第1話

 この世の中、全ては不平等だ。
 とてつもなく幸福な者もいれば、不幸な者もいる。天は人に二物も三物も与え、あるいは何一つ与えられない者もいる。
 結局、それが世の常。平等を声高に叫ぶ奴は、単なる弱者だ。
 俺か? 俺は当然与えられた側さ。当然だろ?
 ……ほんの少し前までな。
「チクショウ、とっとと放せ! これは基本的人権の侵害だぞバカヤロウ!」
「その基本的人権を侵害しようとしたのは君だろう?」
 クソ、俺様としたことが……まさかこんな大物が相手だったとは……
 世の中不平等だぜ。俺様みたいに恵まれているよりも、更に恵まれてる奴がいるなんてな!
「まったく……初めてだよ。魔法品を盗み出そうとする者はいくらでもいたけど、まさか僕の妻に手を出そうと進入してくる者がいるなんてね……」
「そうね……私を夜這いしようなんて、そんな命知らずは結婚して以来いなかったわね」
 俺の獲物……だった女が、腕を組みあきれ顔で俺を見下す。その隣には、女の旦那が苦笑いを浮かべてやがる。それを見ている俺はといえば……奇妙な「光」に身体を縛られ、強制的に組み伏せられたまま。くそ、いつまでこんな格好させる気だ。
「ふぅん……なるほど。この子、「普通」じゃないわね。思考回路もだけど、色々と」
「そのようだね。でもまだ力の使い方に慣れていないようだ」
 二人が俺をジロジロと眺めたり、顔をもちあげジッと俺の目をみたり……好き勝ってやりながら、好き勝手なことをいいやがる。
「吸血鬼と淫魔のハーフか……君のような者が、わざわざ妻を狙う理由はなんだい?」
 そう、俺様は特殊な力を双方から得た、選ばれた者。なのに……そんな俺を上回る奴がこの世にいるのかよ!
「ほら、質問に答えなさい。それとも、そのまま絞め殺されたい?」
「イギギギギ! ちょ、止め、止めろぉ!」
 容赦ねぇ……今、本気で殺す気だったろコイツ……俺、こんな女を標的にしてたのか……。
「ほら、とっとと話なさい。私を狙ったのは何故?」
 こんな屈辱……だがプライドで命は買えない。俺は渋々、質問に答える。
「……最初の眷属は、なんだ、あんたみたいな女が良いと……」
「最初? なに、初めてなの? もしかして、童貞?……ぷっ、アハハハハハ! まったく、なんて男だろうねぇ。アハハハハ!」
「そんなに笑ったら可哀想だよ……その、なんだ……君は、ちょっと自分の力を過信しすぎたね」
 くそ……だから言いたくなかったのに……ああそうさ、どうせ俺は童貞だよ……自分の力だって、気付いたのはつい最近だ。
 そう……つい最近だ。俺が人間じゃなく、ヴァンパイアとサキュバスのハーフだと知ったのは。
「さて……これ以上を自分の口で言うのは恥ずかしいよね……ちょっとゴメンね」
 男が屈み、指先を俺の額に軽く押しつける。ポゥと淡い光が灯り、男が目蓋を閉じジッとしている。俺は……何をされているんだ?
「なるほど……孤児院にいた間は、その能力も全て封印されていたんだね」
 ちょっ……そうか、コイツ俺の記憶を読みやがったな!
「へぇ……なんだって孤児院にいたんだい? この子は」
「それは本人も知らないことのようだよ……どうやら成人して孤児院を出てから自分の力に気付き、その力を試したくなったと」
「で、いきなり私かい? まったく、世間知らずも良いとこだよ」
 悪かったな、世間知らずで……魔具屋なんて、ただ魔法道具を作ってる程度の人間だと思ってたが……国内外に広く知れ渡ったこの店の評判は知っていたが、これほどの魔力を持っていたなんてよぉ。
「仕方ないかもね……この子だって、まさか君がイフリータだとは思わなかったろうし」
 いっ、イフリータぁ! イフリータって言えば、灼熱の鬼神として恐れられるイフリートの女性……なっ、なんでそんな奴がこんなところで魔具屋なんてやってんだよ。しかも人間と結婚までして……
「だとしても、魔具屋はそれなりに魔法力が高くないとやってられない商売だよ? 防犯くらいしっかりしてると、普通思うだろうさ。それを……策も無しに窓から侵入って、アホとしか言い様がないね」
 流石童貞君、とまで付け加え、貴女は高らかに笑いやがる……くそ……そりゃ相手が悪すぎるぜ……なんて運の悪い。
「まあまあ……でも根は随分優しそうな子みたいだよ。この当たりで許してあげようか」
「ダメよ、このままほっといたら自分の力をどこかで試すだろうし……」
 当然……とは、流石に言わないが、折角目覚めた力だ、使わない手はないだろ。
「そうね……ふふ、良い事思いついた」
 ニヤリと笑うイフリータの、それはそれは美しくも恐ろしい顔……俺の人生が一変する、その瞬間だった。

 あれから一ヶ月か……俺はこの先、どうなるんだか……。
 悪いようにはしない。考えようによっては、むしろラッキーだ。あの女……もとい、「師匠」はそう俺に言った。確かにその通りだと思う。だが……半ば強制的というのが、気に入らない。気に入らないが、確かに事と次第で……くっくっくっ、俺の中の血が、騒ぎやがるぜ。
 興奮を抑えつつ、俺は街にある一軒の店……「黒龍の宿り木亭」という冒険者の店を訪れていた。
 ここに来た目的……それは俺が「冒険者」という職に強制的に尽かされたから。強姦魔未遂から考えれば、随分と思い切った転身だよな……俺に選択権はなかったが。
 さて、ここに来た目的は仲間を得るためだ。とはいえ、今店にいるような屈強な戦士や俺好みの清楚な僧侶などを相手にするつもりはない。というより、ここに来る連中ははなから仲間にする気など無い。
「ほう、見慣れない顔だな。新米か?」
 丸坊主な店の主人が近づいてきた俺に声をかけ、品定めするかのように俺を上から下から何往復も見定めている。
 おそらくこの主人、口にはしないがこう思っているだろう。「新米の癖になんて装備をしてやがる」と。
 俺は師匠達から貰った、最高級の魔具装備に身を固めている。身につけている物のほとんどが師匠達の作品だが、その全ての価値を一目見ただけで判断できる奴はそういないはず。一ヶ月前までの俺だったら、せめて「高そうな鎧だ」くらいまでしか判断できなかったろう。目利きのある亭主なら、鎧が高級なスケイルメールだということは当然、腰に下げた短刀も、羽織っているフードも高級品だと気付くだろう。更にこれらの全てに魔力が掛けられているところまで見抜いていたらたいしたものだ。
「まあな……ところで主人、一つ聞きたいんだが」
 俺はエール酒を頼みながら、この店に来た目的である情報の収集に取りかかる。
「この辺りに「隻眼のカサンドラ」って女山賊がいるという噂を聞いた。どの当たりにいるか、知ってるか?」
「カサンドラだって?! おいおい、滅多な名前を口にするんじゃないよ……お前さん、仇討ちか何かか? 悪いことは言わない、それなら諦めな……」
 予想していたが……やはり舐められてるな、俺。
 隻眼のカサンドラ……この当たりに出没する、残虐非道な山賊の女頭領。とにかくやり口が非道で、狙った獲物は女子供関係なくほとんどを斬殺。生き残れるのは美男美女のみで……彼らだって、山賊達に好き勝手弄ばれてから捨てられる運命。まったく、なんて美味しい……もとい、酷い連中だ。
 そんな山賊達を、俺は一人で退治しなければならない。ようやく鎧を一人で着たり短剣を振り回せるようになったばかりの俺がな……それが師匠達から課せられた、ギアス……制約だ。
 正直、相手したくないよそんな連中。主人が言うように、諦めたい……高級な武器防具に身を包んでいたって、残虐な山賊に勝てる訳じゃない。舐められているとか以前に、無謀なんだよ……普通ならな。
「助言はありがたいが、俺はやらなければならないんだ……大まかな居場所で構わない、教えてくれ」
 主人の顔が曇る。そりゃそうだよな……一人の若者を死にに行かせるようなものだからなぁ。
「死ぬ覚悟は出来ている。家族を失った俺には、もう生きる意味もない……だからせめて、一太刀、一太刀で良い……あいつらに、あいつらに……」
 ああもちろん、こんなの嘘に決まっている。俺にはそんな家族はいやしない。名も顔も知らない親なんか、家族とは呼べないしな。俺は精一杯の演技を続け主人の同情を買い、情報を引き出そうとした。
「……判った、そこまで言うなら教えてあげよう。だが……命は粗末にするもんじゃねぇぞ? 生きてりゃ、まだ色んな希望もあるもんだぜ?」
 大丈夫、少なくとも死にはしない。なにせ俺は人間じゃないからな。それに緊急避難用のアイテムも持たせて貰ってるし……なんて説明できるわけもなく、俺は名演技を続けながら主人からの情報を聞き続けていた。

 カサンドラの一味が非道の限りを尽くしていながらも、未だに掴まりもしなければ成敗もされない理由。それは彼女達が強いから……というのもあるが、頻繁にアジトを移すことも理由としてあげられている。どうやらいくつかの隠れ家を所持しているようで、不定期に「狩り場」を移しながら追ってから逃れているらしい。他にも、彼女達はあえて大物は狙わず中規模のキャラバンなどを襲ったりと、慎重というか危険を回避する能力に長けているのも理由にあるらしいが……ま、そんな山賊どももこれまでだな。なにせこの俺様に目を付けられたんだから……目を付けたのは師匠だけどな。
 俺は大ざっぱな一味の居場所を店の主から聞き出し、そのあたりを「ロケーション」という魔法で探知し山賊達の居場所を突き止めた。この魔法はもちろん、師匠達から貰った魔具によるもの。どういう理屈かは判らないが、かなり強力な魔法なようで、相手がこの手の魔法で探知されないように防護策をしていても見つけ出せるらしい。そして実際、見つけたよ。本当にすごいなこの魔具は……。
 俺は一ヶ月の間、この手の魔具を扱う方法やそれに伴う知識、最低限の剣術などをたたき込まれた。それらの技術をこうして駆使している訳だが……使い方を学んできたとは言っても、魔族の俺にはそんなに難しい事じゃない。だからこうして簡単に山賊の位置を発見できたが……もし俺がこんな事を魔具無しでやろうものなら、まず魔術の修行を10年は積む必要があるだろうな……普通の人間なら、20年から30年は掛かるだろう。そんな魔法を魔具にしてしまうんだから……本当に俺、よくそんな女を夜這いしようとしたな……。
 この魔具の凄いところは、居場所だけでなく正確な人数から周囲にある罠など、とにかくありとあらゆる細かい物まで全てを見抜いてしまうこと。その全てがダイレクトに俺の脳に届くんだから本当に便利だ。さて……うわ、流石に多いな。人数は19人か……むろんその一人がカサンドラ。いっぺんに相手するには多すぎるな。さてどうやって減らしていくか……ふむ、罠自体は簡単な鳴子があるだけか。なら、この鳴子を使わせて貰うか。
 俺は少し遠目に見える鳴子に目掛け、石を投げつけ……外した。いやまあ、いいんだよ別にな。遠くの鳴子だろうが近くの鳴子だろうが、この際さ。気を取り直して、俺は鳴子が繋がった紐を手で引っ張り、派手にならした。当然だが、アジトの中で動きがある……様子を見に出てきたのは三人か。もうちょっと出てくれると良かったが、まあいいか。
「なんだてめぇ?」
 俺は特に隠れる気がなかったから、アッサリと連中に見つかる。奴らは早速抜刀して、こちらへにじり寄ってきた。うわぁ、見るだけで判るぜ。あいつら相当な悪党だな……俺を捕まえようってより、殺しに来てるな。
「なに、通りすがりの山賊狩りさ」
 腰に付けていた小袋を取り出し、俺はその中身を奴ら目掛けて振りまいた。
「くそ、なんだこれ……」
「目つぶしか……くそっ!」
 そんな生やさしい物じゃねぇよ。もっと恐ろしい……使うのも躊躇われるもんだぜこれは。ま、お前ら相手になら躊躇うこともないが。
「おい、どうした」
 様子がおかしいことを察した別の仲間が、アジトから出てきた。
「おい、後ろだ……やれ」
 俺は命じた。最初に出てきた悪党どもに。すると三人はくるりと振り返り、出てきた仲間に向かってよろよろと歩き出す。
「なっ……どうしたお前ら」
「無駄だ。そいつらはもう自分の意志じゃ動かねぇよ」
 奴らは俺の傀儡となったからな。意志を奪い術者の言いなりにしてしまう粉……ゾンビパウダー。こんな物騒な物を簡単に作るからなぁ師匠達は……もっとも、この粉は俺の能力を高める補助の役割でしか無く、誰にでも使える訳じゃないが。ついでに、洗脳とは違うから命令には従ってもそれこそゾンビのようによたよたとした動きしかできないし、なにより……悪意ある者にしか効かないよう制限を掛けてある。そーいう器用な機能をちゃんと付属させるあたり……なんなんだあの夫婦は。
「てめぇ……おい、しっかりしろ!」
「姐さん! くせ者です!」
 ちっ、もう呼びやがるか……なら出てくる前に、もう少しゾンビを増やしておくか。俺は再びゾンビパウダーを振りまき、交戦している連中にも術を掛ける……が、二人追加できた程度か。まあ今の俺じゃこれが限度か……粉がなければ一人だって傀儡に出来ないしな。
「なにしやがったコイツ……姐さん、こいつら操られて……」
「ふん……だらしないね」
 アイツがカサンドラか……なるほど、隻眼と呼ばれているだけあって、右目は眼帯、しかもご丁寧に髑髏マーク入りだよ。山賊ってより海賊っぽいが……しかしガッシリした体つきや、なにより手にした獲物が山賊っぽい。巨大なバトルアックスだぜ……あんなものを振り回すのかよ。
「どいてな……せぃやぁぁ!」
 一刀両断……仲間だった奴らをまとめて真っ二つか……話には聞いていたが、血も涙もないね。
「何者だ……」
「山賊狩りさ……今日はね」
 なんて、格好付けてる場合じゃないな……さてと、まだ全部で14人も残ってるぞ……全員を俺一人で相手には出来ないな。
「……まあいい。お前ら、やっちまいな!」
 ホッ……いきなりボスと対決って事にならなくて良かった。号令に従い、雑魚どもが俺を取り囲む。そしてジリジリと包囲網を縮めてきた……さて、コイツはチャンスだな。
「よっ!」
「なっ! と、飛びやがった!」
 俺は垂直に、軽々と奴らの頭上を舞う。そして俺がいた場所へ、こぶし大の球を投げつける。
「なっ、クソなんだこれ……」
 爆音と共に、大量の煙が周囲に舞い上がる。魔具屋特性の煙玉、眠り粉入りさ。さてこれで何人かは倒れたと思うが……かー、気合い入ってるね、まだ結構残ってるな。
「野郎ども、逃がすなよ!」
 逃げねぇよ、本番はまだ始まってもねぇんだぜ?
 まだ周囲が煙に包まれている中、俺は鞘から短剣を抜いた。そしてすぐ側にいた男を斬りつける。
「ぐお……」
 深手ではないが、それでも男はよろめき、倒れた。眠り粉の効果が多少効いているのと、この短剣……「吸血丸」の効果だ。どうでもいいが、まんま過ぎるネーミングだよな、これ。まあおかげで説明抜きでもどんな短剣か理解しやすいが。
 煙に紛れながら、俺は次々に山賊どもを切り倒していく。このままカサンドラを残して倒してしまえば……。
「うぉおらぁあ!」
 あぶね! カサンドラの斧が煙を払いながら襲ってきた……近くに仲間がいたのも構わずに。あーあ、俺にやられる前に……まあ、悪党の末路なんてそんなもんか。
「てめぇ……好き勝手やってくれたな。覚悟は出来てるんだろうね?」
 煙が晴れ、視界が良好になる。立っているのは俺と……カサンドラだけになった。よぉし、ようやっと、ここからが本番だぜ……。
「それはこっちの台詞だ。覚悟は出来てるか? 俺の女になる、な」
「なんだ……と……きっ、きさま……」
 ふぅ、素直にコッチの術中にはまってくれたか。俺はジッと、カサンドラの瞳を見続ける。それだけでもう彼女は動けなくなった。
「ふむ……なるほど、こうしてみるとなかなかの女だな」
 肩幅は広く背も高く、随分マッシブな体型だが……しかし出るところは出て、くびれているところも美しいラインを描いている。プロポーションだけを見れば、かなりの美人だぞ。
「なっ、なにを……した……」
「パラライズ……視線だけで相手を麻痺させる、俺の得意技だ」
 といっても、この力に気付いたのは一ヶ月前で、試したのは彼女を入れて三人だけだ。
 そう……このパラライズが、俺の出生を知る切っ掛けになった。普通に酒場で見取れていた女の子が俺と視線を合わせたら急に身体が麻痺して、当然その場で俺が何かしたと騒がれ……身に覚えのない俺は自分が育った孤児院に逃げ込んだ。そこで初めて俺が人間じゃないことを知ったんだが……まあ昔話はどうでもいい。
「喜べ、お前が初めての……俺の眷属第一号だ」
「けっ、けんぞく……だと……」
 ゆっくりと歩み寄り、俺は動けなくなったカサンドラの首筋に……噛み付いた。
「ぐっ……きっ、きさま……」
 これが……これが血か。血の味か……喉を潤す度に体中を駆けめぐる、得も言われぬ快感……これは夢中になる……っと、いかん。全てを吸い尽くしてしまっては意味がない。名残惜しいが、ここらで止めておかないとな。
「くっくっく……さあ、これからだぞ。これから……」
 パラライズの効果は切れている。だが彼女は動けないままだ。
「……殺してやる、殺してやるぞ……」
「ほう……流石だね。口答えをするだけの抵抗は見せるか」
 歯ぎしりし俺を睨みつけるカサンドラ。しかしそれでも身体は動かない。
「残念だが、今君の身体は俺の支配下にある。意識だけはまだ君のものだが……それも時間の問題だ」
 内心、ドキドキですけどね……こえぇよやっぱり、本音を言えばさ……こんなビビリがよくもまぁ師匠の……いやもう、今更だな。
 まあそのおかげで色々、自分の能力を再認識できたり、強化出来たりしたわけで……こうして眷属を得られたのも、師匠のおかげではある。ただ「制約」さえなければ……まぁ言っても始まらないな。
「武器を捨て、服を脱げ」
「くっ……」
 反抗的な目つきは変わらないが、ゆっくりと、カサンドラは俺の命令に従い服を脱ぎ始めた。
「ほう、随分雰囲気を出してくれるじゃないか」
 抵抗もっあてか、その動作はゆっくりとしたものだが……それがかえって、ストリップショーのようになやましげに見える。
「殺す……絶対に殺す……」
 その言葉がなければね。
「よし……そのままジッとしていろ」
 全裸になった彼女へ再び近づき、俺はおもむろに胸を鷲掴みにする。
「くっ……」
「ほう、これはなかなか……」
 すげぇ、これがオッパイかぁ! と、童貞丸出しの感想をどうにか飲み込み、俺はさも手慣れてますよといった雰囲気を出す努力をしながら胸を揉むのに夢中になっていた。
「こんな事して……きさま……」
「勇ましい言葉の割に、頬が赤いな。感じてるのか?」
「だれが……」
 赤いのは、たぶん感じているんじゃなくて怒りで高揚しているからだと思う……が、まぁそこはそれ。俺は胸の感触を楽しみながら、言葉でなじり続ける。
「揉まれ慣れてるな……山賊の前は売春婦だったのか?」
「ふざけるな……」
「ああ、部下達と毎日乱痴気騒ぎだったのか」
「くっ……」
 おいおい、そっちは図星かよ。だが納得する……これだけの張りと大きさを維持するには、毎日揉まれていないと難しいよな。
「安心しろ、これからは俺が毎日揉んでやるぞ?」
 こんなに揉みごたえあるんだもんなぁ……毎日揉んでも飽きそうにない。
「殺す……」
「ったく、さっきから物騒だなぁ……もっと楽しめよ」
「この程度で……くっ、楽しめる、か……」
 そうは言いながら、少しずつだが声が上ずってきたな。童貞とはいえ俺もインキュバスのハーフ。本能がテクニックをカバーしてくれているようで……ただ闇雲に揉んでいるだけではなく、ちゃんと「感じる揉み方」を自然とやっているようだ。力の入れ具合だとか、乳首のいじり方だとか……しかし胸だけで感じるにも限度があるか。ま、胸だけでも逝けるように「調教」するのは、これからのお楽しみ……だな。
「仕方ないな、ならもっと楽しめるように……こっちもいじってやろう」
「やめ……ろ……そこ、は……くっ!」
 片手を胸から解放させ、そのまま下へ……
「なんだ、もう濡れてたじゃないか……流石、毎日部下達とやってただけあって淫乱だな」
「いう……な……」
 ずぶ濡れと言うほどではないが、僅かに濡れていた。それを本人も自覚していたのだろう。明らかに恥ずかしがっている。
「鍛えているようだが、ここは流石に柔らか……おっと、こんな所に硬いものがあるぞ?」
「そこ……やめ……ひぐぅ!」
 ピンと起った陰核。俺はそこを重点的に攻め続ける。先端を突き、指でつまみ、中を剥きだし、また突く……敏感になっている陰核がヒクヒクと蠢き、動けないはずの身体が時折ビクリと痙攣する。
「きさま……ころす、ぜったいに……ひぁあ! ころ、ころ……んぁあ!」
 ったく、感じながらまたそんなことを……しょうがない、そろそろ次の段階へ行くとするか。
「跪け」
 俺は彼女を解放し、命令する。悔しそうな表情をしながらも、彼女は俺の命令には逆らえない。ゆっくりだが、素直に跪き次の命令を待つ。
「舐めろ」
 いきり起った俺の肉棒。それをカサンドラの眼前に見せつける。
「くそ……ピチャ、チュ、クチャ……」
 舌を伸ばし、俺の肉棒を舐め始めるカサンドラ。うは、すげぇ気持ちいい……やはり自分の手でするのとは大違いだな。このこそばゆい感じがたまらない。だが……ちょっともどかしすぎるな。ただ舐められているだけじゃな……ちょっと強引だが、ここは手っ取り早くすませるか
「咥えろ。噛むんじゃねぇぞ」
 カサンドラはギッと俺を睨みながら、ゆっくりと口の中へと肉棒を入れていく。
「よし、そのまま舐めてろよ?」
「ふぐっ! ん、んぐ、ぐ、ん、ふぐぅ!」
 俺はカサンドラの頭を掴み、そのまま腰を激しく振りイラマチオを始めた。かなり苦しそうだが、それでも命令には忠実。舌は懸命に俺のを舐め続けている。
「くっくっくっ……気持ちいいぞ、お前の口は。なんだ、涙流してお前も悦んでるのか?」
「ぐっ、くふ、ん、んぐっ! ふぐ、う、ぐぅ、ん、んん!」
 凄い気持ちいいなこれ……直接的な快楽もそうだが、征服感というか……やべ、もうそろそろ……。
「出すぞ。こぼさず全部飲めよ」
「ん、んぐ、ん、んん……んぐっ! ん、けほ、ん、くっ……ごくっ」
 今までに経験したことのない射精感。大量の精液を口の中に噴射した。カサンドラは咳き込むのも我慢し、どうにかこぼさないよう飲み込むのに懸命だ。吐き出したい意志に逆らって。
 だが……その意志、反抗心も、これで終わりだ。
「んっ、こく……ん、んっ! な、なんだ……これ……」
「精液だよ、インキュバスのな……どうだ、旨いだろう?」
 初めて自分のを飲ませたが……イラマチオの時にも感じていた征服感、俺のを受け入れさせたという優越感がたまらなく心地好いな……むろん、そんな俺の自己満足だけでは終わらない。
「これ……くっ! ん……」
「もう効いてきたな……俺の精液は即効性の高い催淫剤にもなる。くく、もう我慢できないだろう?」
「きさま……どこまで……んぁあ!」
 まだそんな口がきけるか……流石だね。だが、こういう女を跪かせメロメロにするのがたまらない。俺にはそれが出来るだけの力がある。
「欲しいか? 欲しかったら自分から強請るんだな」
「だれが……んっ、くぅ……」
「おっと、自分でいじるな……身体のコントロールは、まだ俺にあるのを忘れるなよ?」
 憎しげに俺を睨みつけてはいるが、目に力が入らなくなってきたようだ……息を荒げ、熱くなる身体をもどかしげによじろうとするが、それもままならない。
「あぁ、く、うあ、ああ! ど、もう……どうにか、な、くぅ!」
「頑張るねぇ……でも、下はもうビショビショじゃないか。水たまりになってるぞ」
 いくら心が拒絶しても、身体は男を求めてる。それを精神力だけで沈めることは出来ない。淫魔の催淫効果は強力だからな。
「ふむ……折角だ、もっとよく見たいな。腰を下ろして脚を広げろ。俺に膣の中が見えるように、手で広げて見せろ」
「きっ、さま……ん、み、みるなぁ! ふ、ふざけ……こんな、くつじょく……」
 言葉とは裏腹に、大胆でセクシーなポーズをあられもなく披露するカサンドラ。やばい……見ているコッチが我慢できなくなりそうだ。
「冷酷非道な隻眼のカサンドラも、こうなると可愛いな……見てみろ、お前のそんな姿を見て俺も興奮してきたぞ」
 ここはちょっとアプローチを変えて攻めてみるか……俺は興奮しきった自分をあえて見せ、カサンドラの興奮を更に煽ってみる。
「美しいぞカサンドラ。可愛げもある……いやらしい女だ、お前は」
「いっ、いうな……そんな、つまらない……みせる、な……」
 部下や美少年を食い尽くした女だ。俺の巨根がいかほどのものか、見ただけで入れたときのことを想像してしまうんだろう。想像は催淫効果を更に加速させる。もうカサンドラは限界だろう。
「欲しいか? これが」
「ぐ……い、いれたけれ、ば……いれればいい、だろ……」
「お前が欲しいのか、と聞いている。俺は構わんぞ? そうやって我慢し続けて心を壊してしまってもな。その後で壊れたお前を抱けば良いだけだ」
 まあ、そうなってしまったら面白くはないが……最悪、それでも眷属として使役させることは出来る……が、やはり出来れば避けたいところ。そろそろ折れてくれないかなぁ。
「くそ……ほっ、ほし……」
「ん? 良く聞こえんな。なんと言った?」
「ほっ、ほしい! お、おまえの、その……ふといの、ふといの! ほしい、いれ、いれて、くれ、いれてぇ!」
「くっくっくっ……言えるじゃないか。では早速……」
 良かったぁ……俺も待ちきれなかったし。とはいえ、ここでもう一つ「詰め」をしておかないと……俺はカサンドラの淫唇に亀頭を軽く触れたところで、一度動きを止める。
「なっ、は、はや、く……」
 一度「たが」が外れたカサンドラは、待ちきれないと懇願する……いいねぇ、たまらない。先ほどのでの強情な女から急かされるってのは、心地好いものがある……おっと、そんなことに浸っている場合じゃないな。
「慌てるな。入れる前に、確認しておくことがある。もう気付いているだろうが、俺はヴァンパイアであり、インキュバスでもある」
 血を吸い身体の自由を奪い、精液を飲ませ催淫効果を体感している以上、この事実にカサンドラが疑う余地なんて無いが……まあこれは、これから続ける説明への枕詞だな。
「このままお前の中に入れ俺の精液をお前の中に放てば、お前はサキュバスになる。同時に俺はお前の血を吸い、ヴァンパイアにもする。そうなればお前は完全に俺の……」
「いい、もういいから、いれて、はやく、はやくぅ!」
 ったく、さっきまでの我慢強さはどこへ……まぁいいか、互いが待ちかねている。俺はゆっくりと亀頭を膣の中へと押し入れ、そこからは一気に奥にまで押し込んだ。
「ふぁああ! あ、ああ……」
「入れただけで逝ったか……ま、あれだけ我慢していたからな」
 祝、童貞卒業! と声高に自分を祝いたいところだが……そんな格好の悪いことは流石に出来ない。これから俺の下僕となる女に、主らしいところを今のうちから見せてやらないと。
「いいぞ、自分で腰を動かすのを許可して……ぐっ!」
「ああ、い、きもち、い、これ、これ、これ! いい、いいぞ、ああ、うぁああ!」
 こいつ……野獣か。少し前まで必死に耐えていた女とは思えないほど……自ら激しく腰を振り、快楽を貪ろうと必死だ。
「なに、なにこれ、すご、い、きもち、きもち、いい、これ、い、い、あは、ま、また、ん、くぅうう!」
 ぐっと膣が締まり、僅かに腰が止まる……が、それもつかの間。すぐに股腰が動き出し、次の快楽へと食らいつく。
「……止まれ」
「えっ、く、ん……ど、どうして……ねえ、もっと、もっと……」
 俺も確かに気持ちいいし、そろそろ逝きそうではあるんだが……このままじゃあ面白くない。射精し血を吸えば結果は同じなんだが、その前に色々と言わせてみたい。俺は口元をつり上げ、質問する。
「お前は何だ? お前は俺の、なんだ?」
「あっ、く……う、うごいて、おねがい……」
「質問に答えろ。お前は俺の何だ? 応えによっては……」
「ど、どれい! どれい、どれいなの! ね、だから、うごいて、ね、ねぇ! どれい、どれいだから!」
 あれだけプライドの高かった女が、快楽のために必死だな……その姿に俺は満足し、再び腰の動きを解放してやる。
「ひあ、これ、いい、きもち、いい、いい、これ、これ、これぇ!」
「ったく……淫乱山賊め」
「いん、いんらん! いんらん、なのぉ、わた、たわし、いんらん、いんらん、きもち、きもち、いいの、すき、すき、すきぃ!」
 涙と涎を垂らしながら、喚き腰を振るカサンドラ。その姿は本当に野獣としか言い様がないな……こんな女が、もうじき俺の……ち、そろそろか。
「出るぞ、首を差し出せ」
「はい、わた、たわしも、いく、いきます、いく、いく、いく、いく、いく、いっ、くぅうあぁあああ!」
 俺のがちぎれるんじゃないかと思えるほどに、膣が肉棒を締め付ける。その圧迫に押されるよう、俺の精液が締まる膣、その先にある子宮へと流れ込む。
「ああああ……」
 そして首筋に噛み付き、再び残っていた血を吸い始めた。今度は遠慮無く、カサンドラの全て……血も魂も吸い尽くすように。
「……ふぅ」
 ゆっくりと俺はカサンドラの首から口を離し、そして腰を退いてカサンドラの中からも抜く。ぐったりと横たわるカサンドラは、ピクリとも動かない。
「……立てるか、カサンドラ」
 俺の声に呼応したのか、カサンドラは僅かに指を動かし、手を地に着け、そしてゆっくりと立ち上がった。
「ふむ……気分はどうだ?」
「……なんだろう……変な気分……」
「なんだそれ」
 こう、イメージしていたのと違うな。なんというか……もっと従順になるものじゃないの? ヴァンパイアやインキュバスの眷属って。
「なんだと言われてもな……どう説明して良いのか、思いつかない……」
 口の利き方もなんかこう……まあ、元々が山賊だから……いや、だとしてもなぁ……もしかして、眷属に出来ていないとか? いやそんなこと……どうなんだ?
「カサンドラ、お前は俺の、なんだ?」
「……」
 か、考え込みやがった……マジか? マジで失敗……いやでも、血は確かに……荒れ狂うような熱い血を、俺は飲み尽くしたはず……
「おっ、お前の言葉で構わない。自分の立場を示してみろ」
「……」
 黙ったまま、カサンドラは捨てられていたバトルアックスを拾った。ちょっ……こいつ、俺を……いや、まだ判らない、いざとなったら……混乱する俺をよそに、カサンドラは静かに俺の前に立ち、そして……片膝を尽き、バトルアックスを俺の前に置きながら言う。
「……私は、主の下僕です……これでいいのか?」
「いいのかって……軽いなぁ」
 ビビらせやがって……だがまぁ、眷属には出来たようだ。良かったぁ。
「それで……どうするんだ? 主。私を下僕にして……山賊の頭になりたかったのか?」
「まさか……山賊カサンドラ一家は今をもって解散だ」
 山賊の頭だなんて、そんな小さいことで満足するかよ。俺も、師匠もな。
「カサンドラ、お前達が蓄えていた財産、どれだけある?」
「どれだけあったか……いちいち計算するのは面倒だから、よく覚えていないな」
 大ざっぱな……まあ、山賊なんてそんなものか。
「その財産はここにあるのか?」
「ここにもあるが、ここだけじゃない。各地に分けて保管してある」
 計算は苦手でも、そういう用心深さはあるんだな。まあ、だからアジトを頻繁に替えたりとかしていたんだろうが。
「よし、その財産を全部かき集めて持って帰るぞ」
「帰る……どこへ?」
「まあ……ひとまず、師匠の館に」
「師匠?」
「あー……追々、説明してやる。とりあえずここの財産を持って行くぞ」
「判った……」
 俺の目的は3つ。一つは悪党狩り。もう一つが悪党の持っている財産の没収。これが、師匠から強制的に言い渡された、俺の「冒険者」としての仕事。そして残る一つが……俺の眷属を増やすこと。カサンドラのような女を眷属にすれば、冒険者としての活動にも幅が出来るし、なによりこの手の女を眷属にするっていうのは、俺様のステータスアップになるからな……とはいえ、なんかイメージ通りじゃないんだよなぁ。そりゃあ、カサンドラみたいな無骨な女が「ご主人様ぁ!」とか言い出すとは思っていないが……
「主ぃ! こいつらどうする! 始末するかぁ?」
 考え事をして足が止まっていた俺に向けて、カサンドラが少し離れたところから尋ねてきた。倒れている元部下を武器の先で突きながら。
「おいおい、物騒だな……そのままほっとけ。助けてやる義理はないが、殺生してもしかたないだろ」
 性格はそのままっぽいな……いったいどうなってんだか。帰ったら師匠に聞いてみるか……ったく、本当に俺は何も知らない……知らないまま、よくあの時は……まあ、もうそれはいい。今はカサンドラの財産を没収して撤収だ。俺は案内されるままに、アジトの中へと入っていった。

「ああ、それは「レイちゃん」が半端なヴァンパイアで半端なインキュバスだからよ」
「だから、レイちゃんって呼ぶな!」
 人を子供扱いしやがって……まあ、実際子供だろうよ、師匠から見たら俺なんて。
「あはは……そうだね、レイリー君はまだ自分の力に目覚めて間もないから、色々と能力不足な面はあるんだよ」
 この人も微妙に俺を子供扱いするよなぁ……まあ、イフリータなんかを嫁にするような人だから、それも仕方ないんだろうけどさ……。
「それもあるけどね、ようするに「器用貧乏」なのよ。それは何度も説明してるでしょ?」
 何度も聞いたさ……初めて自分の出生を知ったとき、俺は自分が「無敵の存在」なんだと思ったさ。天が俺に数多の才能を授けたのだと。たしかに能力の数は多い……ヴァンパイアとインキュバスの能力をどちらも持っているのだから。だが一つ一つの能力は極端に弱い。それを知ったのは、師匠に掴まってあれこれと「仕込まれて」からだ。
「でもよ、それを強化するために「制約」を受けてるんだぜ? なんでカサンドラの眷属化が不十分なんだ?」
「制約を受けてるからこそ、やっとその程度なの」
 師匠が言うには、ごく普通の人間ならいざ知らず、カサンドラのような心身共に強靱な人間を眷属すること自体、とても難しいことなのだとか。それを不十分とはいえ眷属に加えられるだけ、上出来なんだとさ。
 まあそれは納得できるが……納得しても問題点が解決する訳じゃない。問題点……カサンドラの眷属化が不十分という問題は、この先尾を引くぞ。
「カサンドラちゃん、気に入らなかったらいつでもこの子の首、切り落としちゃって良いからね」
「……まあ、頼りない主ではあるが……」
 怖い事言うなよぉ……洒落にならないんだからな。
 カサンドラは俺の眷属になり、俺と同じくヴァンパイアとサキュバスの能力を得た。その代償として、俺への絶対的な忠誠が課せられる……はずなのだが、ここが不十分。今のところは忠誠を誓ってくれているが、何かの弾み……それが反抗心なのか時間なのか、あるいは俺以上の力を付けた時か……ともかく、反旗を翻す可能性は充分にあるらしい。性格が全く変わっていなかったり、口の利き方がなっていないのはこの為だ。
「それでも、主は主だ。裏切る気はない」
「義理堅いわねぇ、カサンドラちゃんは」
 そんな性格に助けられてるかもなぁ……眷属になると、まず「種の本能」が書き換えられる。まぁようするにモラルが変わるわけで、ヴァンパイアの場合「主への絶対的な忠誠」がそれに当たる。本来ならこの本能は絶対的で変わることはないが、不十分なので「反モラル的」になることもあると……元が悪党だけに、それが恐ろしいのだが……義理堅さに助けられてるよ、俺。冷酷非道で身内にも容赦なかったのに義理堅いってのも……まあなんだ、そんな彼女のことはこれから追々、知っていくことになるだろう。
「まあ私としては、君が生きている内にたっぷり稼いできてくれれば充分だから。ね、レイちゃん」
「……この悪魔め」
 俺を捕まえた師匠が俺に課した様々な「制約」と「義務」。それでこの女は一儲けしようと企んでいる。
 簡単に言えば、この女は「財産をため込んでる連中から根こそぎ奪ってくる」という、一歩間違えると大悪党な行いを、俺に押しつけている。あくまで「悪党狩りをする冒険者」という名目で。初仕事となる今回はカサンドラ一味の財産が目当てだったわけだが……今後はもっとエスカレートするんだろうな。
 ただ代わりに……師匠は俺の「力」を強化する助力を惜しまない、という交換条件を持ち出した。それが数多手渡されている魔具であり、「制約」と引き替えた能力アップだ。
 制約は俺が借りた魔具や得た力で悪さをしない為の「枷」にもなるようにと……「悪党にしか通用しない」という、半ば呪いに近い制約(ギアス)が掛けられた。むろんこの制約、呪いを掛けた師匠の「目論見」あってのものだが。
 ああそうそう。俺が「悪魔」よばわりするもう一つの理由がある。それは……
「それじゃ……はい、これがレイちゃんの取り分ね」
「……ちょっと待て、いくら何でも少なすぎだろ」
 渡されたのは宝石類一つかみ分……俺が持ち帰ったのは、宝箱3箱相当の財宝だったのにだ。
「そんなことないわよ。だいたい、あなたにあげている魔具や、それにこれから用意するカサンドラちゃんの装備にだってお金がかかるのよ?」
 言い分は確かにその通りだが、それにしたってな……
「こっちは命がけで、しかもいつ裏切るか判らない眷属をずっと従えるんだぞ……その保証分、上乗せしても良いだろ」
「ひっどぉい、ねえカサンドラちゃん、アイツんな事言ってるわよ」
「……」
 いや、そんな悲しげに俺を見るなカサンドラ……
「ああもういい、判った。だが、次はこんな分け前じゃ納得しないからな!」
「なら全体量が増える仕事を探しましょうか……いきなりドラゴンでも相手にする?」
「……悪魔め」
 守銭奴ではない……と夫婦そろって言うが、そんなことはないだろどう考えてもよ……
「ったく……帰るぞカサンドラ」
「ああ……」
 口論したところで不利なのは俺一人。長居しても仕方ない。俺達はそろって、館を出ようと振り返った。
「ああレイリー君……」
 そんな俺を、旦那の方が呼び止めて耳打ちする。
「カサンドラさんの事、大事にしてあげなよ……掛かりが弱いのは、むしろ幸運だったと僕は思うな……」
 ……そうか? まあ……粗末にするつもりはないけどさ……
「なあ主……」
「……ん?」
 館を出てしばらくして、カサンドラが声を掛けてくる。俺は俺より大きなカサンドラを軽く見上げながら返事をした。
「……その、帰ったら……さ。色々と……なんだ……」
 ……頬を赤らめ、その頬を指で掻きながら曖昧な言葉ばかりを呟くカサンドラ。
 なんか……可愛いな、こいつ。
「……お前も淫魔になったんだ。潰れるまでやるぞ、いいな?」
「あっ……ああ! 頼むよ主!」
 自分の眷属に欲情するものなのか……なんにしても俺は今、カサンドラを抱きたいと強く想う。何時裏切られるか判らないが……今はとにかくコイツが可愛くて仕方ない。無骨で非道……だけど義理堅く、大柄な癖にちょっと照れ屋……こういう女、いいよな。俺もやっと童貞捨てられたんだ、初めての女、初めての眷属とやりまくってやる!
 そうだ! 裏切られないために……やれることがあるな
「カサンドラ……やるときだけで良い。その時だけは俺を「ご主人様」と呼べ」
「は? まあ……主が望むならかまわないが……」
 そうだよ……俺はインキュバスでコイツはサキュバス……淫魔同士の繋がりといえば、性交。その上で主従関係となれば……調教! これだ、これに限る!
「くっくっく……そうと決まれば、色々用意しないとな……」
「……主?」
「カサンドラ、ちょっと「買い物」をしてから帰るぞ」
 僅かとはいえ、収入も得た。これで色々……まぁ全てを準備するには足りないが、どうせこれからも「悪党狩り」は続く。稼ぎながら揃えればいいさ。それにカサンドラのような眷属も増えるなら、その都度全員を調教していかなければならないし……いいぞ、これは新たな楽しみが増えたな!
 師匠の旦那が俺に言った言葉……たぶん彼の意図とは違うんだろうが、確かにこの楽しみは「掛かりが弱い」からこそのものだな。いいぞいいぞ、俺の人生上向きじゃないか!
 さて、カサンドラはどう調教してやろうかな……ちょっと露出狂の気があったかな? いや、まずは羞恥系の調教からやるか……くっくっく、俺はこれからのプランを練りつつ、夜の街へととけ込んでいった。

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