪われることで失脚するチャールズ卿や他の商人達が雇っていた、善良な使用人達の救済に至るまで師匠は手を回している。
「そこまでやらないと、後味悪いじゃない?」
 それはそうだが……いやはや、よくやるよ。流石に元使用人の面倒までは思いつきもしなかったが……ただの守銭奴ではない、ということか。
「で……あの生贄にされていた奴隷達は?」
「家族がいる子は家族の元へ帰ったわ。孤児になっていた子は君がいた孤児院に行ったり……後はうちのチェーン店で働いてる子とかもいるかな」
 むろん、あの時に負った心の傷に対するケアも忘れていない、と付け加える師匠。記憶を消すという方法もあるが、記憶の操作は思わぬ障害が発生することもあるとやらで、師匠はあまり好きではないらしい。だからあの時のことや俺達のことは口止めをするだけに止めている。その程度で大丈夫なのかと心配にはなるが、大丈夫だと師匠は自信たっぷりだ。誰かに話したところで得られる特のある話ではないし、なにより俺達を恨むような事柄ではないからと。まあ、その通りなんだろうが……ここは師匠を信じるしかないか。
「で、そっちはどうなの?」
「チャールズ卿は吸い尽くした。予定通り屋敷は私達がもう引っ越している」
「他の者達は私めが、元司教としての最後の務め。キッチリ吸い尽くしておりますわ」
 つまり、これで全てが片付いた……そういう報告会だ。さて、これで全部終わった。残るは……
「そろそろ、貰う物貰おうか」
「あら、ちゃんと覚えてるのね」
 当たり前だ。今回は色々下調べだ下準備だ後始末だ、骨も折ったし日数も掛かったからなぁ……ちゃんと報酬を貰わないとやってられん。
「それじゃあ……はい、随分奮発しちゃったわね今回は」
「おお、今回は銀貨一枚多い……って、あのなぁ!」
 銀貨を床に叩きつけ、俺は怒鳴ってしまった。この守銭奴め……前言撤回だ!
「仕方ないでしょ。収入も多かったけど出費も多かったって言ったでしょ? それに今回はあなた達に屋敷を一つ任せたんだから……あれだけでも充分じゃない」
 それはそうだが……それはそれとして、もうちょっと手取りが無いとよ。こう、モチベーションとか色々あるんだよ。
「それにね……もう次の標的を見つけてあるのよ。あのね……」
 またそうやって話をはぐらかす……まあもう慣れた。俺はふて腐れながらも次の仕事に向け耳を傾けていた。

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